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2/ハノンソル -18 ハノンソル・カジノの長い夜(5/10)

「こちらの部屋で、しばらくお待ち下さい」

 そう告げて、ディーラーが退室していく。

 ハノンソルの地下に広がる広大なカジノフロアに、さらなる下層があることを、どれほどの人間が認知しているのだろうか。

 俺たちが案内された部屋は、どこかリゾートホテルを彷彿とさせる一室だった。

 だが、部屋の中央に鎮座する扇形のカジノテーブルが、ここがくつろぐための場所ではないのだと主張している。

 カゴに盛り合わせてあったフルーツを勝手に貪り食いながら、ナクルが口を開いた。

「まず、最低限の利益を確定するぞ。もし負けたとしても、それ以上は絶対に手を出さないって金額を決めておくんだ。オレは、学費の三千があればいい。兄ちゃんたちは?」

「俺は、上着を取り戻せれば、それで構わない。二千だな」

「わ、わたしは、お金はべつに……」

「なら、五千と端数は別に取り分けておく。それでいいな。チップはプルの姉ちゃんが持っとけ」

「は、はい!」

 ナクルがプルにチップを渡す。

「んで、このフロアの参加料は、一勝負につき千シーグル──つってたな。貧乏人を馬鹿にすんのも大概にしろやって気分だぜ」

「千シーグルって、どのくらいの金額だ? いまいち金銭感覚が薄くてな」

 プルが、小さく首を横に振る。

「ちょ、ちょっと、わからない……かも」

「……あんたら、ほんと何者なんだ。ちょいと浮世離れし過ぎだぜ。まさか、どっかの王族とか言わねえよな」

 なかなか鋭いな。

「ま、深くは追求しねえよ。千シーグルつったら、ハノンで真っ当な職についても、稼ぐのに一月はかかる額だ」

 なるほど。

 単純に換算できるものでもないが、無理に当てはめるとするならば、日本円にして二、三十万円といったところだろう。

 そこから計算すると、1シーグルは二百円少々。

 ナクルがスったという五千シーグルは──

「ナクル」

「なんだ?」

「……ギャンブルはもうやめとけ。目標額は手に入るんだから、これ以上はいいだろ」

「わーってるよ。兄ちゃんみたいに頭のネジがぶっ飛んだ賭け方ができねえと、大勝ちなんて夢のまた夢だって痛感したからな。真面目に勉強して、さっさと灯術士になって、つつましく生きてくとするさ」

「ああ、それがいい」

 一発逆転なんて夢を見るから食いものにされる。

 結局、真面目に堅実に生きた人間がいちばん幸福なのだろう。

 もっとも、俺のように、ブラック企業に囚われて抜け出せなくなることもあるにはあるが。

「……あのさ」

 ナクルが、首の後ろを掻きながら言う。

「ルインライン=サディクル。あんたら、最初に会ったとき、その名前を出したよな」

「は、はい……」

「今なら、すこし思うんだ。あんたらが、ンなつまんねえ嘘をつくような人間とは思えねえ。だったら、本当に、ルインラインの連れなんじゃねーかってさ」

 以前から疑問に思っていたことを、ナクルにぶつけてみる。

「ルインラインって、どれだけ有名なんだ? 少なくともハノンでは、道行く人は全員知ってたみたいだけど」

「なんだって連れのあんたが知らないんだよ……」

 会ったばかりなのだから仕方がない。

「──まあ、いい。とにかく武勇伝には事欠かない人でな。スールゼンバッハの吊り橋。魔獣戦線。盗掘王との死闘に、ハディクル山の竜退治。このあたりの逸話は、パレ・ハラドナの周辺国に住む子供なら、寝物語に何度も聞かされてる。ガキが木の棒振ってりゃ、大抵はルインラインの真似事だ」

「へえ……」

 思った以上の知名度だ。

「俺は、リンドロンド遺跡でハサイ楽書と銀琴を手に入れた話がいちばん好きかな。ルインラインの逸話には作り話も多いから、ンな魔術具存在しないのかもしれねえけどさ」

「ハサイ楽書ってのは知らんけど、銀琴はあるぞ」

 俺がそう告げると、ナクルが目を輝かせた。

「マジで!」

「ああ。ルインラインの弟子に、危うく銀琴で殺されるところだったからな」

「……なんで?」

「いろいろあったんだよ」

 誤解だったとは言え、覗きだの下着泥棒だのという話は、十三歳の少年にはあまりしたくない。

「つーか、ルインラインに弟子なんかいたのかよ。初耳だ……」

「ヘレジナ=エーデルマン。あいつもとんでもない達人だよ。なにせ、流転の森で──」

 ヘレジナの武勇伝を語ろうとしたところで、フロア奥の扉が開いた。

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