表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/45

偵察準備

「んじゃま、いつものように偵察から始めるとしますかね」

 そう言って仲間を見回したのは、四十代と思しき男性だ。

 彼の名前はクノ・ゲンタロウ。カワサキ・シェルターの建設期から活動している超ベテランの発掘者である。

 彼の周囲にいる数名もまた、ゲンタロウと同時期から共に発掘者として活動する者たちばかりであり、彼らは名実ともにカワサキ・シェルターにおけるトップクラスの発掘者チームだ。

 発掘候補のエリアに到達したら、まずはドローンを使って周囲を偵察するのが彼らの流儀であり、今回もいつものようにまずはドローンを飛ばす準備を行う。

「ゲンタロウ、準備完了だ。いつでもいいぜ」

「おっしゃ! じゃあ、飛ばしてくれ。映像の記録も忘れんなよ?」

 仲間に笑いかけ、ゲンタロウは車両(ビークル)内に設置された大型のモニターへと目を向ける。

 彼らが愛用するのは、大型トレーラータイプの車両だ。

 人員もさることながら、発掘に必要な物資を大量に積めるし、発見した発掘品も多数持ち帰ることができる。

 更には十分な情報収集機器も積んであり、まずはドローンを飛ばして周囲を探り、その様子を車両からモニタリングするのがゲンタロウたちの流儀であった。

「車両周囲に敵影なし。もう少し偵察範囲を広げるか?」

「そうしてくれ」

 ゲンタロウはそう指示する。彼らが使うドローンは全部で四機。複数人で操作を担当し、それぞれ別方向へと飛ばして周囲を探っていく。

「車両を中心に、半径1キロ圏内に敵影なし」

「よし、三番機の高度を上げて、上空から俯瞰してみてくれ」

「了解」

 四台設置されたモニターの一つに映し出される映像が、どんどんとその視点を上げていく。

 すぐにその視点は周囲に乱立する廃ビルを越え、遠方まで見渡せるようになる。

 だが、その直後だ。突然、三番機から送られてくる映像が途切れたのは。

「何があったっ!?」

「三番機が何かに撃墜された! 攻撃してきたモノ、攻撃方法、共に不明!」

「記録した映像を確認しろ! 撃墜された瞬間に何か映っているかもしれねぇ!」

 そうして、彼らは見る。

 ドローンが撃墜される直前、巨大な「ナニか」が確かに映っていたことを。


◇◇◇


「…………とまあ、そんな具合よぉ」

 肩を竦めながら、ゲンタロウはその時のことをショウに語った。

 ウイリアムより〈ギガンテス〉の情報収集を依頼されたショウは、まずは第一発見者とも言うべきゲンタロウに話を聞くことにした。

 彼はシェルター建設期からウイリアムの友人であり、同時にショウの発掘者としての師匠でもある。

「で、こいつぁ一大事と判断した俺は、すぐに発掘を中断してカワサキに戻り、この映像をリアムに見せたってワケだぁ」

「ちょっと前に『冒険者ギルド』でギルドマスターから、トーキョーに巨大な何かがいるって話は聞いていたけど……」

「あー、そりゃあ、もしかすっと、ウチの連中の誰かが酔っぱらった勢いで話しちまったのかもなぁ。あん時ぁ、まだ口止めされる前だったしよぅ」

「つまり、ゲンタロウさんのチームの誰かじゃなくて、ゲンタロウさん本人がうっかり漏らしたってことか?」

「さぁてなぁ? なんせかなり酔っぱらっていたしよぉ。よく覚えていねぇんだわ」

 がはははは、と笑うゲンタロウ。

 彼は昔からかなりいい加減なところがある。それはショウもよく知っていた。

 それでいて、発掘者としてはトップクラスの実力を誇っているのだ。ゲンタロウいわく、「運と仲間に恵まれただけ」らしいが。

「じゃあ、あの映像以上のことはゲンタロウさんたちにも分からないか……」

「役に立てなくて済まんなぁ」

 ショウたちがいるのは、カワサキ・シェルターの運営本部の一室。

 そこで、ゲンタロウから話を聞いていたのだ。

 共にいるのはイチカ。ショウが自宅へと連絡し、ここまで来てもらった。情報の収集と分析は彼女の専門分野である。ゲンタロウの話はイチカも聞いておいた方がいいとショウは判断した。

