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「スルガ屋」

 「スルガ屋」──正式な名称は「スルガ・ワークス」。

 カワサキ・シェルターの工業エリアに存在する、いわゆる「ジャンク屋」である。

 とはいえ、今のご時世はどんなジャンクも立派な資源だ。

 今から100年ほど前の時代、ジャンク屋の敷地内といえば廃車となった車が積み上げられていたものだが、そんな光景はもう見られない。

 ここ「スルガ・ワークス」には、大小様々なジャンク・パーツが少数、敷地内のあちこちに点在しているのみである。

 だが、そのジャンク・パーツの種類は実に豊富であった、パーツ自体は廃棄寸前の古ぼけた物ばかりだが、敷地内の全てのパーツをかき集めれば、車両(ビークル)が2、3台は組み上がるだろう。

 そうして組み上げた車両を、駆け出しの発掘者などに売り出して利益を得ているのだ。

 もちろん、どの車両もほぼ廃車寸前だが、ここで組み上げた格安の車両が新人たちにとって天の助けにも等しい存在であるのは言うまでもない。

「俺たちも発掘者デビューする前に、ここに来たよなぁ」

「だな。で、今使っているバイクを安く売ってもらったっけ」

 どこか疲れた様子のジェボクとユウジが言う。どうやら、彼らも新人の例に漏れず「スルガ屋」でお世話になったクチらしい。

 ショウは後輩二人とミサキを連れ、「スルガ屋」の入り口近くにある事務所へと向かう。

「誰かいるかい?」

「はーい、いらっしゃい……って、ショウさんじゃないか! 久し振りですね!」

 事務所から出て来たのは、ショウよりも少し若い18,19歳ぐらいの青年であり、ここ「スルガ・ワークス」の店主であるコウジロウの息子、ヨシキである。

「今日はどんなご用件で? もしかして、噂の装甲車を売ってくれるとか?」

 どうやら、彼の耳にもショウが装甲車を発掘したことは届いているらしい。

「残念だけど、装甲車(ベヒィモス)は売れないな。今日ここに来たのは、こいつらの車両に関してなんだ」

 ショウが親指で背後にいる後輩たちを指し示せば、ヨシキが意外そうな表情を浮かべた。

「ありゃ? ユウジとジェボクじゃん。どうしておまえらがショウさんと一緒に?」

「ん? 知り合いだったのか?」

「まあ、ユウジとジェボクは同い歳だし、ここいらで歳の近い連中は大抵知り合いですよ……って、何か二人ともすげー疲れているっぽい感じだけど、ホントどしたん?」

 元気のないユウジとジェボクに、ヨシキは首を傾げた。

「…………イチカさんのシゴキがキツくてさぁ…………」

「…………ホント、イチカさんきびしーっす……シゴキ抜かれたっす…………」

「は? シゴキ抜かれた? それにイチカさんって誰?」

「ショウ先輩の新しいチームメイトのお姉さんだ」

「すっげぇ美人だけど、すっげぇ厳しいんだよぉ」

「び、美人のお姉さんにきつくシゴいて抜いてもらっただとっ!?」

 ユウジたちの言葉を聞き、ヨシキがくわっと目を見開いた。

「な、なんて羨ましい……っ!!」

 何か、激しい勘違いがあったようだが。

「ふーん、お二人とも、イチカ姉さまのこと、そういうふうに見ていたんですねー。これは姉さまに気を付けるように言っておかないとー」

 にししっと笑うミサキ。もちろん誤解だということは充分理解しつつ、単にユウジたちをからかっているだけである。

「ち、ちちちちち違うっすよ、ミサキたん! 俺たち、イチカさんのこと、そんな目で見ていねーっすから!」

「そ、そうだよ、ミサキさん! ってか、おい、ヨシキ! おまえ、変なこと言うんじゃねーよ! ミサキさんが誤解するだろ!」

「ああああああっ!! よく見れば、ユウジとジェボクがすっげぇ可愛い子と一緒にいるだとぉっ!? こ、これはいよいよこの世の終わりかっ!? 明日にでも新たな【箱舟】が地球に到来するのかっ!?」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ男子三人組。そんな彼らを見て、ショウは呆れの溜息を吐いた。

