閑話 配信系発掘者 その1
「おはらいとー! もしくは、こんらいとー! ユウヅキ・ライトの『配信系発掘者のライブ・チャンネル』、今日から始まりまーす!」
俺の名前はユウヅキ・ライト。今も述べたように発掘者だ。ただし、その頭に「駆け出し」ってつくけどな。
つまり、俺はこれから発掘者を始める本当の新人ってわけだ。
全体的に銀色に染めつつも、前髪の一房だけ青く染めている髪と、シルバーフレームの眼鏡なのが俺のポイントかな。
カワサキ・シェルターで今日まで頑張って、ちょっとずつちょっとずつ金を貯め、何とか買い揃えた装備たち。
防弾防刃ツナギの上から、ローブっぽい印象の防弾コートを羽織る。色はどちらも、これから俺のイメージカラーになる予定の青だ。
俺的には、錬金術師をイメージしたコーデにしていたりする。
目の前に浮かぶオートモードのドローン・カメラに向かって、俺はにっこりと微笑む。
「俺のことは、気軽に『ライくん』とか『ライちゃん』とかって呼んでね! もちろん、他のニックネームでも可! いいなって思えたニックネームがあったら公式採用するんで、何か思いついたらどんどんメッセージ送ってねー」
手首に装備したマルチデバイスにちらりと視線を送れば、この配信の同接数は8。まあ、知名度なんて全くない、デビューしたばかりの配信者のチャンネルなんてこんなものだろう。
同接数なんて、これからどんどん増やしていけばいいのさ。
「お、さっそくメッセージを送ってくださった方がいまーす。えっと……『空飛ぶ幽霊船と書いてベイダザックと読む』さん。長いからベイダさんでいいかな? そのベイダさんのメッセージは──『これ、何するチャンネル?』うんうん、いい質問だね!」
俺は待ってましたとばかりに、カメラに向かって微笑む。
「みなさん、発掘者って知っているかな? 発掘者っていうのは、今では廃墟となった旧東京や旧横浜に行って、生活に必要な物資や資源を引き揚げる人たちのことを言います。え? 知っているって? そりゃそうだよねー」
コメント欄に、「知ってる」「常識」「俺がその発掘者だし」というメッセージが並ぶ。
うんうん、接続数は少なくとも、リアクションは悪くないな。もしかすると、いいリスナーに当たったのかもしれない。
「で、ですね。俺は今日からその発掘者としてデビューするんです! それで、デビューと併せて、実際の発掘の様子をライブ中継していこうと思って、このチャンネルを開設しましたー」
「がんばれー」「発掘は簡単じゃねーぞ! 発掘なめるな!」「なんかすぐ死にそう」といったメッセージがコメント欄を流れていく。
肯定的なメッセージもあれば、否定的なメッセージもある。これは当然な反応だろう。
否定的な反応ばかりだからといってそこで挫けちゃいけない。俺はとある先輩配信者からそう教わった。
否定的でも反応があるだけマシと思え。本当に心が折れるのは、全く反応がないことだ、とその先輩は言っていたっけ。
俺は先輩の教えを反芻しながら、カメラに向かって話しかける
「ご存じのように、発掘者が向かう廃墟には、凶悪な【インビジリアン】がうろついています。そんな危険な【インビジリアン】を時に掻い潜り、時に打ち倒し、時にやり過ごしながら価値のある物、シェルターでの生活に役立つ物を発掘するのが発掘者です。もちろん、危険に対する保険は一切ありませんから、発掘中に命を落とす発掘者も少なくはありません」
発掘者を始めるにあたり、俺は何人もの発掘者から話を聞いた。まあ、俺の実家が飲食店なんで、常連の発掘者さんたちから聞いたんだけどね。
常連さんによると、実際に帰ってこない発掘者はそれなりにいるらしい。シェルターの外……いわゆる荒野は無法地帯なので、自分の身は自分で守るのが鉄則。
それができない、もしくは自信がないのなら、シェルターから出ちゃいけない、と常連さんたちは言っていた。
それでもなお、俺は発掘者になりたいと思った。子供の頃からそんな常連さんたちの話を聞いている内に、俺も発掘者になりたいと思ったんだ。
幸い……というか、俺には兄がいる。兄が実家を継ぐ予定なので、俺は俺で生活していく必要がある。
ならば、子供の頃からの夢だった発掘者になろう、俺はそう決めたわけなんだ。
◆◆◆
「『発掘者になりたいけど、どうしたらいい?』『発掘者って何か資格が必要?』『発掘者ってランクとかあるの?』などなど、いろいろな疑問にもお答えしつつ、これから発掘者になろう、発掘者になりたいと考えている人の参考になれば、とも思っているので、質問などあればお寄せいただけると嬉しいですねー」
「参考にさせてもらいます」とか「大怪我する前に止めておけ」とかメッセージが来る。うんうん、どんな内容でも反応があるってのはやっぱりいいね!
