プロローグ
(なろうには)初投稿、ビバなろう!
「今…なんと?」
聞き返す…聞き間違いであってくれ、幻聴であってくれという俺の切実な願いの籠もった言葉。
「別れてください」
しかし残念、現実は非常である。
見て分かる通り、俺は今とある喫茶店で恋人に別れ話を告げられている。
雪の様に白くて綺麗な長髪、エメラルドみたいな綺麗な緑色の瞳、鼻くっきりで目つき凛々しくて顔立ちサイコー! な美人中の美人。
それが俺の彼女、『白露瑞穂』だ。
そんな彼女に今現在進行系で俺は別れ話を切り出されていた、理由は一切不明。
「……なんで…ですかね?」
「付き合うのが嫌になったからですが?」
なんとかして理由を聞き出そうと繰り出した一言目、その後に寸分違わずに繰り出されたシンプルな一言、『付き合うのが嫌になった』……Watts?
「…すみません……もう一回言ってもらって良いです?」
「えぇ…貴方と付き合うのか嫌になりました」
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸に刀でも突き刺さったんじゃないかってくらいの衝撃が走った。
当然、恋の痛みとかそんなんじゃない、純粋な精神的ダメージである。
だって仕方がないじゃないか…男女間の交際問題でそれ言われちゃったらどうしようもないじゃん!?
なんで? どうして? と頭の中をグルグルと思考が巡っては戻って巡っては戻ってを繰り返す。
そんなことをしている場合ではないと分かってはいるけど、そんなことを考えられるだけの余裕が俺には無い。
「ではこれで」
「ちょっと待って!!」
椅子から立ち上がり、この場を離れようとする俺の………じゃなくなるかもしれない(血涙)彼女を呼び止める、思考とか一切関係無しの本能故の行動である。
「理由を…理由を教えてください、付き合うのが嫌になったその理由を」
理由を知らなきゃ話にならない、何か至らないことがあったならそれは全力で直す、直して許してもらう…俺はまだこの人と別れたくない。
「理由…理由ですか…」
瑞穂さんは俺の言葉を聞いて、ほんの少し小首を傾げた。
まるで俺が何を言っているのか分からないとでも言うように…だけどそれも少しの間で、彼女はすぐにあ〜と声を出して掌をぽんっと合点がいったように叩いた。
「申し訳ありません、勘違いさせてしまいましたね」
彼女はそう言って薄く笑みを浮かべ、真っ直ぐに俺のことを見つめた。
「まず前提として、今回の件において貴方に一切の非はありません、私は貴方という人間に対しては多少の文句こそありますが…それだけです、私は貴方を嫌っていません」
別れたいのは、本当に私の個人的な問題です……彼女はそう口にした。
それを聞いた時、正直俺は安心していた、俺が悪かったわけじゃないと知って心の底から安心していた。
不安だったのだ、俺が何かしてしまったのか、俺は何か彼女が不快になることをしてしまったのだろうかと。
けど違った、その事実は俺を安心させるには十分だった。
けど、そしたらそしたで気になる…嫌っているじゃないならなんで瑞穂さんは別れたいなんて言い出したんだろう?