 そのイチカとショウを何度も見比べ、ゲンタロウはにやにやとした笑みを浮かべる。

「おいショウ、まぁた、えらい別嬪の嫁さんを捕まえやがったなぁ」

「彼女は嫁じゃないぞ、ゲンタロウさん」

「はい、わたくしはショウ様の伴侶ではありません。ショウ様の伴侶となる女性は、現時点ではアイナ様が最もその可能性が高いと分析しております」

「がはははははは! そうか、そうか! アイナの嬢ちゃんがショウの嫁か! そりゃあ、リアムの奴も喜ぶだろうよ!」

 一通り豪快に笑ったゲンタロウは、真面目な表情を浮かべてショウに言う。

「キャロルのことはワシもリアムから聞いている。だから、ちょいと心配だったんだわ。このままおまえが、他人を信じることができなくなるんじゃねぇかってなぁ」

 ゲンタロウに子供はいない。妻はいたが、【パンデミック】中に【インビジブル】に感染して命を落としている。

 だから彼にとって幼い頃からよく知っているショウは、弟子であると同時に息子のようなものだった。

「嫁だろうが、単なる知り合いだろうがいいさ。イチカって言ったか? こいつのこと、よろしく頼まぁ」

「はい、お任せください、ゲンタロウ様。ショウ様のことはわたくしが……いえ、わたくしたち姉妹がしっかりとサポートいたします」

 そう言うイチカに、ゲンタロウは満足そうに何度も頷く。

「なあ、ショウ。今回の件、儂にできることがあれば協力するぞ。遠慮なく何でも言えや」

「ああ。ゲンタロウさんたちの力が必要な時は、ためらわずに頼らせてもらうよ」

「そうしろ。儂の仲間だけじゃなく、知り合い連中にも声をかけておくから、人手が必要ならいつでも頼ってこい」

 男臭い笑みを浮かべたゲンタロウは、ショウの肩を叩いた。


◆◆◆


「さて、作戦会議といこうか」

 自宅へと戻ったショウとイチカは、リビングにてこれからの行動方針を相談することにした。

 〈ギガンテス〉やゲンタロウとの会話などは、イチカを通して既にフタバ、ミサキとも共有してある。

「ここで相談して大丈夫ですかー? アイナ様にも内緒にするのでは?」

「アイナの今日の勤務シフトは、夕方前から明日の朝までだ。アイナのことだから、昼過ぎには職場に向かっただろうが」

「確かに、アイナは昼過ぎに家を出て行ったな」

 肩を竦めるショウと、微笑むフタバ。イチカ、フタバ、ミサキは、アイナのことをよく分かっているショウに内心で感心する。

「今後の俺たちの方針だが、まずは〈ギガンテス〉とやらの情報を何でもいいから集めようと思う。現時点では、遠くから見た姿しか情報はないからな」

「〈ギガンテス〉がどのような生物……つまり、どんな生物が【インビジブル】に感染したのかを探るわけですね?」

「イチカの言う通りだ。【インビジリアン】は、その姿を見れば元の生物が何だったのか大体分かるものだ。だから、まずは〈ギガンテス〉をはっきりと視認する。それが第一歩だ」

 まずはその姿を視認する。それがショウの定めた第一目標だった。

「あのー、ご主人様? ひとつ疑問なのですー」

 ミサキがひょいと右手を挙げながら尋ねる。

「こうしている間にも、たくさんの発掘者がトーキョー遺跡に入っていると思うのですが、【ギガンテス】を目撃したって話が彼らからどんどん広まったりはしませんかねー?」

「オヤジが言うには、ゲンタロウさんたち以外に【ギガンテス】を目撃したという話はないそうだ」

 現在、ウイリアムたちカワサキ・シェルターの首脳陣が把握している限り、〈ギガンテス〉の目撃情報はゲンタロウたちだけ。

 もちろん、カワサキの首脳陣たちが把握していないだけで、〈ギガンテス〉を目撃した、もしくは遭遇したという発掘者はいるかもしれない。

「一度、『冒険者ギルド』のギルマスに聞いてみちゃどうだ? あの親父、発掘者たちの間の噂には詳しいからなぁ」

 と、ゲンタロウも言っていたことだし、一度「冒険者ギルド」へ行ってみるのもいいだろう。

「いきなり接近するのは危険だと思うぞ? まずは、そのゲンタロウという人物がやったように、ドローンなどで遠隔偵察を行うことを勧める」

「フタバの言う通りだな。イチカ、ドローンは何機まで一斉操作可能だ?」

「ドローンのオートモードを利用しながらであれば、一度に三十機まで管理できます。オートモードを使わず、全てわたくしが操作するのなら、十機までなら問題なく管理可能でしょう」

 ゲンタロウのチームは一度に四機のドローンを使って偵察を行うが、それは一機につき一人のオペレーターが管理している。

 それを考えれば、一度に十機まで管理可能なイチカはやはり規格外と言えるだろう。

「とはいえ、さすがに十機ものドローンを購入するのは資金的に厳しいな。オヤジに言えば、何機が都合してくれるとは思うが……」

 配信系発掘者などが自身の配信で利用する撮影用ドローンは、近距離限定でオート撮影するタイプが多く、値段もそれほど高くはない。

 だが、戦場で偵察に用いるような遠距離まで操作可能で、なおかつ高精度のカメラを搭載したドローンは、どうしても高価になってしまう。

 今回は遠距離から〈ギガンテス〉を偵察するのが目的である以上、近距離用のドローンでは意味をなさない。

「近距離用を、ボクが改造しましょうか?」

「ミサキの案もひとつの手段だが、時間をかけるわけにもいかないからな。今回はオヤジ……いや、カワサキ・シェルターから支援物資として偵察用ドローンを何機か都合してもらうように交渉してみよう」

 もしも、カワサキ・シェルターからドローンを都合してもらえないならば、二、三機ほど購入し、すぐにでも〈ギガンテス〉偵察に向かう。

 偵察用ドローンは今後も活用できるだろうし、無駄な投資にはならないだろう、とショウは内心で考えていた。

「では、準備が整い次第、〈ギガンテス〉の偵察に向かう。三人とも、準備を進めてくれ」

「承知いたしました、ショウ様」

「イエス、マスター」

「はーい、今回もがんばりまーす!」

 三人はそれぞれ、ショウに対して返事をする。

 こうして、〈ギガンテス〉偵察の準備は迅速に進められ、二日後にショウたちはカワサキ・シェルターを出てトーキョー遺跡へと向かうのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
『ドローン』という言葉もいつの間にか一般的になった感がありますが、この世界でも同様であるらしい。そして、それらを複数機も管理できるイチカも規格外という事か。ただ設定で外部頭脳がある設定だと記憶している…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