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7)金色の記憶

「2年3組でーす。観察簿持ってきましたぁ」

「おー、ご苦労さん」

 和都がいつものように保健室の引き戸を開けると、デスクの椅子に座ったまま仁科がこちらを見た。

「はい、どうぞ。今日は寝坊してないみたいですね」

「そんなしょっちゅう寝坊しねぇよ」

 観察簿を受け取ってデスクに置くと、仁科は立ち上がってコーヒーを入れ始める。コーヒーのほろ苦い香りが小さく漂うと、不意に仁科が何か思い出したようにこちらを見て、

「あ、そうだ。今週の土曜行ける?」

「なに?」

「例の神社探し。中間テスト終わったろ」

「あ、行く! 行ける!」

 仁科の言葉に、和都はぱっと弾けるように反射的にそう答えた。

「じゃあどこか、分かりやすいとこで待ち合わせな。出来ればあんま目立たないとこがいーんだけど」

 休日に生徒と2人きりで、学校関連の用事以外で出掛けるというのは、正直な話、なかなかのリスクである。可能な限り人目につかない場所がいい。

「んー、駅裏の公園とか? 車道の傍にあるし」

「あーあそこかぁ。じゃあそこで。10時くらいでいい?」

「わかりました!」

 和都も思わず明るく答えてしまう。それを見て、仁科が少し呆れたように笑った。

 なぜならこれは、ただの楽しい外出ではない。

 和都のもつ特殊な『狛犬の目』のチカラは『鬼』から狙われており、その『鬼』から逃げる大事な手掛かりの1つ『白狛(しろこま)神社』を見つけるための外出だ。

 コーヒーに口をつけようとして、仁科はそうだった、とまた思い出す。もう1つの大事な日課がまだだった。

「……あ、忘れるとこだった」

「ん?」

 仁科は和都の目の前に立つと、少しだけ頭を屈めて、小さな額に軽く唇で触れる。仁科自身の持っている強い霊力(チカラ)を、分けてもらうために必要な日課だ。こうすることで、和都自身の鬼や悪い霊から身を守るチカラを少しずつだが強くできる。

「はい、今日の分な」

「……はぁい」

 最初は気恥ずかしさや戸惑いがあったのだが、

 ──すっかり慣れてしまった。

 自分の困ったチカラのためとはいえ、さすがに1ヶ月以上も続けば慣れてきてしまうようだ。

 ──……口は、やっぱ慣れないけどさ。

 普段はこうして額のみなのに、先日はなぜか口にされた。口移しのほうがチカラを分けるのに効率がよいのだが、恋人同士というわけでもないので流石に気が引ける。普通の感覚なら多分そうだ。

 だというのに、この教師はやたら楽しげに、躊躇いもなくするのだから、相変わらず意味がわからない。しかし正直なところ、和都自身もそれを嫌とも不快とも感じなかったので、

 ──先生に毒されてきてる気がする。

 このままこの人を頼っていいのだろうか、と考えてしまうこともあるが、現状、他に頼れる人がいないので仕方がない。

 和都が一人そうやって考え込んでいると、

「どうした? 1限始まるぞ」

「……なんでもない。じゃあね」

 いつも通りの顔の仁科に言われ、和都は小さく息をついてから保健室を出ていった。



◇ ◇



 土曜日の午前中だというのに、駅裏の公園は相変わらず人が居なくて、閑散としていた。

 最寄駅に3箇所ある出口のうち1つの近くにあり、駐輪場と並ぶように作られていて、すべり台とブランコ、そしてベンチくらいしかない小さな公園である。平日は駐輪場利用者が待ち合わせで使っていることもあるのだが、なぜか人が寄り付かない。

 家の近くの公園は小学生達がわんさか遊んでいたので、失敗したかなと思ったのは杞憂に終わった。

 ──まぁなんか、変な感じのするとこではあるよね。

 和都は公園の入り口で、肩から斜めがけしたショルダーバッグのベルトを両手でギュッと握りながら公園の中を見つめる。

 スマホの時計を確認すると、10時を少し過ぎていた。

 そろそろ来る頃だろうか、と思った辺りで、駅前の方から白の乗用車がウィンカーをチカチカと光らせながら近づいて来た。車はそのままゆっくり和都の立っている前で停まると、助手席側の窓が開いて、運転手がこちらを見た。