そうした俺の疑問を感じ取ったのか、瑞穂さんは一度俺から目を逸らし、そして再び俺のことを真っ直ぐと見つめた…若干悲しそうな目をしながら。
「……好きな人が出来たんです」
ピシリッと、何かにヒビが入る音がした。
動きが止まる、身体が固まる、何も出来ずにただ瑞穂さんを見ることしか出来ない。
彼女は居心地が悪そうに顔を伏せていた、それもそうだろう…きっと誰だってそうだ、付き合ってる誰かに向けて他に好きな人が出来たと言うのだから、そうもなるだろう。
「…出来たん…ですか……好きな人が」
なんとか絞り出したその言葉、血でも吐くんじゃないかってくらいの力で絞り出した俺の言葉に、瑞穂さんは小さく『はい』と答えた。
それを見て分かってしまう、今の言葉は全て本当のことなのだと。
そして先程の言葉にも合点がいく、付き合うのが嫌になったっていうのは俺が嫌になったんじゃなくて、好きな人が出来たから付き合うのが嫌になったという意味だったのだと。
そもそもの話、告白したのは俺の方からだ、瑞穂さんはそれを受けてくれたに過ぎない。
当時、告白を受けてもらったことに浮ついてて気づかなかっただけで、多分瑞穂さんは俺のことが好きでもなんでも無かったのかもしれない。
ただ、一度受けた以上はすぐに別れるようなことはしなかっただけで…そんな律儀さが彼女にはある。
「……会わせてもらっても良いですか?」
「えっ?」
気付けば口が動いていた、多分納得出来なかったのだろう、俺は俺でも分かる程度にはしつこいから。
それに知りたいという気持ちもある、彼女が…白露瑞穂が好きになったという人間が、どういった人間なのか。
別れるなら、そのくらいのことは知っておきたい。
だから――
「会わせてください…その貴女が好きになった人に」
納得させてくれ、名前も知らない彼女の想い人。
「ぐすっ…ぐすっ」
俺は今、とある居酒屋にいる。
右手にビールを持ち、カウンターに頭を突っ伏しながら泣く俺の姿は傍から見たら情けないことこの上ないだろう。
「おいおい、大丈夫かい?」
そう言って俺のことを隣の席から心配そうに覗き込んでくるコイツは『新坂椿』、俺の友人だ。
黒い髪を短く切り揃えたボーイッシュな短髪に琥珀色の瞳が特徴の女、こいつも瑞穂さんに負けず劣らずの美人だ。
まぁ、こいつの場合は女の方にモテるタイプのやつなんだが。
「…全然大丈夫じゃない」
「ま、そうだろうね…振られたんだっけ? 彼女さんに」
彼女さんも見る目無いねぇと言ってクツクツと笑いながらグビッとビールを飲む、そんなこいつを見てると無性に腹が減ってくるのはなんでなんだろうなぁ…腹減った。
「阪堂さん、とんかつ定食とカツ丼一つずつ」
「あいよ…元気出せよ坊主、人生なんて別れ話でいっぱいだ」
そう言って料理を作るのはこの店の店主『阪堂智通』、気の良い人で気前も良い…こっちに来てばっかの頃に何度飯を奢ってもらい、その度にこの店で働いたことか。
「そうそう、気にしちゃいけないよ別れた彼女さんのことなんて…ところでどんな人だったんだい? その彼女さんが好きになった人って」
椿が俺の背中をポンポン叩きながら、瑞穂さんに出来た好きな人がどんな人間だったのかを眼をキラキラさせながら聞いてくる。
そうか、聞いちゃうのか…聞いちゃうんだなそれを。
俺が今こうして泣いてる時点で察して…は無理か、普通に振られただけだって思うもんな。
正直な話、言いたくない…言いたくないけど、言わなきゃこいつ絶対に自分で調べるから今言った方が被害が少ないから言う。
「………女の子だった」
「へっ?」
「だから、女の子だったんだよ…あの人が連れてきた好きな人って」
ポカンっとした顔をしている椿を見て、まぁそういう反応するよなと乾いた笑いが出る。
あの時、俺が瑞穂さんの好きな人に合わせてほしいと言ったすぐ後、瑞穂さんは俺の提案を飲んで誰かに連絡を取った。
簡潔に居場所を伝え、すぐに来てほしい旨を伝えてからすぐに通話を切り、想い人が来ることを俺に告げた。
そうしてやってきたのは、何処かの学校の制服を着込んだ一人の女の子だった。
確か、名前は――
「待って…女の子? 女の子連れてきたのその彼女さん?」
「…そうだよ、女の子に負けたんだよ俺……笑えるだろ?」
ポカンっとしていた椿が再起動を果たして俺に問いかけ、それに俺は寸分違わずに言葉を返した…ほぼ無意識的に出た言葉だったから、多分振られた後にずっと俺が内心で思ってたことなんだろうなぁこれ。
「いやいや笑えない、笑えないよそれは…君だって知ってるだろう? ボクがどれだけその手の問題に悩まされてきたかを」
あぁ、そうだった忘れてた…こいつ女の子にモテるんだった。
俺と椿が始めて会ったのは四年前、俺が確か……17歳くらいの頃だ…こいつはその頃からモテていた。
色んな女子に囲まれながらキャーキャーと黄色い悲鳴を上げられていて、それを若干困ったような顔で捌いていた…困っているということを周りに悟られないようにしながら。
まぁそんな感じでモテてたから、告白だってされていたのだ…全て断ってたけど。
当然その中には、今付き合っている彼氏と別れてまで告白してきた少女達も居て、そういった子達からの告白もこいつは断った。
そういう訳だから、こいつは男子達からそれはもう恨まれていたのだ、こいつは美人で可愛いけどそれはそれとして好きな女子も皆のアイドル的な存在も全部掻っ攫っていくから。
そういった経験があるから、椿は俺を真摯に案じてくれているのだろう…あれ、こんな重要なことを忘れてたとか俺って控えめに言って最低なのでは?
