表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/45

〈ギガンテス〉討伐戦1

「よ、ショウ。奴さんの様子はどうだ?」

「動き出した当初よりもかなりゆっくりとした速度で移動していますね。位置的には、『吸血庭園』を出て少し南西に移動……かつての中央本線を越えたところです」

 ショウに近づき声をかけたのは、ベテラン発掘者であるクノ・ゲンタロウ。ショウにしてみれば、発掘者としての師匠とも言うべき人物である。

 カワサキ・シェルターから〈ギガンテス〉の様子を引き続き観察するように命じられたショウは、トーキョー遺跡に留まっていた。

 そこへ、援軍としてゲンタロウのチームが派遣されたのである。

 しかも、派遣されたのはゲンタロウたちだけではなく、カワサキ・シェルターの防衛組織である「KSST」の約三分の一の戦力と、〈ギガンテス〉討伐という依頼を請けた発掘者チームや傭兵たちもいる。

 この〈ギガンテス〉討伐チームの指揮を執るのは、「KSST」の総隊長であるスズキ・カツトという元自衛官であり、今はカワサキ・シェルターの防衛主任でもある。

「団長がおまえのことを呼んでいる。発掘者たちの代表も集めての作戦会議だそうだ」

 ゲンタロウの言う「団長」とは、カツトの通り名である。カワサキ・シェルターの建設期からカワサキの防衛を任されてきた彼は、多くの人々から信頼されている。

「〈ギガンテス〉に関しては、おまえらが一番詳しいからな。作戦会議では、おまえらの知る情報が重要な要素になるだろうぜ」

 にやりと男臭い笑みを浮かべたゲンタロウと共に、ショウはイチカたち《ジョカ》を連れて作戦会議場へと赴いた。


◆◆◆


「なるほど。ご苦労だったな、ショウ」

 ショウからの報告を聞き、〈ギガンテス〉討伐部隊の指揮官であるスズキ・カツトは、その厳つい顔に柔らかな笑みを浮かべた。

 その後、カツトは居並ぶ面々を順に見回しながら、言葉を続けた。

「〈ギガンテス〉が植物の【インビジリアン】なのは、ほぼ間違いないだろう。であれば、火や炎はある程度効果があると思われる。これは過去に存在した植物型【インビジリアン】との戦闘データから導き出したことだ」

「そうは言うがな、カツトよぉ。【インビジブル】やそれに感染して変異した【インビジリアン】が、熱に高い耐性を持っているのは常識だぜぇ?」

 ゲンタロウの言葉に、カツトはこれまで世界各地で得られた植物型【インビジリアン】との戦闘データを表示しながら説明する。

「確かに、【インビジブル】ってのは熱に強い。なんせ、大気圏を突っ切って地球に落ちて来たんだからな。だが、植物に感染して変異した植物型【インビジリアン】は、炎に弱いってデータがあるのも事実だ」

 詳しい生態などの研究があまり進んでいない【インビジブル】、および【インビジブル】が感染したことで変異する【インビジリアン】だが、【パンデミック】以降繰り返し行われ、集積された戦闘データから見えてくるものもある。

 植物型【インビジリアン】が、例外的に炎に弱いというのもそんな戦闘データのひとつだ。

 中には炎に対して高い耐性を持つ植物型も確認されているが、大半の植物型は炎に弱いのは周知の事実である。

「ってこたぁ、何か? ナパーム弾でも使おうってか?」

「確かにナパームがあれば話は早いんだがなぁ。材料の問題などからさすがに急遽ナパームを作ることは無理だったので、代わりにテルミット焼夷弾を用意した」

 そう言いながらカツトが取り出したのは、ボックス型の携帯式四連装ロケットランチャー。ムーヴィなどでよく見かけるタイプだ。

 焼夷弾とは、通常の爆弾のように対象を爆破するのではなく、燃料を用いて対象を焼き払うことを目的とした兵器である。

 焼夷弾には様々な種類があるが、今回カワサキ・シェルターの上層部が用意したのは、テルミット反応──金属酸化物と金属アルミニウムとの粉末混合物を着火させ、アルミニウムが金属酸化物を還元する際に発する高温を利用したもの──を用いたテルミット焼夷弾だ。

「とは言え、こちらもそうそう都合よく何発も焼夷弾を用意することはできなかったので、20発ぐらいしか持ってこられなかった。つまり、こいつらを外したら後はねえってわけだ。本音を言えば戦車やヘリなどの大型兵器があれば良かったんだが、【パンデミック】の時はそんなモンを持ち出す余裕も用途もなかったからなぁ」

 【パンデミック】発生当時、ウイリアムやカツトたちが必要とした武器は、拳銃やライフル、SMGなどの個人で運用できる武器だった。

 これは敵である【インビジリアン】のほとんどが人間サイズ──大きくても全長3メートルぐらいまでだった──であり、戦車などの大型戦闘車両は必要とはしなかったためである。

 【パンデミック】が発生した2075年当時、横浜に存在した海上自衛隊横須賀地方総監部や、海上自衛隊自衛艦隊司令部はその名の通り海上自衛隊の施設であり、各種艦船や観測用のヘリは配備されていても戦車などの地上兵器は配備されていなかった。

 また、当時は入手できる資源も限られており、戦車やヘリなどは燃料やメンテナンスなどの面から無用の長物でしかなく、素人が気軽に運用できるような物でもないこともあって、たとえそれらの兵器類が横浜の自衛隊施設に配備されていたとしても、誰も手を出そうとはしなかっただろう。

