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進化


「そもそもだね、そんな巨大な怪物がどうして今まで発見されなかったのかね? 推定全長が10メートル以上? そんな大きな生物が実在するならば、とっくに誰かが気づいているはずだろう?」

 カワサキ・シェルターの首脳陣に対し、そう言い放ったのは小柄でひょろりと線が細く、ついでに髪の毛も薄い男性だった。

 彼の名前はザイゼン・ケイゴ(39歳・独身)。カワサキ・シェルターの財務部門を取り纏める人物である。

「仮にその巨大な怪物が……先ほどの映像がフェイクや合成の類ではなく、本当に実在するとして、だ。その〈ギガンテス〉とやらが危険な存在とは限らないのではないか? 下手に刺激しなければ、トーキョー遺跡から出て来ないのでは?」

「確かに、その可能性もある。だが、【インビジリアン】は生態や思考などいまだ不明なことばかりの生き物だ。そんなモノを放置しておく方が危険だと思うがね、オレは」

「そうは言うがね、フィッシャーマン代表。この国には『藪をつついて蛇を出す』という言葉もあることだ。下手に刺激しない方がいいと私は考えるね」

 このザイゼン・ケイゴという人物は、頭脳明晰で人当たりもよく、部下たちからの信頼も篤くてカワサキの首脳陣の一人として申し分ない人物だが、根っからの臆病者という面も持ち合わせていた。

 そんなケイゴからしてみれば、カワサキ・シェルターに未知の巨大【インビジリアン】が迫るかもしれない、というのは我慢できないほどの恐怖だろう。

 実際、今の時点で既にケイゴは顔色を悪くし、落ち着きなく周囲に目を走らせながら、愛用の黒縁眼鏡を何度も押し上げていた。

「映像に関して言えば、合成の類じゃないことは僕が断言しますよ」

 と、コウスケが横から口を挟む。

「ショウのチームメイトであるイチカにも協力してもらい、例の映像を分析した結果、あれは紛れもない真実であり、フェイクなどではないことが証明されました」

「ふむ、イチカが分析したンなら、間違いねぇだろうな」

「誰だね、そのイチカとやらは?」

 イチカたち《ジョカ・シリーズ》のことを知らないケイゴが、むすっとした表情で尋ねる。

 《ジョカ・シリーズ》のことは、カワサキの首脳陣全員が知っているわけではない。

 ウイリアムが彼ら全員を信頼していないから、というわけではなく、単に真相を知る者は可能な限り少ない方がいいだろうと判断したからだ。

 結果、《ジョカ・シリーズ》を分析する必要があった技術班や電子・通信班、そして化学・薬品班、シェルターの防衛を担当する司令官など必要最低限の限られた人物だけが、《ジョカ・シリーズ》のことを知っているのが現状である。

 よって、シェルターの経理を担当するケイゴは、イチカたちのことを知らないのだ。

「イチカは、最近カワサキに来た人物で、情報分析に極めて秀でたお姉ちゃんだ。あと、すっげー美人だぜ?」

「フィッシャーマン代表……最後の情報、今は関係あるかね?」

 そうは言いながら、ケイゴの眉がぴくぴくと揺れる。

 39歳・独身である彼にとって、「美人」という言葉はそれなりに刺さるものがあるようだ。

「とにかく、イチカの情報解析能力は、明らかに僕以上だからね。それに、ゲンタロウさんのような超ベテラン発掘者が、わざわざフェイク映像をシェルターの運営部へ提出する理由がないですよ」

「そ、それはそうだが……」

 コウスケの言葉に、ゲンゴも頷くしかない。彼もカワサキの首脳陣の一人として、ゲンタロウが信頼できる人物であることをよく知っているからだ。

「だ、だが、〈ギガンテス〉はどうして今まで発見されなかった?」

「それに関して、ひとつ意見があります」

 挙手をしつつ、そう発言したのは化学・薬品部門の責任者であるフジムラ・アカネだった。

 彼女はフレームレスの眼鏡の奥にある瞳に理知的な光を宿しながら、集まっている一同をぐるりと見回した。

「どんな意見だ、アカネ?」

「〈ギガンテス〉の存在が最近まで明らかになっていなかったのは、これまで〈ギガンテス〉が休眠期、もしくは最近になって体が巨大化したからではないでしょうか」

「休眠期ってのは……まあ、分からなくもないが、最近巨大化したってのはどうよ? これまで、そんな話は聞いたこともねぇぜ?」

「最近、海外のシェルターから流れてきた情報……いえ、噂があるんだけどね」


◆◆◆


「ってこたぁ、何か? 【インビジリアン】は、ゲームのキャラのように『進化』するってのか?」

 アカネが入手した情報──確度はあくまでも噂程度──によると、【インビジリアン】は何らかの要因でその姿を大きく変えることがある、というものだった。

 姿が変わる要因が何なのか、全ての【インビジリアン】が姿を変える可能性があるのか、不確定な点は数多いし、確固たる証拠があるわけでもない。

 また、現代では海外との交流は極めて難しい。幸いにもカワサキ・シェルターはウイリアムの伝手で、旧アメリカのとあるシェルターと通信衛星を用いた情報交流を得ているのだが、アカネが入手した情報はそのシェルターからのもののようだ。