「おはよ。ほら、乗って」

 普段と変わらない表情の仁科だった。ただ服装は、ワイシャツにネクタイと白衣ではなく、いつもと違ってラフなシャツにジーパンである。

「お邪魔します」

 言われるまま助手席のドアを開け、乗り込もうとした途端に、急にこれはあまり良いことではないのではないか、という当たり前のことに気付いてしまった。

 乗る直前になって何故か硬直した和都に、仁科が首を傾げる。

「どうした?」

「ううん。なんでもない……デス」

 知らない人の車に乗ってはいけません、という教えがある。

 学校の先生とはいえ、他人の車にそう簡単に乗っていいのだろうか。しかし、これから大事な手掛かりを探しにいかなければならないわけで。

 ──……ユースケには、黙っとこ。

 ぐるぐると渦巻いた考えに、とりあえずの落とし所を決めて息をつくと、和都は座席に腰を下ろし、すぐにシートベルトをした。

「で? まずはどこに向かうんだ?」

「あ、えっと……」

 現実に引き戻され、和都は慌てて持ってきていたバッグを漁る。小坂商店で丸をつけた地図を取り出すと、運転席の仁科にも見えるように広げた。

「この、赤丸のとこに行きたくて」

「地図に書いてるその駅は、隣の駅か?」

「うん。その先の山のほうに集中してるから、とりあえずそっちかな」

「りょーかい」

 仁科がそう答えると、ゆっくりと車が動き出す。

 公園の前の道路をまっすぐ進み、そのまま一方通行の多い狭い住宅街の路地をぐるりと大回りする。そう進んでからようやく、進行方向に山の先が見えてきた。

 途中で線路の向こう側の道路に入ると、学校からも見える、背の低いなだらかな山を正面に捉える。車で山頂まで行けるようになっていて、山頂付近には公園や展望台が設置されており、この地域では自然を楽しめる場所として家族連れに人気のスポットだ。

「何度かその辺の道通ってるけど、そういう空き地とかあったかなぁ」

「そうなんだ。おれ、行ったことないや」

「家族で出掛けねーの? 行楽スポットだよ」

「うーん、2人とも忙しいからねぇ」

「……そう」

 仁科がチラリと和都のほうを見ると、車に乗ること自体が久しぶりなのか、小さな子供のように窓から外の景色を熱心に眺めていた。出掛ける話になった時、やたら楽しそうにしていたのも納得がいく。ただ目的が目的なので、仁科は少し複雑な気持ちになった。

「……とりあえず、低いほうから順番に行くかね」

 そう言って、3箇所ある候補のうち、線路に近い方から回っていく。

 1箇所目は比較的道路から近いところに広い空き地があり、そこにきちんと神社跡地と明記された看板が立っていた。

 次の候補地は車の入れる場所から少し離れており、徒歩で近くまで行く羽目に。だいぶ荒れてはいたものの、神社跡地を明記した看板がかろうじて分かるように設置されているのが確認できた。

 そしてそのどちらも、探している『白狛神社』ではなかった。

「残るは1箇所かぁ」

「これで違ったらフリダシに戻る、だな」

 よく晴れた行楽日和。太陽はまだ随分と高い位置にある。

 残り1箇所は、山の一番高い位置を通る道路の途中、カーブの膨らみの先に小さく駐車場のような空き地がある辺りだ。

「そこって車駐められそう?」

「駐められるんじゃないかな。地図で見た感じ、結構広そうだし」

「じゃあそこで一旦駐めるか」

〔ここ!〕

 不意に後部座席の方から、少年のような声が聞こえてきた。和都がそちらを見ると、運転席と助手席の隙間から、白い毛並みをした犬の首だけのお化けが、半透明の鼻先を突き出していた。