「…………仲いいな、おまえら」


◆◆◆


「おいおい、店先で何を騒いでいるんだ?」

 男子三人組の騒ぎを聞きつけてか、店の奥から中年の男性がゆっくりと出て来た。

 年齢は四十代後半ぐらいか。

 でっぷりと太った体を作業用ツナギに押し込み、穏やかな表情を浮かべるこの男性が、ここ「スルガ・ワークス」の店主であるスルガ・コウジロウだ。

「おや、ショウくんじゃないか。久し振りだねぇ」

「ええ、ご無沙汰しています、コウジロウさん」

「いやぁ、最近は随分と活躍しているって聞いているよ。それで、今日は何の用だい?」

「実は……」

 ショウは「スルガ屋」に来た理由をコウジロウに話す。

「ああ、あの二人のバイク、とうとう動かなくなったかぁ。もっとも、新人の発掘者に廃車寸前の車両を売るのが、ウチの商売なんだけどねぇ。最近も息子の知り合いにワゴン車を格安で譲ったし」

「何言っているんだよ、父さん。あのワゴン車は実質タダだろ? どっかから仕入れた廃車のワゴンを、俺の修行代わりとか言って俺とあいつとで修理させたわけだし」

 どうやら、コウジロウは息子の技術向上のため、彼とその友人に廃車を修理させたようだ。

「はははは。まあ、いいじゃないか。彼も喜んでいたし、おまえの勉強にもなったしね」

「ったく、調子良すぎだってーの。あ、そうだ、ショウさん。俺の()()も最近発掘者デビューしたんですよ。もしもあいつが何か困ったら、そいつら同様に手を貸してもらえると助かります」

「まあ、俺にできる範囲ならな。それで、こいつらの件なんだが」

 ショウはミサキへと視線を向けた。

「では、ボクの方から具体的なことをお話ししますねー。まず、ユウジさんたちのバイクですが、先日の発掘で見つけたスクラップから抜き取ったパーツで──」

 ミサキの話を、コウジロウとヨシキが真剣な表情で聞く。

 ショウも多少は車両の修理に関する知識はあるが、三人の話は本格的すぎてさすがに理解が及ばない。

 それはジェボクとユウジも同じようで、二人は敷地内に転がっているパーツを勝手に漁り始めた。

「おまえら、勝手に売り物のパーツを漁るんじゃない。ああ、コウジロウさん、これ、ウチのオヤジからですけど」

 と、ショウが差し出したのは、もちろんブルーレイ・ディスクである。そのディスクが入ったパッケージを見て、コウジロウは目の色を変える。

「え? えええええええっ!? ど、どうしたんだい、これっ!?」

 ショウはブルーレイ・ディスクを発見した経緯と、それを養父であるウイリアムが買い取り、コウジロウに渡すように言われたことを説明した。

「おおおおお! さすがリアムさん、同好の士!」

 ウイリアム同様、ディスクのパッケージを見て顔を輝かせるコウジロウ。

 もちろん、彼も旧式のブルーレイ・ディスクのプレイヤーを所持している。コウジロウの場合は、とある発掘者がどこかで見つけた壊れたプレイヤーを買い取り、自分で修理したのだ。

「こんないいモノ貰っちゃった以上、こちらも誠意を見せないとね! よぉし、ユウジくんとジェボクくんのバイクは、僕が責任を持って直してあげようじゃないか! もちろん、無償でね!」

「おなしゃす、おやっさん!」

「さすが、おやっさん! 太っ腹っす! 実際、腹太いし!」

「あはははは! ジェボクくん、それは言わない約束でしょ!」

 上機嫌にぽんぽんと自分の腹を叩くコウジロウ。

 先日の発掘での利益、そして、懸念だった車両の修理。特に車両の修理がタダになったことは、彼らにはかなり大きいだろう。

「お二人、再起の足掛かりぐらいは掴んだみたいですねー」

「そうだな」

 そんな後輩たちを、ショウは穏やかな眼差しで見つめた。


◆◆◆


 その時だった。

 ショウのマルチデバイスが、けたたましく着信を告げたのは。

 このけたたましい着信音は、何らかの非常事態が発生した証である。そして、この非常事態を告げる発信者は、ここカワサキ・シェルターの代表を務めるウイリアムだけに限られている。

 つまり、これはウイリアムが()()ではなく、カワサキ・シェルターの代表という立場からショウへと送って寄こしたものなのだ。

「何があった、オヤジ?」

「おう、ショウか。オレも今聞かされたところなんだが、ちょいと困ったことが起こっちまってよぉ。このままだと、冗談抜きでカワサキ・シェルターが滅ぶかもしれねンだわ」




 これにて、第2章は終了。

 いつものように閑話を2話ほど差し込んだ後、第3章へと入っていきます(2話同時に投稿する予定)。


 引き続き、お付き合いいただけると幸いです。



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― 新着の感想 ―
「スルガ屋」こと「スルガ・ワークス」にやって来たショウたち。発掘した特撮のブルーレイ・ディスクは予想通りに良い仕事をした模様。この時代はジャンク品も良い資源であるため店の重要度も必然的に察せられるとい…
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