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新チーム結成

「およ! それに目をつけるとはなかなかいいセンスしてるねー!」

 ミサキが選んだメイド服。もちろん、この「天使の館」で取り扱っている以上、単なるメイド服であるわけがない。

「このメイド服、見た目こそ甘系だけど、防具としての性能はトップクラス! 高い防弾防刃能力と防放射能、摩擦や熱にも強いスグレモノ! 何よりやっぱ見た目がカワユイのが最の高! こりはもう買うっきゃないっしょっ!!」

 ちらり。

 エマがにまにまとした笑みを浮かべながらショウを見る。

 ちらり。

 ミサキもにっこりと微笑みながらショウを見る。

 二人の少女の、ある種の圧の篭った視線にショウは両手を上げた。

「分かった、分かった。ミサキの防具はそれでいい。イチカとフタバはどうする? 他のショップを見てから決めてもいいぞ?」

「そうですね……わたくしは別のお店を見てから決めようかと」

「私もそうしよう。ここにはカッコいい防具はあまり置いていないようだ」

 どうやら、イチカとフタバの好みに合う防具は見当たらないらしい。

「AIにもしっかりと好みがあるんだねぇ……ホント、どこまで高性能なのやら」

 と、アイナは感心と呆れを含んだ小さな呟きを零した。


◆◆◆


 その後、ショウたちは発掘者(サルベイジャー)ご用達の装備を扱う店舗をいくつか回り、イチカとフタバの防具も買い揃えた。

 イチカは一見するとビジネス用にも見える、ネイビーブルーの防弾防刃繊維のツーピース風のスーツを選択。

 膝上丈のスカートから伸びる、防刃繊維の黒いストッキングに包まれた美脚が世の男性たちの目を惹くだろう。

 フタバは黒系統の防弾防刃ツナギの上から、ダブル・ライダース風の強化プレート入りのジャケットを選んだ。

 足元を固めるブーツや、手を守る指ぬき手袋(グローブ)まで黒一色という妙な拘りをフタバは見せた。本人いわく、「カッコいい」から。

 また、目元を覆う黒いサングラスも購入した。

 彼女たち《ジョカ》の目には、対閃光用の遮光機能や偏光フィルターが内蔵されているので、本来ならサングラスなど不要である。

 だが、そこもまた、フタバなりの拘りらしい。もちろん、拘る理由は「カッコいい」からだ。

 ミサキは「天使の館」で購入した、モノトーン調のメイド服で、頭部にはホワイトブリムまで乗せる徹底ぶり。

 首元とブリムの端を飾る赤いリボンが、モノトーンの中でいい意味で目立っていた。

「…………思った以上に出費がかさんだな……」

「そだね……本当に大丈夫? 少しぐらいなら、アタシも手伝えるよ?」

 肩を落とし溜息を吐くショウを、隣に立つアイナが心配そうに見上げる。もちろん、彼女が心配しているのは、ショウの懐具合だ。

「正直、予算を少々オーバーしたが、まあ、大丈夫の範疇だな。その代わり、近日中に仕事をしないとならないが」

「それ、本当にお財布がぎりぎりだったんじゃ……」

 少々むっとした表情を見せるアイナに、ショウは苦笑し肩を竦めた。

「イチカたちとの連携の慣らしも必要だし、近々発掘にいくつもりだったんだ」

 今後、ショウはイチカたちとチームを組み、発掘者として活動していく。

 キャロラインと組んでいた時とは当然勝手も違うだろうし、連携などに慣れる時間も必要だろう。

 何より、ショウ自身が《ジョカ・シリーズ》の性能を完全に把握していないこともあり、新規装備の慣らしも兼ねた軽い仕事をする必要はある。

 怪我の療養でしばらく仕事から離れていたこともあり、体調と仕事勘を取り戻すという面でも、ショウは小手調べ的に発掘(サルベージ)をしてみるつもりだった。

「そうすると……この後に行くのは、やっぱりあそこ?」

「ああ、発掘者たちが集まる酒場(バー)──『冒険者ギルド』だ」


◆◆◆


 「冒険者ギルド」。