「あ、ハク」

 和都の呼びかけにも答えず、ハクは興奮したように車の進む先を見つめて声を上げる。

〔ボク、ここ知ってる!〕

「本当?」

 どうやら元狛犬の、曖昧になっている記憶のセンサーにわずかばかり引っかかったらしい。先に回った2箇所ではなかった反応だ。

 休日の割に対向車もあまりない坂道を登っていると、少し開けた、簡素な駐車場のようなところが見えたので、そこへ侵入して車を駐めた。

 車から降りてみると、上りからも下りからも分かりにくい位置に、通路のようなものが見える。背の高い雑草を少しかき分けて入ると、なだらかな登り坂が現れた。

「……この先?」

〔ここ! うん、ここだぁ!〕

 ハクが嬉しそうに空中で円を描き、そのままその道の先へ飛んでいく。和都はハクを追いかけるように坂道を駆け上がり始めた。

 仁科はその様子を後ろで眺めながら、辺りを観察しつつゆっくりと登る。足下をよく見ると、すっかり崩れてはいるがかつては石段だったようで、所々に石を積んでいたような形跡が残っていた。確かにここには、かつて人の手で作られたものがあったらしい。

 登り切った先にはぽっかりと開けた空間があった。雑木林の壁に囲まれた、雑草と砂利だけのだだっ広い空き地。

「確かに、小さい神社ならこのくらいの広さかなぁ」

 ぐるりと辺りを見渡しながら、登りきった仁科がそう呟いていると、奥の方からハクの叫ぶような声が聞こえてきた。

〔わあああ! 祠が! 封印がぁあ!〕

 声のする方へ視線を向ける。敷地の一番奥のほう、幹の途中から根本に向かって斜めに裂けるように折れ、真っ黒く焦げた大きな木が1本、横倒しになっていた。

「あそこに祠があったの? え、封印て?」

〔どうしよー! どうしよー! アレ、開けたら出てきちゃうんだよぉ! ダメなヤツゥ!〕

 ハクがあたふたと、倒木の周りをぐるぐると回りながら大騒ぎしている。

「これまたがっつり折れてんなぁ」

 焦げているところをみると、雷でも落ち、その部分が祠のあったらしいところを直撃したようだ。

「ねぇハク、封印てなに?」

 空中でひたすら騒ぐハクに向かって和都が叫ぶ。

〔思い出したの! あの祠、鬼が出てくるから開けちゃダメなんだよぉ!〕

 どうやら懐かしい場所に来たことで、古い記憶が蘇ったようだ。

 開けてはいけない祠が壊れている。ということは、だ。

「……なるほど。じゃあコレのせいかね」

「じゃあ堂島先生や川野先生に憑いてる鬼は、ここから出てきた?」

「そうかもね」

 倒木へ近寄ろうと、和都はかつて参道でもあったような場所を歩き始めた。その途中、脇にあった、大きな石の塊に視線が吸い寄せられてしまう。

 それはかつて、何かの台座として形造られていたようで、参道だった場所を挟むように1対置かれている。

 ──ああ、そうか。

「……おれ、ここにいた?」

 和都がポツリとそう言った。

「相模?」

 仁科が思わず声を掛けたが、和都はそれに応じることなく、フラフラとした足取りで、倒木の方へと近づいていく。

「あ、おい!」

 様子がおかしい。思わず追いかけて腕を掴む。

 そこでようやくこちらを向いた和都の額から、半透明の折れた角が伸びているのが見えた。そして、見開いた目はいつもの黒い瞳ではなく、まるで獣のように全体が金色になっていて、その中心に6本の線のような瞳孔が、花のように放射状に並んでいる。

