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17)再会

 朱色に塗られた2本の太い柱に、その間を渡すように乗せられた黒と朱の横材と、その下に柱同士を繋ぐ朱の板が1本。見上げると思わず口が開いてしまうほどに大きな鳥居の足元で、和都は感嘆の声を上げた。

「大きい……」

 横に渡された板の中央には、黒い額のようなもの掲げられており、金字で『安曇神社』と書いてある。

 狛杜高校近くにある自宅から、仁科の運転で約3時間半。和都は隣県にある安曇神社まで来ていた。

 周辺は田畑も多く、境内はぐるりと木に囲まれていて、まるで森の中にあるようだった。大きな鳥居の足元からまっすぐ伸びる、幅の広い綺麗な参道。その先には立派な朱の柱と白い壁の拝殿と、その後方に本殿が設けられているのが見える。

「ほら、こっちだよ」

 仁科に呼ばれ、旅行用の大きなボストンバッグを持ち直すと、和都は一礼して鳥居をくぐる。

 ついていくと、まっすぐ伸びる参道を横にそれて、その先の『社務所』と看板のある建物の、さらに奥隣にある建物へ仁科が向かう。どう見ても民家と思われる日本家屋の玄関へ向かって歩いていると、ちょうど中から50代くらいと思われる女性が1人出てきた。そして、こちらに気付いた女性がにこやかに笑う。

「あらあら、着いたの? 久しぶりね、弘孝(ひろたか)くん」

菜津子(なつこ)さん、どうもご無沙汰しています」

 仁科が挨拶した女性は、安曇家現当主の妻、安曇菜津子であった。

「元気そうでよかったわ。そっちの子が例の?」

「はい。一緒に蔵の整理をする、勤務先の教え子です」

「……えっと、狛杜高校2年の相模和都です。お世話になります」

 仁科に促され、和都が恐る恐る前に出て頭を下げると、菜津子が目を見開いて、分かりやすく驚いていた。

 ──あ、そうか。

 自分の見た目について、和都は忘れていた。安曇家の人間なら、自分にソックリだったという、仁科の弟のことも知っているはずだ。

「あ、あの……」

「……ごめんなさいね。ちょっと知ってる子に似てたから、吃驚しちゃって」

 そう言うと、菜津子は「こっちを使ってね」と本邸の奥にある、こぢんまりとした離れへ2人を案内してくれた。

 離れは畳敷きの広間に、トイレと洗面台がある程度。廊下の奥は本邸と渡り廊下で繋がっているので、食事や風呂は本邸でいただくらしい。大人数でも気兼ねなく寝泊まりができるようにした客間のような感じだ。

 離れをぐるりと囲むようにある廊下の雨戸は、出入り口の近くを開けると拝殿側が、奥のほうを開けるとその先にある蔵が見えるようになっている。広間の端に大きな座卓と、畳まれた布団が2組置いてあったので、持ってきた荷物はひとまずその近くに置いた。

「……一応、伝えてはあったんだけど、あんまり良い気分はしないよな」

 仁科が少し申し訳なさそうに言う。

「いや、まぁ。自分でも似てると思ったくらいだから、仕方ないかなって」

 兄の仁科にあれだけ親しく話しかけるのであれば、その弟をよく知らないわけではないだろう。

「来る途中でも言ったけど、再従兄弟(はとこ)だって話は面倒になるから、あんまりするなよ」

「うん、大丈夫」

 仁科の説明では、和都の母は仁科の家系とすでにちゃんと縁を切っているらしく、旧姓の神谷の名前を出すとあまり良い顔をされないそうだ。一部の親族には話してあるそうだが、安曇家の人間には基本、仁科の教え子が白狛神社について調べるためにやって来た、とだけ説明してあるらしい。

「とりあえずは、主祭神(かみさま)に挨拶しとかないとな」

 荷物を置いた後は、参道の脇に設けてあった手水舎で手洗いし、参道を歩いて拝殿へ向かう。朱色の柱に白い壁、突き出した黒い屋根が重ねられた拝殿の入り口。設けられた賽銭箱と鈴の前に並んで立つと、仁科に倣って和都も二礼二拍手一礼で頭を下げた。