 それは、発掘者たちが集まり、情報交換や取り留めもない世間話、そして、「ギルドマスター」を自称する店主が、個人的に集めた仕事を斡旋するバーである。

 発掘者には、彼らを支援するような組織は特にない。そのため、発掘者には階級やランクといった格付けもなく、自発的に発掘へと赴き、仕事をしなければならない。

 とはいえ、何事にも事前準備というものは必要である。そこで、必然的に同業者たちが集まる場ができるようになり、そこでは様々な情報──確度の高いものからそうではないものまで──が交換され、発掘者たちはその情報を基にして仕事の準備をするのである。

 集めた情報を信じるかどうかは自己責任。実際、単なる噂程度の情報に踊らされ、二度と帰って来なかった者も少なくはない。

 情報の確度を高める技術や伝手もまた、上位の発掘者へと至る必須条件なのである。

 そんな情報収集などの事前準備をした後、現地で発掘した資源や物資はシェルターの公的買取機関で換金する。個人的に伝手などがあれば、そこへ売却することも可能であり、そちらの方が換金率は高くなりがちだ。

 時には顔見知りなどから個人的に仕事を依頼されることもあるが、それを受けるも断るも発掘者の自由。

 特別な後ろ盾を必要としないため、誰でも発掘者を名乗ることができる。

 最低限の装備さえあれば、誰でも発掘者として活動できる。

 だが、その成功率は決して高くはない。反面、一度の発掘で大金を得た者も確かに存在し、今日もまた、何人もの発掘者たちが危険な仕事へと赴いていく。そして、その中の何割かは二度と帰ってくることはないのだ。

 バー「冒険者ギルド」は、そんな発掘者たちが集まる場所のひとつである。

 店の名前は、あくまでも店主である「ギルマス」の趣味であり、店の中はごく普通のバーでしかない。

 もっとも、内装はファンタジーゲームなどに登場する酒場をイメージされており、やや薄暗い店内には、いつもファンタジー系の勇壮なゲームミュージックが流れている。

「お、誰かと思えばショウじゃねえか。もう怪我はいいのかよ?」

 「冒険者ギルド」へ足を踏み入れたショウに、顔馴染みの発掘者が声をかけてきた。

「今日はアイナも一緒か……って、おいおい、後ろにいる綺麗なお姉ちゃんたちは誰だよ? 最近キャロルに振られたばっかりだってのに、もう次の恋人を見つけやがったのか?」

 ショウはキャロラインと共にここ「冒険者ギルド」をよく利用しており、常連と呼べるほどには顔と名前が知られていた。

 そうなると、当然ショウとキャロラインの決別の噂が伝わるのも早かった。「冒険者ギルド」の常連たちの間では、どうして二人が別れたのか様々な憶測が飛び交ったものである。

 そして、アイナも時々はショウたちと共に、この店に顔を出している。彼女は医者であるため、仕事中に怪我をした発掘者がアイナの世話になる機会も多い。

 そもそも、女性の発掘者はかなり少ない。そうなると「冒険者ギルド」の常連は男客が必然的に多くなる。

 そんな中、若くて見た目もいいキャロラインとアイナは、常連たちの間では密かにアイドル的な存在として人気を集めていたのだ。

「え? ショウが新しい女を連れて来ただぁ?」

「ふざけんな! 今まででさえキャロルとアイナ先生を独り占めしていたくせに!」

「どうしてショウの奴にだけ女が集まるんだ? 俺、彼女いない歴が年齢と同じだってのに……おい、ショウ! 一発殴らせろ!」

 冷やかしなのか、それとも本気なのか。

 判断不能な怒号が「冒険者ギルド」の中を飛び交う。

 ショウもこの状況はある程度予想していたので、飛び交う怒号や嫉妬の声を全て無視してバーの奥へと足を進める。

「久しぶりだな、ギルマス」

 ショウが声をかけたのは、カウンターの奥でカクテルを作っていた人物。60代と思しきモンゴロイド系の男性で、本名などの経歴は誰も知らない「ギルドマスター」と自称するこの店のオーナーだ。