「えっと他には……『エロい格好した女の子と一緒に配信しろ』? いや、それができたら最初っからやってるって! こうして一人で配信している現状で察してくれ!」
ホント、女の子と一緒に配信したら、絶対に接続数も視聴数も伸びるんだろうけどなぁ。残念ながら、俺には一緒に配信してくれる女の子に伝手はないんだ。
そういや、ウチに来る常連の発掘者が言っていたんだけど、最近美人な三姉妹とチームを組んだ男性発掘者がいるとか……どうしたらそんな幸運に巡り逢えるのか、是非教えて欲しい! 切に!
「え、えー、気を取り直して、『どんな装備で発掘に行く予定?』これはバンゾンさんからのメッセージだね。バンゾンさん! よくぞ聞いてくれました!」
俺はどどーんと手にした銃器をカメラの前に突き出す。
「カワサキ・シェルター、銃器工房『ノルドストライク』製のフルオート・ショットガン〈NDS227-12G〉! このショットガンは、かの有名なAA-12のコンセプトを引き継いで設計されているんだぜ! 12ゲージ弾を通常のボックス弾倉なら8発、ドラム弾倉なら30発も装填可能!」
購入する際に試射させてもらったけど、反動も驚くほど少なくて制御しやすかったので、メインの火器はこれに決めた。
反面、値段の方はそれなりにしたけど、後悔はしていない。していないったらしていないんだ!
「常連さんが言うには、『天使の館』って工房の銃がいいらしいから、その店にも行ってみたんだけど……ちょーっと店の外見がねぇ……男一人じゃ入りづらくてさぁ……」
うん、あのファンシーな外観の店、俺一人じゃちょっと無理。
そこで、「天使の館」と同じぐらい評判の良かった「ノルドストライク」に行ってみたってわけ。
「他にも、『ノルドストライク』製の拳銃〈NDS45-SS〉も購入したぜ! もちろん、今着ている防具もね!」
カメラを引いて、俺の全身が映るようにする。
青を基調としたお気に入りの防具は、視聴者たちにもなかなか好評だった。
もちろん、中には「全然似合ってねえ」ってメッセージもあったけど、自分ではこの防具はとても気に入っているから、そういう意見は気にしない方向で。
「それから、お次はこれだ!」
俺はカメラをパンさせ、今までフレーム外にあったそれを映す。
「これが俺の愛車! ワゴンタイプの車両だ! 見た目はちょっと古いけど、ボディの剛性はたっぷりで、足回りも頑丈なんだぜ!」
このワゴン、知り合いから廃車寸前だったのをもらい受け、自動車整備の仕事をしている友人と一緒にちょっとずつ直したんだ。
友人もおもしろがって協力してくれたし、今回の発掘で何か見つけたら、その売り上げで食事でも奢ってやろう。
そういや、修理したこのワゴンを登録しにシェルターの行政機関に行った時、すっげぇでっかい装甲車が駐っていたっけ。
火力高そうなガトリング砲とか付いていたし、きっとあれ、シェルターの警備隊である KSST──Kawasaki Shelter Security Teamの略──に配備される装甲車なんだろうな。
ちなみに、シェルターの住民たちは、KSSTのことは親しみを込めて「自警団」と呼んでいるし、そっちの方が通りがいい。
いつか俺もあんなすげぇ装甲車を手に入れて、荒野を爆走してやるぜ!
◆◆◆
「さあ! そろそろ発掘に出発しようかと思いまーす。今日はトーキョー汚染エリア、通称トーキョー遺跡で発掘する予定です! 現地までちょーっと時間がかかるけど、良かったらそのままご視聴してもらえると嬉しいです! 道中もあれこれと話題を振っていきたいと考えていますし、何かあれば是非是非メッセージをお願いします。では、これより出発します!」
俺はワゴンに乗り込むと、エンジンを始動させる。
シェルター内なら電気モーター式でも充分なんだけど、荒野を走るなら電気式よりもパワーのある水素式の方がいいと友人が言ったので、モーターからエンジンに乗せ換えた。
いよいよ、これから俺の発掘者としての人生が始まるのだ。
俺は期待に胸を膨らませながら、ぐっとアクセルを踏み込んだ。
この閑話に登場させた「ユウヅキ・ライト」は、実在するVTuberである「悠月ライト」さんを、ご本人の許可を得た上でモデルにさせていただきました。
「悠月ライト」さんのことが気になったら、ネットで検索してみよう!
ライトさん! これから閑話ではライトさんの分身を活躍させるからね(笑)!




