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1/ベイアナット -12 爆砕術

 所持金は僅か。

 だが、取らぬ狸の皮算用で、日持ちのする食材をたっぷり買い込んでしまった。

「わ、わたし、仕込みに入りまっす……。や、ヤーエルヘル、がんばって!」

「はい!」

 ぱたぱたと手を振りながら平屋へ入ろうとして、

「──ふぎゃん!」

 段差に足を引っ掛け、プルが派手に転倒する。

 なるほど、今日はピンクか。

「だっ! だだだ、大丈夫でしか……!」

 ヤーエルヘルが、慌ててプルを抱き起こしに行く。

「ら、らいりょぶ、だいじょうぶ……」

 プルがいくら転んでも平気な理由は、奇跡級の治癒術にある。

〈転ぶ!〉と思ったら反射的に治癒術が発動するらしく、怪我をする前から治癒に入るので、そもそも大して痛くもないのだと言っていた。

 忠実な従者であるヘレジナも、助け起こす際は怪我の心配よりまずスカートを直すことを優先するので、脊髄反射の治癒術への信頼度が窺い知れる。

 ヤーエルヘルに気遣われながら、プルが扉の向こうへ消えていく。

「では──」

 ヘレジナが、ヤーエルヘルへと向き直る。

「ヤーエルヘル、お前の実力を見せてもらいたい。お前はいったい、何ができる。師に何を教わった?」

 軽く唾を飲み込んでから、ヤーエルヘルが答える。

「あちしは、徒弟級の魔術士でし。専門は爆砕術でし」

「……?」

 ふと疑問が湧いて出た。

 俺の様子に気が付いたのか、ヘレジナが解説を入れてくれる。

「爆砕術とは、火法系統、炎術の応用魔術だ。火薬との相似魔術と言えば、カタナにも伝わるだろう」

「──ああ、いや。そっちはわかる。言葉の響きでな」

「では、何を疑問に思ったのだ?」

「この世界の人らって、ほとんど全員魔術が使えるんだろ。なのに、わざわざ魔術士って分類を作ってる。それが不思議だったんだよ」

「そういうことか」

 小さく頷き、ヘレジナが答える。

「一般人が日常生活を送るためには、炎術、灯術、操術があれば事足りる。魔術士とは、それ以外の専門性の高い魔術を扱う人間のことを指す。プルさまは治癒術士だが、広義の魔術士でもある」

「あー、なるほどな」

「?」

 今度はヤーエルヘルが小首をかしげる番だった。

「この世界──でしか?」

 特に隠す理由もない。

「俺、このサンストプラの人間じゃないんだよ」

「サンストプラ以外にも世界があるんでしか……」

「あるみたいだな。実際、詳しいことは俺にもわかってないけども」

 パン、パン。

 ヘレジナが両手を打ち鳴らす。

「お喋りは後だ。ヤーエルヘル、お前の魔術を見せてみろ」

「はい……」

 ヤーエルヘルが、数瞬ばかり目を閉じ、意識を集中させる。

 そして、

「はッ!」

 右手の人差し指と中指とを揃え、数メートル先に落ちていた小石へと向けた。

 指先から放たれた火花が、パチパチと爆ぜながら一直線に走る。

 火の粉が触れた瞬間、


 ──ボンッ!


 小石が弾け、粉々になった。

「おー」

 炎術以外の攻撃魔術って、初めて見たな。

「ふむ」

 ヘレジナが頷き、言葉を継ぐ。

「では、次に威力と精度を測る。可能な限り遠くの標的を、可能な限りの威力で爆砕してみろ」

「えと」

 ヤーエルヘルが、戸惑いながら言う。

「いまのが精一杯だったのでしが……」

「……んえ?」

 ヘレジナが間の抜けた声を上げた。

「しみません、徒弟級でしので……。威力は上げられるのでしが、そうすると、どこへ飛ぶのかわからなくて」

 ヘレジナが、呟くように言った。

「……早まったか……」

「ごめんなし……」

 雲行きが怪しくなってきたな。

 俺にも責任があるし、ここは助け船を出しておこう。

「いや、十分だろ。まともに食らえば骨折くらいはする。強力過ぎても使いどころなんざないし、攻撃手段が一つ増えたくらいに考えようぜ」

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