「ここで……」

 そう言いながら、金色の瞳から涙が溢れ出す。

 仁科は和都の腕を掴んだまま何も言えず、その金色の目を見つめた。

 不意に金色が溶けるようにいつもの黒い瞳に戻り、何かを言おうと口を開いたまま、

「……あ、あれ。涙? なんで?」

 正気に戻ったらしい。

 気付けば額から伸びていた角も見えなくなっている。

「大丈夫か?」

「うん。なんか、いろんな記憶とか感情がいっぱいで、……よくわかんない」

 着ていたパーカーの袖で、和都は懸命に涙を拭うが、涙はなかなか止まらない。

〔……そっかぁ。バクの記憶、ここに残ってたんだね〕

 和都の様子に、ハクが普段はピンと立っている耳をへにゃりと下げてそう言った。

「バクが自分で、破いちゃったってヤツ?」

〔うん。そしてそれが、カズトの中に戻ってったんだと思う〕

「……なるほどね」

 ハクの説明に、仁科は持ってきていたハンカチを和都に渡す。

「ごめん、先生」

「気にするな」

 受け取ったハンカチで涙を拭く和都の頭を、仁科は優しく撫でる。あの金色の瞳と角こそが、狛犬であった頃の片鱗なのだろう。

 和都がようやく落ち着いてきた辺りで、ふと登ってきた道の方から足音が聞こえてきた。

 だんだんと砂利を踏み締める音が近くなり、そうして見えてきたのは知っている顔で。

「……川野先生」

「話し声が聞こえたので先客がいそうだとは思いましたが。まさか、知ってる顔だとは思いませんでしたねぇ」

 学校で見るようなキッチリとしたスーツではなく、アウトドア用のカジュアルなベストを身につけ、ツバのある帽子を被った、川野だった。

「仁科先生はどうしてこんなところへ?」

「近くに諸用で。……休憩に下の広場へ車を駐めたら変な道を見つけたので、ちょっと来てみただけですよ」

 それらしい返答をしつつ、仁科は近づいてきた川野から、和都を庇うように前に立つ。学校で和都を追いかけ回していた相手だ。油断は出来ない。

「ほぉ? 休日に特定の生徒と、2人きりで?」

「あぁ、赴任してきたばかりの川野先生はご存じないでしょうが、私と相模は遠縁の親戚でしてね。ちょっと、それがらみの用事があったもんで」

「ああ、そうだったんですね。……知りませんでした」

 可能性が多少なりともありそうな、新任の人間相手にだけ使える嘘だ。

 川野の視線がちらりとこちらを向いたので、和都は仁科の背後に思わず身を隠す。今は目の色も普通だし、角も視えない。だが、やはり怖いものは怖いのだ。

「川野先生こそ、なぜここへ?」

「休日はいろんな史跡や神社なんかを探索するのが好きでしてね」

「そんな趣味を持っていらしたんですね」

「ええ。この辺りにも古い神社跡があると聞いて探していたところで」

「あぁ、そうなんですか。ここが、そうなんですか?」

「そのようです。すっかり朽ちているのでどのような場所だったかは分かりませんが」

 表情は少しばかり険しいまま、学校にいる時のように互いに穏やかな口調で交わす。しかし、このままでは埒が開かない。

 仁科は何気なく腕時計を見て、

「あぁ、そろそろ行かないと」

「……おや、そうですか」

 再び川野の視線が和都に向くので、仁科は少しばかり呆れてしまう。これは学校でも注意しておいたほうが良さそうだ。

「相模、行こうか」

「は、はい」

「我々はこれで。それじゃあ、ごゆっくり」

 そう言って神社跡地を後にする。車を駐めた場所まで戻ると、仁科の車の他に、見慣れない軽自動車が1台駐まっていた。川野の車だろう。

 そちらを横目に車へ乗り込むと、仁科はすかさずエンジンをかける。和都も慌ててシートベルトをしながら、さきほどの川野とのやりとりを振り返って。

「……先生、すっごいナチュラルに嘘ついたね?」

「大人だからね」

 和都の言葉にしれっとした顔で返しつつ、神社の出入り口だったほうへ視線を向ける。まだ川野が出てくる気配はない。

「とりあえず場所変えよう。追いかけてこられても困るし」

 そう言って車を発進させた。





 山の向こう側へ降りるように車を走らせ、学校のある地域から少し離れた場所で見つけたファミレスに、少し遅めのお昼を兼ねて入った。

「そこそこ収穫あったな」

「そうですね。残されてた祠は鬼が出てくるところって、ハクも思い出したみたいだし」

「そしてその祠の上に、木が倒れてきていた、と」

「堂島先生たちに憑いてる鬼は、白狛神社の祠から鬼が出てきたってことなのかな……」

 家族連れの賑わうファミレスの一角。窓際の座席に仁科と和都は向かい合うように座って、それぞれ注文したメニューに箸をつけながら話を進める。

「だろうねぇ。とりあえず正確な場所もわかったから、役所で問い合わせすれば所有者もわかるし、そこから色々調べられるだろ。ただ今日は役所開いてないから、平日に行かねーと」

