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遭遇戦

「ミサキたん! そのメイド服、さいっこーに可愛いっすね! 俺と組みませんかっ!?」

「馬鹿言え! ミサキさんは俺と組むんだよ! ミサキさん、メイド服、めっちゃ似合っています! 是非、俺と一緒に!」

「服を褒めてくれてありがとうございまーす。でも、一緒に組むのは嫌です」

 差し出されたどちらの手を取ることもなく、いつものように戦闘用メイド服を着たミサキは、シンクタイム・ゼロでジェボクとユウジを文字通り瞬殺した。

 がっくりと膝から崩れ落ち、おろおろと涙を零す二人を見て、ショウは呆れて溜息を吐く。

「馬鹿やってないでさっさと探索するぞ。俺とイチカ、フタバとミサキ、ユウジとジェボクの組でいいだろう」

「う…………うっす……」

「そうだよなぁ……普通、こうなるよなぁ……」

 よろよろと立ち上がった二人は、防弾防疫ヘルメットを被って《ベヒィモス》の外へ出る。

 いつもなら防弾防疫ヘルメットを被る必要のないイチカたちも、今日だけはしっかりと装備する。

 これも、彼女たちが人間ではないことがバレないようにするためだ。

 なお、後輩二人のヘルメットには、イチカが収集する各種情報をバイザー内に表示する機能はない。だが、発掘者仕様のヘルメットには無線が搭載されているので、連絡を取り合うことは難しくはないだろう。

「まずはあまり建物の中には入らず、一時間後にここに再集合だ」

 ショウの指示に、全員が頷いてそれぞれ活動を開始した。


◆◆◆


 現在ショウたちがいるのは旧JR荻窪駅から西荻窪駅方面に少し進んだ辺りで、かつて存在した荻窪税務署のやや南である。

 ここからなら、旧荻窪駅まで徒歩での移動も難しくはない。

 この辺りはいくつものマンションや商業ビルが立ち並び、かつては多くの人々が生活していたことが容易に推測できる。

「イチカ、センサー類に反応は?」

「何もありません。ですが……」

「ああ、分かっているよ。前回の〈アラクネ〉の件で、どれだけイチカのセンサーが優れていても、過信しては駄目だって痛感したからな」

 ヘルメットの中で苦笑するショウに、イチカは更に尋ねた。

「今回、ユウジさんとジェボクさんには、どれほどの援助を?」

「そうだな……少なくとも、得ることができた発掘品の半分はあいつらに渡そうと思っている」

 ショウも発掘者として活動し始めたばかりの時は、先輩発掘者たちからいろいろと助けてもらった。

 これは義父であるウイリアムが知り合いの発掘者に頼んでくれたからだが、それでもショウが先輩発掘者たちの世話になったことには変わりはない。

「だから、今度は俺があいつらを手助けしてやる番だ。そうすればきっといつか、あいつらも後輩を助ける時が来るだろう」

 発掘者には、彼らを支援・援助する組織はない。だが、発掘者同士の横の繋がりは思いのほか強固である。

 誰かが困れば、それを誰かが助ける。

 もちろん、誰彼構わず助けるわけではないし、中には険悪な間柄の者たちもいるだろう。だが、顔見知りや知り合いであれば、できる限り援助の手を差し伸べる。それが、発掘者たちの流儀なのだ。

 とはいえ、直接的な金銭援助は行われない。要らなくなった装備を格安、もしくは無料で譲渡したり、今のショウたちのように発掘に同行させて取り分を多めに渡したりするのが通例である。