「そうね。フィッシャーマン代表の言うゲームの『進化』に近い現象が、【インビジリアン】には起きるって噂があるの。もしもその話が本当なら……」

「トーキョー・ダンジョンの奥地で、ある【インビジリアン】が〈ギガンテス〉へ『進化』した、と?」

 あくまでも可能性の話だけど、と、アカネはウイリアムの言葉に付け加えた。

「……ヨコハマ遺跡の〈ヨコハマ・メトロ〉という大型【インビジリアン】の実例もある。もしも、本当に【インビジリアン】が『進化』をするのであれば、『ヨコハマ・メトロ』があそこまで巨大化した理由にもなるね」

 コウスケが、アカネの話を聞いて納得したように呟いた。

 彼が言う〈ヨコハマ・メトロ〉とは、ヨコハマ遺跡の地下を走るかつての横浜市営地下鉄(正式な名称は「横浜市高速鉄道」)の路線を「巣」にしている、巨大な地虫型【インビジリアン】のことである。

 この地虫型【インビジリアン】は、ミミズが【インビジブル】に感染して変異した存在だと言われているのだが、いくらなんでもミミズがその名称通り地下鉄数車両分もの巨体を持つまでに至るのは考えづらいとも言われてきた。

 だが、【インビジリアン】が「進化」するのだとしたら、ミミズが地下鉄数車両分まで巨大化することに一応なりとも説明がつくだろう。

 ちなみに、この〈ヨコハマ・メトロ〉は巨大過ぎて倒すこともできず、また、旧横浜市営地下鉄の路線内から外へ出ることもないため、現在は完全に放置されている。

「そ、そうだとも! コウスケくんが言うように〈ヨコハマ・メトロ〉の例もある! ここはひとつ、〈ギガンテス〉はしばらく様子見ということでどうかね、フィッシャーマン代表?」

 と、ケイゴに話を振られたウイリアムは、その悪人顔をさらに険しくさせて、何やら考え込む。

 そして。

「まずは〈ギガンテス〉が実在するかどうか確認する。まあ、ほぼ実在はしているだろうが、確認は必要だろう。そして、その後に〈ギガンテス〉の攻撃性も確かめたい」

 そう言ったウイリアムは、その視線をショウへと向けた。


◆◆◆


「つまり、オヤジは俺に威力偵察をしろと?」

「まあ、そんなところだ。おまえの《ベヒィモス》の戦闘力と機動性、そしてイチカの情報分析能力に期待してンだよ」

 現在のカワサキ・シェルターにおいて、最新鋭の戦闘車両はショウが所有する《ベヒィモス》である。

 カワサキ・シェルターにも防衛戦力があり、戦闘車両も何台か保有している。だが、性能面ではどれも《ベヒィモス》に劣るのだ。

 カワサキ・シェルターの防衛戦力は、その正式名称を「カワサキ・シェルター警備隊」といい、住民たちからは「KSST(キスト)」──Kawasaki Shelter Security Teamの略──、もしくは「自警団」と呼ばれている。

 「カワサキ・シェルター警備隊」は防衛戦力であると同時に、シェルター内の治安維持を担う警察組織でもある。

 シェルターを防衛するために十分な戦力を有するが、それでも所属車両の性能は《ベヒィモス》に及ぶには至らない。

 また、戦場におけるイチカの情報収集能力を最大限に活かすには、彼女たちのサポートを主眼に設計された《ベヒィモス》は必要不可欠だろう。

「もちろん、これはシェルターから発掘者であるアリサワ・ショウへの正式な依頼だ。車両(ビークル)の燃料や弾薬はこちら持ち、報酬も用意する」

「ま、待ちたまえ、フィッシャーマン代表! 先ほども言ったが、相手は未知の生物だ。下手に刺激しない方がいいのではないかね?」

「ケイゴの言うことにも一理あるだろう。だが、おまえの言う通りにするってことは、今後トーキョー遺跡での発掘が行えないってことになるぜ? そうなったら、カワサキ・シェルターはあっという間に干上がっちまうだろうさ」

 カワサキ・シェルターはその地理上、トーキョーとヨコハマという巨大な二つの遺跡に支えられていると言ってもいい。

 トーキョー遺跡で発掘される各種資源がなければ、五千人もの人口を抱えるカワサキ・シェルターが立ち行かなくなるまで、それほど長い時間を必要としないのは誰の目にも明らかだ。

 更に言えば、件の映像を見る限り、〈ギガンテス〉は何らかの遠距離攻撃手段を有していると思われる。

 トーキョー遺跡とカワサキ・シェルターの距離は、直線距離で20キロほど。〈ギガンテス〉が有する遠距離攻撃の射程距離次第では、トーキョー遺跡に座したままカワサキ・シェルターを攻撃できるかもしれない。

「何にしろ、オレたちにゃ情報がなさすぎる。まずは相手の……〈ギガンテス〉の情報を集めないことには何も始まらねぇとオレぁ考えるね」

 ウイリアムは居合わせた首脳陣をぐるりと見回す。どうやら、誰も彼の意見に異を唱える者はいないようだ。

「ショウ。方法は全て任せる。どんなものでもいいから、まずは〈ギガンテス〉の情報を集めてくれ。必要な物があれば何でも言え。可能な限り用意しよう」

「分かった、オヤジ……いや、フィッシャーマン代表。力の及ぶ限り、依頼を果たします」

 こうして。

 カワサキ・シェルターの存亡を懸けた、大きな作戦が開始されるのだった。




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― 新着の感想 ―
今度の作戦は〈ギガンテス〉に対する威力偵察ですか。まあ自警団より強力な《ベヒィモス》を有していたり、《ジョカ・シリーズ》を仲間にしていたりするショウが適任でしょあから……。今のところ敵の情報は朧気です…
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