 お参りを終えたところで、目的の白狛神社を探そうか、と話していると、本殿と拝殿の横にある社務所から緋色の袴を履いた巫女姿の女性が出て来た。

「ヒロ兄!」

 呼ばれて仁科はそちらを見ると、長い黒髪を揺らして駆け寄って来た巫女さんに親しげに返す。

「よぉ、凛子(りんこ)

「よぉ、じゃない!」

「元気そうだな」

「何年もこっちからの連絡無視しといて! 本当なんなの!」

 凛子と呼ばれた女性が大声で喚き出したのに驚いて、和都は思わず仁科の影に隠れる。この声は聞き覚えがあった。

 ──電話で怒ってた人だ。

 安曇凛子、安曇神社の次期当主で、仁科の一応の婚約者。白い小袖に緋色の袴を身につけ、腰近くまである長い髪は後ろで1つに束ねてある。背丈は和都と同じか、少し大きいくらいだろうか。

「理由はちゃんと説明しただろ」

「そうだけど!」

「あんまりギャンギャン騒ぐなよ。怖がられてるぞ」

「は?」

 凛子の文句を一通り聞き終わったところで、仁科が後ろに隠れた和都の方を見る。肩を窄めて縮こまっていた和都は、こちらを覗き込んできた凛子と初めて目があった。

 眉間に皺を寄せていたが、黒目が大きくて綺麗な人だというのは和都でも分かる。和都を見た凛子も、やはり菜津子と同様、目を見開いて驚いた顔になった。

「……君が?」

「さ、相模和都と、言います……」

 和都がびくびくしながら名乗ると、驚いた顔から何やら険しい表情に変化する。ただ、視線は自分ではなく、自分の背後に向いているような気がした。

「君、何を連れてるの?」

「え?」

 ハクのことだろうか。ハクは今、霊感がある人間でも見えないような状態になっているはずだ。仁科が以前、安曇家は『本物』だと言っていたが、それと関係があるのだろうか。

 警戒するような目つきに困っていると、仁科が間に入った。

「あー、この子が白狛神社を探してる、うちの教え子だよ。神社のほう、案内してくれない?」

 すると凛子は、ああ、と納得した様子で「こっちよ」と社務所の裏手にある、雑木林に入っていく細い山道の方へ向かう。

 ぐるりと囲む木々の隙間から光が差し込む程度で、辺りは少々薄暗い。だが、不思議と不気味な感じはしなかった。

 雑木林の中を切り開くように設けられた小さな参道を進みながら、先導する凛子が言う。

「ここ本当は、あまり安曇家以外の人が近づいちゃいけないって言われてる場所なの」

「え、そうなの?」

「由来が曖昧っていうのもあって。だから神社の案内にも載せてないのよ」

「俺のアルバムに、そこで撮った写真あったけど」

「昔のでしょ? 子どもだから多めに見られたんじゃない?『7歳までは神のうち』なんて言うし」

 参道の突き当たりに、小さな白木の鳥居に石造りの社が見えて来た。

「ここが、白狛神社よ」

 鳥居の柱に『白狛神社』の文字。見せて貰った写真の通りの姿がそこにあった。

 その前に立った和都は、何故か懐かしさと嬉しい気持ちが内側から湧き上がってくるのを感じて、

「……逢えた」

 そう呟いた。途端に両の目が金色に光って、涙が溢れ出てきて止まらなくなる。

 ──バクが、喜んでるんだ。

 自分とは無関係の、内側からの情動に耐えきれず、和都はその場にしゃがみ込み、ひたすらに泣きじゃくる。

「え、ちょっと。大丈夫?」

 突然うずくまって泣き始めた和都に凛子が驚いて、背中をゆっくりさすってやるが、

「少し、そっとしておいてやって」

 仁科が優しい顔でそう言うので、凛子は困惑しつつも少し離れて様子を見守った。

 辺りの木々を大きく揺らす風がザアッと吹き抜けて、雑木林の隙間から差し込む光がキラキラと落ちてくる。

 その中で暫くの間、和都がすすり泣く声だけが響く。

 ザワザワと騒がしかった風が凪いできた辺りで、和都の声もようやく落ち着いてきたようだった。仁科はそっと近づいて腰を落として屈むと、和都の丸めた背中をさする。