「ま、ないモンを考えても仕方ねえやな。しかし20発……四連装ロケットランチャー五基分しかないってわけか」

「ゲンタロウの言う通りだ。この少ない弾数を絶対命中させるためには、事前にちょいと工夫が必要だろう。なんせ、〈ギガンテス〉は近づくものを感知すると振動を発して破壊しようとするからな」

 そう告げたカツトは、その視線をショウへと向けた。

「だが、ショウが何度も偵察してくれた結果、〈ギガンテス〉が振動を発する器官を突き止めてくれた。まずはその振動発生器官を破壊する。おう、アレ持ってこい」

 カツトが部下に命じて持って来させたのは、超巨大なライフルだった。

「20mm弾を使用する対戦車(マテリアル)ライフルだ。これで振動発生器官を狙撃する。できるか?」

 カツトは、ショウを見つめた。いや、正確には、彼の傍に静かに佇む黒髪の女性を、だ。

「任せろ。必ず狙撃を成功させてみせる」

 黒髪の女性──フタバは、微笑みながらはっきりとそう告げた。


◆◆◆


「これまでの数回の偵察の結果、〈ギガンテス〉が連続して振動を放つ際、9秒弱……正確には8.754秒のラグが発生することが判明しました」

 ショウたちがドローンを使い、何度も偵察を行った際の映像を流しながら、突き止めた事実をイチカが報告する。

「つまり、〈ギガンテス〉に敢えて一回振動を発生させ、その8秒ちょいの間に黒髪のお姉ちゃんが振動発生器官を狙撃する、ってぇ寸法か」

 イチカの報告を聞いたゲンタロウは、腕を組みながらそう呟いた。

「そして、振動発生器官を破壊した後、本命の焼夷弾を全弾ぶち込む……ってのが、今回の作戦の流れだな」

 囮のドローンを〈ギガンテス〉に接近させ、振動を発生させる。その直後にフタバが20mm対戦車ライフルで三か所ある振動発生器官を全て狙撃して破壊、ゲンタロウたちロケットランチャーを装備した部隊が、指揮官であるカツトの命令で一斉に焼夷弾を放つ。

 それが〈ギガンテス〉討伐作戦──『ファイヤーストーム作戦』という呼称が命名された──の内容だ。

「ちょっといいかい、団長?」

 手を挙げて発言を求めたのは、今回の作戦に参加する傭兵の一人だった。

「『ファイヤーストーム作戦』の概要は分かった。だが、肝心要の狙撃を、そこの小娘に任せる理由を聞きたい」

 その傭兵の言葉に、何人もの同業者や発掘者が頷く。様々な経験を積み、年齢も重ねた彼らからすれば、「小娘」と言えるフタバの戦闘能力を疑うのも当然だろう。

「あのお姉ちゃんに狙撃を任せるのは、カワサキの上層部……特に代表を務めるウイリアムからの指示だ。俺を始めとしたカワサキの上層部が、あのお姉ちゃんの実力を認めている。それだけじゃ不服か?」

 ぎろり、とカツトが傭兵たちを一瞥する。傭兵や発掘者たちも、カツトやウイリアムの実力は理解している。その彼らが名指しで指示する以上、フタバがそれだけの実力を秘めているのは間違いないだろう。

 それが理解できても、この指示に素直に従えない者もいた。

「もしも、俺の指示に従えないというのであれば、今の時点でこの作戦から降りろ。俺の権限で特別に違約金はナシにしてやるからよ」

 司令官であるカツトの指示に納得できない者は、作戦の足を引っ張りかねない。それぐらいなら最初からいないほうがいい。

 そう考えて、カツトは更に眼光鋭く一同を見回した。

 カワサキ・シェルターの防衛責任者であるカツトは、《ジョカ》たちの秘密を知る一人だ。そのため、イチカたちを見た目で侮るようなことはしない。

 なお、ウイリアムは旧知のゲンタロウにも《ジョカ》のことを話そうとしたのだが、それを止めたのがこのカツトである。「ゲンタロウは信頼できる奴だが、酒に酔うと口が軽くなるからなぁ」というのがその理由である。

 カツトの言葉の後、数名の傭兵と発掘者が「ファイヤーストーム作戦」を辞退した。おそらく彼らは、作戦の失敗を考えてカワサキ以外のシェルターへと流れていくのだろう。

 本来、一度受けた依頼を辞退するには、違約金が必要となる。特に今回のような大掛かりな作戦ともなれば、契約金、成功報酬と大きな額となるため、違約金もそれに応じて高額になる。

 だが、カツトが特例で違約金はゼロでいいと認めたため、作戦に不満を抱く者たちは遠慮なく立ち去っていったのだ。

「他に何か言いたいことがある奴はいるか? いるなら今の内に言っておけ。これ以降はいかなる苦言苦情も受け付けないからそう思え!」

 誰も何も言わないことを確認したカツトは改めて宣言する。

「これより、『ファイヤーストーム作戦』を開始する! 各員、速やかに持ち場へと展開せよ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今話は『ファイヤーストーム作戦』の準備回でありましたが、動き出した〈ギガンテス〉も止まっているようでした。さて作戦は上手く行くのか……。 誤字・脱字等の報告 一件報告しました。 参考意見です。 ①…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