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そんな兄が僕に続けて言う。
「腰が悪くなる前は、兄ちゃん、けっこう何かと、うまくやっていたんだけど、ちょっと、ここのところ、仕事、忙しかったからなぁ…。」
「無理が祟ったんだね…。
兄ちゃん、もう少し良くなったら、また、痛みがぶり返さない程度に、もっと歩きなよ。
ウォーキング♪あくまで、兄ちゃんのペースでね♪」
「うん、ホント、そうするわ!」
兄は笑顔で、そう言い去っていった…。
僕は、それからベッドに入ると、
消灯して眠りに就いた。
意識がなくなる前に頭の中のみで、
考え事をしていた…。
もう随分まえの話になるが、
兄は、仕事の、うっぷんを帰宅後の大酒飲みでストレス解消していた時期があった。
夜に兄と二人で晩御飯を食べていたとき、
テレビで音楽番組を見ていた兄が真っ赤な顔で言う。
「ブルジョアの音楽だ…」
しどろもどろの口調で兄が言うには、
つまるところ、金を有り余るほど持っている人達が作り、発する音楽だという…。
兄は、そんな夜を、僕の前で何度か、さらした…。
僕は、兄が、そういう音楽を、そうは思わなくて、
兄に色々と言おうとしたのだが、
結局、兄には、何も言わず、
彼が、そのようなことを述べだしたら、
さっさと己のゴハンを食べ、自室に行くようにした…。
つまるところ、兄と距離を置いたのだ…。
ポップ、ロック、ヒップホップ、演歌、クラシック、レゲエ、クラブミュージック等々、僕は様々なジャンルの音楽を聴くのが好きだった。
僕は僕、兄は兄である…。
ところが、最近、音楽を聴いていると、
時たま、兄が言わんとしたことのニュアンスを
感じとることがあった…。
でも、それは、そこで終わりである…
そんな兄の言うことは分かるような気はするものの、
やはり、僕は色んな音楽を聴き続ける日々を続けた…。
僕から見て、兄は『変わり者』とまではいかないが、
個は強い男だと思う…。
兄は、僕の前で色々と発言するが、
僕は僕で、まずもって誰にも言わない、
ある信念があった…。
それは、『殺人』である。
『殺人』を肯定しないという信念だった。
そのことを、まずもって誰にも言ったことはない。
世の中に溢れているミステリー、サスペンス小説で、
それらは、フィクションだから、もう『殺人』は、
起こるわけだ。
僕は、もう、そこから、いただけないのである。
僕を含めて、まともな人は、
みんなと、うまくやっていくために、気をすり減らし、考えに考えて協力して、みんなで平和に暮らしていくよう、努力して生きている。
僕の中では、正当な『殺人』というのは皆無なのだ。
それでいて、いつか、
辛抱強く、それらサスペンス、ミステリー小説を始めから最後まで読むと、
『怨恨』は、その犯人の犯行理由として挙げられることは多く、
または、犯人が、『シリアルキラー』つまり、殺人に快楽を抱く者だったりする御話があるが、
そのような小説を読む度に僕は首をかしげて、
不快な思いをするのであった…。
そんな僕だから、
僕だからこそ、そうならない解決策は、あって
それらのミステリー、サスペンス小説は、
一切、手をつけないのである。
わざわざ、己から不快になりにいく必要はない…。
僕は、書店で、
新刊本を手に取るとき、帯に、
大まかな、あらすじに、
『惨殺死体、変死体が発見された…』とのような記述を見ると、それらは、すぐに棚に戻すのであった…。