「発掘品の取り分はそれでいいとして……後は、あいつらの()を何とかしてやりたいが──」

 ショウがそこまで言った時、連続する破裂音が響き渡った。

「銃声っ!? 方角はっ!?」

「ここから東北方向──ユウジさんたちが向かった方角ですっ!!」


◇◇◇


「この辺って、【パンデミック】前はかなり賑やかだったんだろうなぁ」

 ユウジは、旧荻窪駅へと続く通りの左右に並ぶ様々な店舗や建物などの跡を見て、思わずそう呟いた。

「は? 何、突然? 何か黄昏ちゃうような物でも()っけた?」

「そうじゃなくてさぁ。俺たちぐらいの世代だと、物心ついた頃にはもうシェルターで暮らしていただろ? こういうかつての都市ってのが、どんな感じだったのかなって」

 彼らぐらいの年齢だと、物心つくかつかないかぐらいに【パンデミック】が発生した。

 中には当時を覚えている者もいるかもしれないが、大半は既に記憶から消えているに違いない。

 だから、彼らはかつての東京を知らない。

 かつての川崎を知らない。

 かつての横浜を知らない。

 かつてこの地が、日本という名前で呼ばれていた国であったことさえも知らないのだ。

 もちろん、大人たちから当時の様子を聞いたことはあるし、映像などで見たこともある。それでも、彼らは「大都市」というものを体験したことがない。

「電車や地下鉄、バスが一日に何本も走っていて、たくさんの人が防疫装備もなく買い物したり、食べ歩きしたり……そんな光景を実際に見てみたかったなってさ」

「そうかぁ? 俺は今が結構楽しいから、そうは思わないな。ま、今は経済的に苦しいから、イマイチ楽しくないけどな」

「ジェボクらしいな、おい」

「だろ?」

 二人はヘルメットの奥で互いに笑い合う。

 その時だった。

 彼らが歩く通りの右手から、がさりという物音がしたのは。

 その音に反応し、二人は咄嗟に手にしていた9mm口径のサブマシンガン(SMG)を構える。

 ユウジもジェボクもできればライフルを購入したかったのだが、経済的な理由からライフルよりも安価な中古のSMGを購入し、愛用していた。

 中古品とはいえ、自分たちで念入りに整備し、これまで何度も共に死線を潜り抜けてきた相棒だ。信頼性と愛着だけはどんな銃火器にも負けていない。

 そんな頼もしい相棒をそれぞれに構え、ユウジとジェボクは息を止めて物音のした方を注視する。

「敵……【インビジリアン】か……?」

「だろうな……油断するなよ、ジェボク」

「ユウジこそな」

 二人はすり足でゆっくりと物音のした方へと近づく。

「パイセンに連絡した方がよくね?」

「だな。先輩に連絡を──」

 ユウジがそこまで言った時、建物の物陰から何かが飛び出してきた。

 青白く、硬質化、積層化した皮膚。大きさは子供ぐらいだが、その手には鋭い爪が伸びている。

 識別名(コードネーム)〈ゴブリン〉。

 【インビジリアン】の中では最弱に分類されるが、それでも侮れる相手ではない。

 しかも。

「ご、五体もいやがる……!」

「近づけさせるな! 撃て!」

 ユウジの言葉に、ジェボクは銃声で応える。

 二人が構えるSMGが吼え、〈ゴブリン〉たちに銃弾を叩き込む。

 だが、9mm口径のSMGではやや威力に欠けるのか。

 〈ゴブリン〉たちは銃撃を浴びても怯むことなく、ユウジたちに飛び掛かった。


◆◆◆


 〈ゴブリン〉の小柄な体が宙を舞う。

 小柄なだけに身軽な〈ゴブリン〉は、アクロバティックな動きを得意とする。

 左右に大きくステップし、時に上空へとジャンプしながら、様々な角度から獲物へと襲い掛かるのだ。

 素早く動く〈ゴブリン〉に対し、正確に銃弾を叩き込むのは簡単ではない。連射の利くSMGであることを考慮しても、そこそこの命中弾を与えているユウジとジェボクの射撃技術は決して低くはないだろう。

 ジャンプし、空中では身動きの取れない〈ゴブリン〉に、ジェボクが連続して弾丸を叩き込む。

 十数発の銃弾を受けて、空中の〈ゴブリン〉がその場に落下する。だが、その間に別の個体がジェボクに肉薄していた。

「ジェボクっ!!」

 仲間の危機にユウジが叫ぶ。だが、彼も接近する〈ゴブリン〉の相手をするのに手いっぱいで、ジェボクの援護をする余裕はない。

 その爪が届く距離まで接近した〈ゴブリン〉が、片腕を大きく振り上げる。その腕が下ろされた時、ジェボクが装備している安物の防具を鋭い爪が楽々と引き裂き、彼の皮膚と肉をも抉るだろう。

 ジェボクは覚悟を決めた。たとえ〈ゴブリン〉の爪に体を引き裂かれようとも、弾倉に残った全ての弾丸を、目の前の小さな【インビジリアン】に叩き込んでやろうと。

 〈ゴブリン〉の大きく裂けた口が、更に大きく、嫌らしく歪む。

 同時に。

 真横から側頭部に正確なヘッドショットを受け、その〈ゴブリン〉の体は大きく弾き飛ばされた。

「おまえたち無事かっ!?」

「大丈夫ですかっ!?」

 最初の銃声を聞きつけたフタバとミサキが、間一髪間に合ったのだ。

 もちろん、ヘッドショットを決めたのはフタバである。僅かに立ち止まったその一瞬で、ライフルの射撃モードを単発に変更し、正確に頭部に着弾させる技量は、人間ではまず不可能であろう。

 フタバが立ち止まって狙撃したその隙に、《ジョカ》最速の脚力を誇るミサキがジェボクとユウジに接近する。

 滑り込むような勢いで二人の前に立ち、PDWを連射するミサキ。

 ユウジたちの射撃技量も決して低くはないが、ミサキのそれは明らかに二人以上。

 弾倉(マガジン)内の弾丸を瞬く間に撃ち尽くしたミサキは、ジェボクたちには見えないほどの速度と正確さで弾倉をチェンジする。

「もう大丈夫です! すぐにご主人様たちも来ますからね!」

「マスターたちが来る前に、私たちで片付けてしまうがな」

「み、ミサキたん! 姉御!」

「た、助かったぁぁぁぁぁ」

 鉛玉の嵐に晒され、次々と倒されていく〈ゴブリン〉を見て、ジェボクとユウジは思わずその場に座り込む。

 いくら警戒していたとはいえ、突然の戦闘は必要以上の緊張を二人に強いていたようだ。

 そうしているうちにも、銃声が止む。丁度その時、ショウとイチカもこの場に合流した。

「敵と遭遇したのか?」

「ああ、〈ゴブリン〉が四体だ。イチカから連絡を受けて急行したが、大した脅威ではなかったな」

 ショウの問いにフタバがそう答えた時、放心して座り込んでいたユウジとジェボクがはっとした表情で顔を上げた。

「え……四体……って?」

「ご、〈ゴブリン〉は五体いたっす!」

 ユウジたちの声を聞き、ショウたちは再び銃器を構える。

 だが、彼らが再度戦闘態勢を整えるよりも僅かに早く、遠方より撃ち出された小さな生体弾丸が、ショウの体を捉えた。



 ようやく体調も回復しました。

 いやぁ、2週間近く発熱が続いたな(笑)。

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― 新着の感想 ―
嫌らしい動きをする〈ゴブリン〉ども。奴らは【インビジリアン】としては最弱に属するもののトリッキーな動きで翻弄する。そして救援にやって来たショウに小さな生体弾丸の凶弾が撃ち込まれた。果たしてショウの運命…
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