2/ロウ・カーナン -4 獣耳
写真屋で登録証に顔写真を刻印してもらったのち、借り上げた平屋へと帰宅した。
サンストプラにおける写真とは、灯術によって目の前の光景を金属板に投影し、それをなぞるように炎術でもって焼き入れていくというもので、アナログどころか手作業に近いものだった。
しかし、完成した金属写真はかなり精密なものだ。
俺たちを担当した写真術士の腕が良かったのかもしれない。
迷宮に挑む準備を整えたかったが、残る所持金はたったの十二ラッド。
一シーグルは二十ラッドだから、一ラッドは約十円。
自販機で缶ジュースが買えるか買えないか、といった金額しか残っていなかった。
「ふー」
ヤーエルヘルが帽子を脱ぐ。
頭頂部の獣耳が、可愛らしくぴこぴこと動いた。
「これ、蒸れるのでしよね。できたらかぶってたくないのでしけど、仕方なくて」
「──…………」
じ、と。
ヤーエルヘルの獣耳を見つめる。
「?」
ヤーエルヘルが小首をかしげた。
「カタナさん、どうしました? やっぱり物珍しいのでし?」
「まあな。なにせ、俺の世界だと、けもみみって架空の存在だったから」
「けもみみ……」
「わ、わたしも、見ていい……?」
「私にも見せてくれ。亜人と会うのは初めてなものでな」
「い、いいでしけど……」
俺たちの圧に、ヤーエルヘルが一歩引く。
「──………………」
「──……」
「──…………」
じー。
俺たちの視線が獣耳に集中する。
「その……」
ヤーエルヘルが、たまらず両手で獣耳を隠した。
「そんなに見られると、恥ずかしい、でし……」
「うッ」
今のは、可愛い。
「か、かわ……」
プルも同じ意見のようだった。
「うう」
ヤーエルヘルの顔が真っ赤になっていく。
ヘレジナが素朴な疑問を口にした。
「ところで、本来耳があるべき部分はどうなっているのだ?」
「……ひ、人の耳もありまし」
ヤーエルヘルが、ふわふわした横髪をどけてみせる。
「なるほど、四つ耳解釈か」
創作物ならともかく、現実ではこうして髪をどけることができてしまうからな。
こちらのほうが自然に感じる。
「おかげで耳は純人間よりいいでし。帽子を取ったら、でしが」
「不思議なものだな……」
ふと疑問が湧き、ヤーエルヘルの背後を覗き込んだ。
「しっぽはないのか?」
「ありましよ。でも、見せるの恥ずかしいでし。スカートまくれますし……」
「ああ、そりゃそうか」
仕方がない、見るのは諦めよう。
プルのパンツみたいに勝手に見えるものならばともかく、女児にスカートをめくってみせろと言うのはラインを越えた変態だ。
「命拾いしたな、カタナ。見せろだなどと世迷い言を口にしていれば、朝まで特訓コースだったぞ」
「か、かたなは、そんなへんなこと、言わない、……よ?」
「言わん言わん。これでも良識ある大人のつもりだぞ」
「うん、うん」
プルが得意げに頷く。
信頼されているのは、素直に嬉しい。
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