「……大丈夫か?」

「うん、ごめん。ちょっと止まんなくて……」

 和都はそう言いながら顔をあげ、両方の手の甲で何度も頬の涙を拭い、なんとか立ち上がった。

 仁科は和都の頭を撫で、目の端に残った涙を指先で拭いてやる。それから顔をこちらに向かせてみると、思った通り薄暗い中でも分かる程度に顔色が悪かった。

「顔色よくないな。離れで休もうか」

「……はい」

 答えて歩きだすが、やはり足元が覚束ない。

 仁科は少し屈んで肩を抱き寄せ「ほら」と、自分に捕まるよう促した。が、和都はそばでこちらを窺う凛子の方をチラリと見て、躊躇う。

「でも……」

「気にしなくていい」

 普段の和都なら大丈夫と頑として振り切るところだが、本人も調子の悪さを自覚していたようで、しぶしぶという具合だが大きな肩に細い腕で抱きつくように掴まった。それを横抱きになるようにして抱え上げると、仁科は凛子のほうを向いて言う。

「戻ろうか」





 白狛神社のあった雑木林から出ると、夕方も近い時間になっており、空がだいぶ白んでいた。

 仁科は和都を抱えたまま離れに戻り、広間の隅に布団を敷いてもらって和都を休ませる。横になりながらグズグズと文句を言っていたが、やはり疲れていたようで、すぐに小さな寝息を立てて眠ってしまった。

 その様子を眺めていると、巫女の袴姿から普段着のワンピースに着替えた凛子が、お茶を持って離れにやってくる。

「和都くん、大丈夫そう?」

「うん、大したことないよ。疲れが出たんでしょ」

「持病とか、身体弱かったりするの?」

 座卓にお茶とお菓子を並べながら、心配そうな顔で凛子は眠る和都を見つめた。

「そういうのじゃないよ。ちょっと、色々当てられやすくてね」

「あ、そうなんだ」

 元々、悪霊などの『いやなもの』のチカラに影響を受けやすいのだ。多少チカラは強くなったが、悪いものじゃなかったとしても、強すぎる神仏のチカラに当てられる場合もあるだろう。普段から神社仏閣を避けて過ごしていたのであれば尚更だ。

「それに、長距離移動とかあんまりしたことないから、その疲れもあるだろうね」

「ふーん」

 いつも家に閉じこもっていて、電車に乗って出掛けることすらも少ない人間が、休憩を挟んだとしても長時間の車移動の後に元気でいられるわけがない。

 しかもその身体を休めるはずの休憩時間は、来たことのないサービスエリアで無駄にはしゃいでいたのだ。疲れていても仕方がないだろうと、その時の和都を思い出して仁科は苦笑する。

「急に泣き出したから吃驚しちゃった。あの子、ただの興味で白狛神社を探してたわけじゃないのね」

「うん。あの神社が昔ちゃんとしたとこにあった時にいた、狛犬の生まれ変わり、らしい」

「生まれ変わり? そう……」

 仁科の言葉に、凛子が眉を顰めて考え込む。

「なんか、違う感じしたの?」

「うーん、生まれ変わりについては分からないけど、アタシには大きな狗神が憑いてるようにしか視えなかったから」

 言われて、ああ、と仁科は思い当たる。

「たぶん、その番だった方の狛犬じゃねーかな。魂が繋がってるとかで、ずっとついて回ってるんだって」

「……それ、本当に狛犬なの?」

 説明するも、やはり凛子の表情は険しいままだ。

「らしいんだけど、違う感じする?」

「確かに強い神獣の気配はあるんだけど、アタシにはもっと違う、狗神に近い何かを感じるのよねぇ」

「……なるほど」

 狗神とは、人を祟ったり害をなす目的で、極限に飢えさせた犬の首を切り落として作り出す、怪異や悪霊の一種だ。

 確かに、ハクの姿は首から上しかない。仁科も当初は見た目からその可能性を少し考えてはいたのだが、ハクの言動は基本、和都を守るものだったので、悪いものではないだろうと判断していた。しかし、現状安曇家で1番チカラが強く、祓いの仕事もしている凛子が言うのであれば、やはりハクは狗神なのかもしれない。

