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 フリーダは森の中央を走る獣道を、ギガンティスと共に進んでいた。単独行動の上、相手からも確実に見えているはずで、本来なら緊張に震えそうな状況なのだが、フリーダは鼻歌を歌いたいぐらいにご機嫌だった。理由は単純で、この作戦のかなめとでも言うべき役割を、クエルから直接頼まれたからだ。


 クエルの作戦はこうだ。フリーダが操るギガンティスは、剛腕属性だけでなく、堅牢属性持ちで防御力に優れる。欠点は、機動力はあっても小回りが利かない。特に今回指定されたここ、森の中の練兵場では、本来の力を発揮するのは難しかった。だから、あえて身をさらして、森の中央を進む。いわゆる「囮」役を頼まれた。そこまでならフリーダでも思いつく。しかしクエルの作戦にはその先があった。


 相手は前の選抜の卒業生で、すでに兵団へ配属済の人たちだ。そんな見え見えの囮には乗ってこない。ギガンティスの牽制役を出して、背後を襲うこちらを、さらにその背後から襲う作戦をとってくるはず。


「それだと、僕らの中で一番戦力になるギガンティスが、遊軍化してしまうんだ」


 クエルはフリーダにそう告げた。それを避ける為に、クエルとセシルはフリーダの両脇に展開。相手の布陣次第で、どちらか一方が相手の残り二体を引きつけ、そこから先は守りに徹する。誘因に成功したら、ギガンティスと残り一台が、相手の牽制役の人形を補足し、無力化。つまりギガンティスは仮の囮であると同時に、捕捉した相手に対する矛の役割もかねている。


 もっとも、ギガンティスが早々に無力化されてしまったら、作戦も何もあったものではない。それに、この見通しの悪い森の中で、相手をどうやって仕留めるかという問題もある。フリーダは素直にその点をクエルに質問した。


「大丈夫。森の中には、ギガンティスならふんだんに使える武器があるんだ」


 驚いたことに、クエルは明確な答えを用意していた。クエルと一緒に、しかもクエルの立てた作戦で戦う。こんなにうれしくて、楽しいことはない。


「ギ、ギ、ギガンティス、私の人形~♪」


 フリーダは、いつの間にか本当に鼻歌を歌っていた。


「ク、ク、クエル――」


 そう口にしたところで、一瞬歌詞が止まる。同時に銀色の髪を持つ少女の姿が、フリーダの目の前にちらついた。だがフリーダは頭を軽く振ると、その姿を脳裏から追い出す。今はそんなことを考えている場合ではない。


「ク、ク、クエル、ちょっと間抜けな、私の幼なじみ~♪」


 そう続きを歌うと、フリーダはギガンティスを止めて辺りを見回した。目の前に、ぽっかりと森が切れて、明るい日差しが木々の間から差し込んでいる場所がある。


「ここがいいかな? それにちょうど真ん中ぐらいよね」


 そこなら周囲がよく見える。つまり周りからもよく見えるということだ。それに森の中を進んでいるだけでは、囮にならない。


「ギガンティス、投槍砲打!」


 フリーダの決めた型に合わせて、ギガンティスが地面に横たわっていた倒木に手を伸ばす。さらに倒木に負けない太い腕で、それを肩へと担ぎ上げた。


「それじゃギガンティス、一つ派手にいきましょうか?」


 膝とくるぶしについた車輪で助走をつけつつ、ギガンティスの右腕がしなる。そこから放たれた倒木は、巨大な(もり)へと姿を変え、森の奥へと飛んで行った。



 ブレンダ、イクセル、ヴィクターの三人は、大木の背後から、周囲に倒木を投げ続けるギガンティスを眺めていた。巨人を思わせる人形が倒木を投げるたびに、雷の落ちたような音が辺りに響き渡る。それは枝や葉をはぎ取り、森の中に視界の回廊とでもいうべきものを作り出していた。


 すべてが丸見えになる訳ではないが、森の中を移動すれば、どこかでその姿を見られる可能性を格段に上げている。


「おい、俺たちの相手は、御三家の御曹司とかじゃないよな?」


 イクセルの問いに、ヴィクターは首を横に振った。


「アイラ教官から聞いた限りでは、その真逆のはずだ」


「なら、あの人形はなんなんだ? 指揮官クラス、下手したら団長クラスだぞ。ここが見通しのきく平原だったら、あれ一台に蹂躙されてもおかしくはない」


「俺たちに相手をさせるのだから、ただ者ではないと思っていたが、中々の相手なのは確かだよ」


「あれを食らったら、イクセル以外は一撃でおしまいね。そもそも人形師への攻撃は厳禁なんでしょう? あんなめくら撃ちなんてありなの?」


 ブレンダが二人に不満そうな顔をする。


「おそらく、直接狙っているわけではないから、ありなんだろうな。それがこの演習の非記述ルールだ」


「それに、あれはどう見ても囮よね」


「戦術座学で回答に書いたら、ブレンダと同じで、思いっきり赤点で返される奴だ」


「私はそこまでひどくないわよ!」


 それを聞いたヴィクターが、ブレンダに苦笑して見せる。


「そうだったかな? もっとも、あれだけ力のある人形がいるなら、話は全然違う。残り二体の人形で、こちらの人形の各個撃破を狙っているのだろう。その二体を釣り出そうとすると、今度は巨人に狙い撃ちされる。さて困ったな……」


「ヴィクター、残り二体がどこにいるか、分かるか?」


 イクセルの問いかけに、ヴィクターは少し考える素振りをした。


「常識的に考えれば、あの巨人の背後だが、おそらくは三時の方向だと思う」


「どうして分かる?」


「他がほぼ水平に放っているのに、その方角だけ射角が少し上を向いている。味方が流れ弾に当たるのを避ける為だろう」


「なるほど、流石はビクターだ」


「こちらが後方に回り込んだところを背後から、あるいは、挟み撃ちで狙うつもりだな。いずれにせよ、誰かがあの巨人の投擲を牽制しないといけない」


「なら決まりね!」


 ブレンダが二人に片手を上げる。


「私のモンチーがあれとダンスを踊る。あのお嬢さんに危険が及べば、残り二体は必ず助けにくるはずよ。二人はそれを片付けて」


 それを聞いたイクセルが、怪訝そうな顔をした。


「おい、人形師への直接攻撃は――」


「あの投擲を見た? 身体への直接攻撃じゃないからルールの内。それから二人とも――」


 ブレンダが、イクセルとヴィクターに向けて、耳に指を当てて見せる。


「私が合図したら、耳栓をするのを忘れないでね」

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