「よう、ショウ。噂は聞いているぜ? そっちのお嬢さんたちが、おまえの新しい仲間か?」

「ああ、訳あって彼女たちと組むことになったんだ」

「初めまして、ギルドマスター様。この度、ショウ様とチームを組むことになったイチカと申します。以後、お見知りおきを」

「フタバだ」

「はーい、ボクはミサキでーす!」

 ギルドマスターはイチカたちを見ても特に何も言わず、すぐに視線をショウへと戻した。

 ただし、ほんの僅かにギルドマスターの眉が揺れたのだが、それに気づいたのは誰もいなかった。

 いや、正確には《ジョカ》たちはその僅かな変化に気づいていたのだが、そのことに言及することはなかった。

「それで、今日は新チームの顔見せか?」

「まあ、そんなところだ。後は、最近何か気になるような情報はあるかい?」

 ショウは怪我の治療でしばらく仕事から離れていたので、情報通のギルドマスターから最新の情報を得ようと思っていた。

「そうだな……おっと、情報を渡すにもタダってわけにはいかないぞ?」

 と、ギルドマスターはにやりと笑う。ショウも彼の態度はいつものことなので、特に気にすることもなく酒を注文する。

 ショウはウイスキーのロック派、アイナは甘口のチューハイ派。この時代、本物のウイスキーやチューハイは極めて高価であり、ショウたちが口にするのは味をそっくりにした合成酒である。

 なお、ショウたち発掘者が稀に【パンデミック】以前の酒類を発掘することもあるが、酒類は愛好家たちに高く売れるため、発掘者たちの間では上級の発掘品として人気が高い。

「そっちのお嬢さんたちは、何か飲まないのか?」

「そうですね……では、わたくしたちには何かワインをお願いします」

 イチカがそう言うと、ギルドマスターはそれ以上何も言わずに注文された酒の準備をする。

 《ジョカ・シリーズ》は、当然ながら飲食を必要としない。だが、飲食自体は可能であり、味覚センサーも備わっている。

 これは主に、(ショウ)の毒見役を務めるためだ。ちなみに、飲食は可能でも消化吸収されるわけではないので、後で専用の排出口から飲食物を取り出す必要がある。

 そして、酒の準備を終えたギルドマスターは、ショウたちの前にそれぞれの注文品を置くと口を開き始めた。

「これはあくまでも噂だが、トーキョー遺跡で、巨人タイプの【インビジリアン】を見かけたって奴が何人もいるらしい」

「巨人? 〈オーガ〉タイプか?」

「いや、〈オーガ〉よりも更に大きいって話で、もしかしたら新種の可能性もあるそうだ。まあ、所詮は噂程度の確度でしかない話だがな。それ以外は、海ほたるの方がちょっと騒がしいってぐらいか?」

「海ほたる? あそこは特一級の〈巣穴〉だろう? もしかして、誰かがあそこに入り込んだのか?」

「さてな。そこまでは儂も知らんよ」

「トーキョー遺跡の『巨人』か……もし、その話が本当で、『巨人』が新種なら……」

「カワサキ・シェルターの行政部が、『巨人』を倒せば懸賞金を出すかもな。それに関しては、儂ではなくおまえたちの(ちち)(おや)に聞いた方が早かろうて」

 それもそうか、と納得したショウは、グラスの中のウイスキーの味を楽しみ始めた。




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― 新着の感想 ―
三「あ! ボク、これがいいですー!」 と、いたミサキが指差したのは。 ふわふわとしたフリルが多用された、「可愛い」メイド服であった。 エ「およ! お目が高い! 見た目こそ甘系だけど、防具としての性能は…
彼女たちの装備は無事に調ったようですが、予算をオーバーしてしまいましたか。やはりアンドロイドといっても年頃の女の子設定てすからね♪ 早速冒険をすることを余儀なくされたショウですが、先ずは情報収集が先で…
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