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1/流転の森 -11 勇気

 逃げて、

 逃げて、

 逃げて、

 高台の下の茂みに身を隠す。


「か、かたな! ヘレジナが!」

「……ヘレジナが?」

 痛みをこらえて、へらへらと笑ってみせる。

 プルはまだ、俺の負傷に気付いていない。

「た、助けに戻らないと……!」

「ヘレジナ、……の、覚悟を、無為にするのか?」

「だって!」

 痛い。

 痛い。

 痛い。

 右肩が熱い。

 右肘がくすぐったい。

 人肌より熱い液体が、指の先から垂れ落ちている。

 だが、これはきっと罰だ。

 ヘレジナを見捨てる俺への、罰だ。

「ルインラ、……インが、来る。彼を、待つべきじゃあ、ないか……?」

「──…………」

 俺の言葉は正論だ。

 プルには反論できない。

 それがわかっていた。

 わかっていて、そう告げた。

「……う、……ああ……」

 プルが、その双眸から涙をこぼす。

 自らの無力を、自らが背負う業を、俺と同じように目の当たりにしたからだ。

 嗚呼、なんて浅ましい。

 俺は仲間が欲しかったんだ。

 人間という存在の底の底で、共に罪と後悔とを舐める誰かを求めていたのだ。

「ああ、……あああ、あああああ……──」

 プルの慟哭を聞きながら、俺は昏い喜びに浸っていた。

 俺たちは同じだ。

 情けなくて、くだらなくて、一人では歩くことすらできない。

 そんな、人の出来損ないだ。


 ──そう思っていた。


「……はッ、ぐ、……──ッ!」

 プルが歯を食い縛り、立ち上がる。

 溢れる涙を親指で跳ね飛ばし、高台の頂上を睨みつけて。

 慌てて制止する。

「ま、待て! 何するつもりだ!」

「ヘレジナを、助けに行く」

「無理だ! わかってるだろ!」

「……わかってる」

 プルが俺に笑ってみせる。

 乾いた笑いでも、誤魔化すような笑顔でも、すべてを諦めた微笑みでもない。

「それでも、行くんだ」

 彼女の表情にあったのは、決意。

 それ一つのみだった。


 俺は、

 不覚にも、

 そんな彼女のことを眩しいと思ってしまった。


「馬ッ、鹿……、野郎……!」

 行くな。

 俺を置いて行くな。

 最低なやつのまま、俺の隣にいてくれ。

 どこまでも自分勝手な叫びは、しかし、本当に勇気ある人間に届きはしない。

 プルが駆け出す。

 ヘレジナの元へ。

 俺は、

 俺は、その背中を──



【黄】このままプルを見送る


【赤】プルを追う


【黄】プルの足を掴む


【黄】様子を見る



 選択肢を精査しないまま、俺は反射的に手を伸ばした。

 プルの足を問答無用で掴む。

「ふぎゃん!?」

 プルが顔面から草むらに突っ込み、パンツが丸出しになった。

 だが、そんなことはどうでもいい。

「どうして。どうして、躊躇なく戻れる? どうして──」

 お前には勇気があって、俺にはないんだ。

「たた……」

 プルが鼻をさすりながら、こちらを振り返る。

「だって、大切、だから……」

 プルの瞳は、どこまでもまっすぐだった。

「ヘレジナは、家族だから」

「……──ああ」

 脳裏をよぎる、両親と妹の顔。

 そうか。

 そうなのかもしれない。

 家族のためなら、俺だって、命を賭けられるかもしれないな。

「……なあ、プル」

「はい」

「俺もさ。お前みたいに、カッコよくなれるかな……」

「……?」

 プルが小首をかしげてみせる。

「かたなは、もう、かっこいいよ。わたしたちを助けてくれた、から」

「──…………」

 そうか。

 こんな俺なんかでも、プルにはそう見えていたのか。

「……ははっ」

 漏れたのは諦観の笑みじゃない。

 だったら。

 俺のことをカッコいいと言ってくれる人が、一人でもいるのなら。

「──諦めるわけに行かなくなったじゃねえか!」

「かたな!」

 左手で頬を張り、気合いを入れ直す。

 俺の小賢しい脳味噌がようやく回転を始めた。

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