 ──そうなってくると『生まれ変わりじゃない』という可能性も、上がって来ちゃうな。

 ハク達と仁科家の祟りとの関係については、まだちゃんとした確証がない。今回の蔵での捜索で、何かしらハッキリすればいいのだが。

「まぁ、今回はその関係もあって連れて来たんだ。白狛神社の神様に逢いたがってるみたいだったし」

「……そうだったのね」

 言われて凛子は納得しながら、改めて眠っている和都に視線を向ける。

 それまで険しかった表情が、懐かしいものを見るように優しくなった。

「それにしても、本当にマサくんソックリね。見た目もだけど、雰囲気とか気配もすごく似てる」

「でしょ。性格は全然違うけどね。……コイツ、神谷さんとこの子だよ」

「えっ、うそ。神谷って、あの縁切りして居なくなっちゃったっていう?」

 仁科の言葉に、凛子が驚いた顔をこちらに向けた。

 元々、和都の母小春と神谷家側のソリが合わなかった上、生まれた和都が視えるチカラを持っていることから諍いが絶えなくなり、とある霊能者を厚く信奉してのめり込んだ結果、言われるままに縁を切って居なくなってしまった、というのが安曇家でも周知の話だ。

「うん。父親の清孝さんが亡くなって、奥さんが再婚したから苗字が違うんだ。俺も最初は他人の空似だと思ってたんだけど、家系図を見直したら名前とか一緒でね」

「そうだったんだ……」

「縁切りはしてるそうだし、親父たちには言うなよ。たぶん色々、面倒になるし」

「……そうね」

 安曇家はその莫大な遺産と高い霊力を維持するため、元は1つだった仁科家を含む分家と親族間で婚姻することも多い。和都がチカラを持った血族であると分かれば、安曇家や仁科家のそういった問題に巻き込まれることは必至だろう。

 しかし、ここまで瓜二つな彼を連れているということは、と凛子は勘繰ってしまう。

「……ヒロ兄、和都くんをマサくんの代わりにしようとしてない?」

「そんなつもりないよ」

「どうだかー」

 仁科弘孝にとって、末弟の雅孝は特別な存在だった。

 先ほど白狛神社から離れへ戻る時の、和都への対応がどうもそれを彷彿とさせる。

 こちらを訝しむ凛子に、仁科は眉を八の字に下げて、話題を変えた。

「あー……そういや、親父殿に話まとめろって言われてるんだけど」

「アタシ、ヒロ兄と結婚する気ない」

「知ってるよ。俺もお前に興味ない」

 2人して、はぁ、と深いため息をつく。

 結局、連絡をとっていようがいまいが、数年経っても互いの主張はこのままだ。

「大学にいい人いないの?」

「安曇の名前が有名すぎて、まともな人が寄ってこないのよ。来ても遺産目当てばっかだし」

「俺の知り合いだと、もうだいたい結婚してるしなぁ」

 本来ならば、凛子が雅孝と結婚する予定であった。それが叶わなくなったため、代わりに弘孝が凛子と結婚しろ、と両家両親から言われ続けている状態で数年が経つ。

 凛子が何かを思いついたように、部屋の隅で眠る和都に視線を向けて。

「じゃあ、和都くんもらっていい?」

「……ダメ」

 言われて流石の仁科も言葉につまったが、そればかりはやはり譲れない。

「やーっぱりそういう相手なんじゃない!」

「うるせぇな。猫の子じゃねーんだからほいほいやれるか。お前はさっさと大学で見つけてこいっての」

「あ、和都くんに紹介してもらうのもアリか」

「こいつの周りねぇ……」

 凛子に言われ、仁科は夏休み前に5人で白狛神社跡地へ行った時のことを思い出し、各メンバーの顔を浮かべたのだが、

「……拗らせた奴しかいねぇな」

「和都くん、まともな高校生活送れてるの?」

 神妙な顔で返答され、さすがの凛子も心配になってしまった。

「まぁ、最近は楽しそうよ」

 眠ったままの和都の方を見て、仁科は笑いながらそう言った。



◇ ◇



 翌日、早朝。

 締め切った室内なのに、和都はその明るさで目が覚めた。広間をぐるりと囲む廊下を挟んだ向こう側は、雨戸を開けたガラス戸と薄手のカーテンだけなので、障子を抜けて外からの明るい光が入ってきているらしい。