「へー、そうやって調べるんだ」

「土地がある限り、管理者や所有者はいるからね。そっちは平日になんとかするとして、場所も確定したから神社の由来とか詳細は別で調べられるはずだ。これ食ったら市立図書館のほうに行こう。そっちのが資料揃ってるでしょ」

 そう言って仁科が窓の外を指差した。そちらを見ると、少し遠くの、ビルが立ち並ぶ隙間に大きな焦茶色の四角い建物が見える。

「あれ?」

「うん。行ったことない?」

「ないない。てか、こっち側も初めて来たし」

「……そう」

 あまり出掛けないのだろうというのは感じていたが、電車でも3駅くらいしか離れていないこちら側に来たことがないというのは、流石に驚いてしまった。ただ本人は、あまり気にしていないらしい。

「改めて探してみたけど、学校の図書室だと地域の伝承とか神社関係の本、あんま無かったもんなー」

「まぁ、やっぱ川野に聞いた方が早いんだろうけどね。向こうに付け込まれたくないし」

「うん……」

 そう返しつつも、和都はなぜかまたタッチパネル式のメニューを開いて眺めており、そのまま大きなパフェを頼んでいた。ちなみに一人分の大盛り定食をきれいに食べ終わった直後である。

「……よく食うね、お前」

「育ち盛りなんで。先生も食べる?」

「アラサーはお腹いっぱいですよ」

「そのうち先生も追い越すからね」

「期待しないで待ってるよ」

 何やら得意げな和都の言葉に苦笑し、自分の分を食べ終えた仁科はドリンクバーへ食後のコーヒーを入れに行く。土曜の昼時、混雑を抜けて騒がしいドリンクバーから席に戻ると、和都が追加注文していたパフェがちょうど運ばれてきたところだった。

「……保健室に来るときはだいたい具合悪くしてるから、元気に食べてるの見るのはちょっと新鮮」

「そうですか?」

 コーヒーに口をつけながら和都と反対側の席に腰を下ろす。

 ゼリーやアイス、生クリームをカラフルに重ね、てっぺんにはフルーツとチョコレートソースのかかったソフトクリームが盛り付けられたパフェは、和都の顔の一部が隠れるくらいに大きなサイズだった。

 それを嬉しそうに頬張る和都を見ていると、昔の記憶に似たような光景があった気がして、どうしても面差しの似ている人と重ねてしまう。

 とはいえ、感傷に浸っている場合ではないので、仁科は振り切るように話題を変える。

「……あー。そういや、神社で泣きだしたの驚いたけど、どんな記憶が見えたの?」

「うーん、見たことない景色とか、すごく悲しい気持ちとか……。なんかいっぺんに頭の中でグルグルしてきて、よく分かんなくて」

「バクの記憶だって言ってたな。見えたものを1個ずつ記録して整理したら、なんかヒントになるかもね」

 あの時、金色の瞳で何かを伝えようとしていた。

 仁科はどうしてもそれが引っかかる。

「……そっか、なるほど。見えたらメモしてみるよ」

「あ。メモしたら俺にも送って」

 仁科に当たり前のように言われて、和都はそういえば、と思い出す。

「……いいけど。先生の連絡先知らないよ、おれ」

「そうだった……」

 仁科は自分のスマホを取り出して、チャットアプリのユーザー情報を表示して見せた。和都はそれを見ると、自分もスマホを取り出して操作し、手慣れたように登録する。すぐに仁科のスマホが振動し、和都からチャットメッセージのスタンプが届いた。

 チャットに届いた『よろしく』という猫のイラスト付きスタンプを見ていたら、ちょうど和都もパフェを食べ終わったようだったので、仁科はスマホをポケットに仕舞って立ち上がる。

「よし、じゃあ図書館行ってみるか」

「うんっ」

 空になったパフェグラスに使っていたスプーンを入れると、2人は席を後にした。


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