「ほら、カツ丼ととんかつ定食と一丁上がり!」
そうこう考えている内に、俺が頼んだ飯がきた…ヤバい、相変わらず凄く美味そう、溶き卵が金色でカツは狐色…じゅるり。
「フフフッ、いただきまっ………?」
あれ、なんか何時もよりカツの数とかが倍増されているような?
阪堂さんを見てみると…なんか凄い笑顔でこっちのこと見てる。
「今日は少しオマケだ…それ食って元気出せよ『蓮花』」
そう言って調理場の奥に引っ込む阪堂さんに深くお辞儀をしながら、俺は箸を持って改めて飯を食い始める。
あぁそうだ、因みに蓮花っていうのは俺の名前のことだ、『黒咲蓮花』…それが俺の名前だ。
黒く咲く蓮の花…こうして並べると厨二心が擽られるよな?
ガツガツと飯を食って、時折椿とか阪堂さんとか雑談して笑って、そしてまたガツガツと飯を食う…言ってしまえば居酒屋に良くある光景だけど、それでも失恋の痛みは消えた気がした。
飯を食い終わって会計を済ませる、また来いよと笑顔で言ってくれる阪堂さんにまた来ますと笑顔で返す…これ毎回言ってくれるから嬉しいんだよなぁホント。
椿はまだ残って酒を飲むらしかったから置いてきた、まだ飲もうよと言ってくるの丁重に断って俺は帰路に就いた、椿も俺を無理に引き止めることはしなかった。
また今度ね〜と伸び切った語尾で言ってくるアイツを見てると、なんだか悩んでた自分が馬鹿らしく思える、これも何時もだ。
帰路、夜の闇に覆われた怖い怖い帰り道、どっかのゲームだとこの途中で変な幽霊に襲われたりしてそれに追いかけ回されるのだが、そんなことは無い。
それに、辺りはビルでいっぱいで暗さなんて欠片も感じさせない、人集りもいっぱいでざわざわとうるさい…けど東京みたいなごった煮って感じじゃないのが不思議なところだよなぁ。
『次のニュースです、先日未明、身元不明の男性の遺体が――』
人集りを抜けて、一つのビルを見上げる。
そこに映し出されているのは何処かの誰かが死んだというニュースが流れている光景…そんなの別に珍しくもなんともない、誰もが見て誰もがあぁそうなんだと他人事の様に流され話題にもならない何時通りの光景、別に特筆することなんて無い。
ただし、それがテレビとかそういう映像を映し出す機具で映し出されたものではなく、『ホログラム』で映し出されたものである…ということ以外は。
あれを見てると、何時も思う……あぁ、やっぱり俺の居た場所とは違うんだなと。
慣れないのだ、もう四年も経ったのに、四年も触れてきたってのに、俺は未だにこの光景に慣れることが出来ていない。
まだテレビが最先端であることに感謝した、ホログラムだと映像がブレてちゃんと見れないからテレビの方が人気って事実に俺はとうしようなく感謝した。
だってそこらへんまでそうだと慣れるのにもっと掛かりそうだったから。
2XXX年、4月16日…俺は今その時間の元にここに立っている。
改めて自己紹介と行こう、俺の名前は黒咲蓮花…平成18年6月24日生まれの21歳、彼女居る歴二年で趣味は…色々。
四年前、高校二年生の時にこの何十年だが先の未来にタイムスリップしてしまったらしい、戸籍も身元を示せる物も何も持っていなかった身元不明の怪しい怪しい元迷子だ。
SFは難しい、ハッキリ分かんだね