 離れの広間に敷かれた2組の布団。隣の布団では眼鏡を外した仁科が、まだこんこんと眠っている。

 仁科の寝顔を見ながら、和都は昨晩のことを思い出す。

 本邸にある大きな広間で、繋げた大きな座卓の上にたくさんの料理が並び、それを大人子どもが入り混じって囲む夕飯。色んなおしゃべりと笑い声が飛び交うなかでご飯を食べるというのは、和都には殆ど初めての体験だった。

 その後、仁科はたくさんの年配連中に掴まって囲まれ、ひたすらお酒を飲まされていた。凛子に「先に寝てたほうがいいよ」と言われ、本邸でお風呂をいただいた後は1人で離れに戻り、先に寝落ちたので後のことは分からない。

 いったい何時まで飲んでいたのだろうか。自分が寝落ちた後に、ちゃんと離れまで戻ってきたのであれば、深夜は回っているだろう。

 眠っている仁科の頭を撫でてみたが、寝息ばかりで起きる気配はない。

「……目ぇ覚めちゃったな」

 スマホで時間を確認すると、朝の5時台。しかし、太陽はもう随分高く昇っているようだ。

 Tシャツ1枚だったので薄手のフード付きパーカーを羽織ると、和都は来る途中のサービスエリアで買ったサンダルを履いて外に出た。

 ──たしかこっち、だったっけ。

 境内にある社務所の裏手、その雑木林の中に奥へ入る参道を見つけて進む。昨日は夕方だったせいか薄暗く感じたが、早朝のためか昨日よりはいくらか明るい。木々の隙間から見える光がキラキラと眩しかった。

 参道の突き当たりに小さな鳥居を見つける。と、その隣に見覚えのある白い大きな生き物がいた。

「あれ、ハク!」

〔あ、おはよーカズト〕

 顔を地面にぺたりとつけて、まるで寝そべっているように見える半透明の狛犬の首が、寝ぼけ眼で返事をする。

「なんか近くに居る感じしないなぁと思ったら、ずっとここにいたの?」

〔うん! やっぱりシロ様の近くが落ち着くからね〜〜〕

 シロ様、とは白狛神社で祀られている主神の名前だろうか。

 大きな欠伸をしながら顔を上げたハクの姿が、なんだか出発前に見た時と違う。首から下は前足の付け根のあたりまでしかなかったはずが、そこにしっかりと、大きな犬の前足が生えている。

 そしてそのサイズも、大型犬程度だったものが、下手すると大きな虎かライオンのような大きさだ。

「……なんか、大きくなってない?」

〔ここの神社、和都と相性がいいみたいで、いるだけでどんどんチカラが増えてく感じだよ〜。すごいねぇ〜〕

「そうなんだ……」

 確かに、仁科と波長が合うのもここの関係者であることが理由なら、この神社にいることでチカラが増えていくというのも納得だ。

 ──そういえば、ここにいる人たちは、変な感じにならないな。

 昨晩夕飯をいただいた時に集まった人たちは、近隣に住んでいる安曇家の親類だと言っていた。そのせいなのか、こちらに対して攻撃的になったり、その逆の異常に執着してくるような雰囲気がまったくなかった。

 波長の合う合わないがこの神社に関係しているかどうかならば、ここで過ごしている間は余計な心配をしなくて良さそうだ。

 和都は小さな鳥居の、その奥に鎮座する小さなお社に向かって立つと、二礼二拍手一礼する。

「……おはようございます」

 そう言って笑うと、まだ眠そうなハクの、大きくなった頭を撫でてやった。

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