表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/108

三文芝居

「あなたたちって、本当に馬鹿よね」


 そう告げると、ブレンダは大きく肩をすくめた。そのつぶやきに、共に椅子に座る、士官候補生の制服を着た二人の男性は、互いに顔を見合わせた。


「馬鹿とはなんだ!?」


 そのうちの一人、茶色の髪をした、少し小柄な男性が、ブレンダへ異議を唱える。


「だってそうでしょう。私のことなんて放っておいて、オットーやパールみたいに、見て見ぬふりをすれば良かったのよ」


「イクセルには無理だろうな。ブレンダ、お前に惚れている」


「ちょっと!」「ヴィクター!?」


 筋肉質の大きな体をした男性の答えに、イクセルとブレンダの二人が慌てた声を上げた。


「それじゃヴィクター、あなたは?」


「友人が馬鹿なことをやるのに付き合うのが、親友というものだろう? それに君に惚れているのは、イクセルだけじゃない」


「やっぱり二人とも大馬鹿ね。でも私も人の事は言えないか。傍流も傍流で、ほとんど庶民なのに、国家人形師になろうなんて思ったんだもの……」


「人形師になろうとしたのは、決して間違いではないよ。才能は十分にある」


 ヴィクターの言葉に、イクセルもうなずいた。


「そもそも、ブレンダがどこかの家で、おとなしく主婦をやっているだなんて、全く想像ができない」


「イクセル、あんたね!」「本当の事だろうが!」


 イクセルの胸倉をつかみにかかったブレンダを、ヴィクターが制する。


「二人ともやめとけ。ともかくあんな腐ったやつに目を付けられたのが、運のつきというやつだ」


「だから、見て見ぬふりをすれば――」


 ガチャ!


 声を上げたブレンダの背後で、扉の開く気配がした。三人とも慌てて椅子から立ち上がると、部屋に入ってきた人物に敬礼する。


「国学の教官に着任した、アイラ・ディエスです」


 そう告げると、扉から入ってきた人物は、ブレンダたちに敬礼を返した。


「急ではありますが、あなたたちに話があって招集しました。でも班は五人のはずだけど、懲罰対象は三人なの?」


 アイラは手にした書類をめくりつつ、納得した顔をする。


「立ち話もなんだから、座ってもらえないかしら?」


「はい、アイラ教官殿!」


 ブレンダたちが一斉に椅子へ着席する。それを見たアイラが、前におかれた椅子へ腰を掛けた。そして制服では抑えきれない、ブレンダの胸へ視線を向ける。


「なるほど、そう言うことね。でもどうして上官をぶんなぐったりしたわけ? 考え方によっては、いい機会だったかもしれないじゃない」


「はい、アイラ教官殿。申し訳ございません」


 ブレンダの答えに、アイラがうんざりした顔をする。


「楽にしなさい。それと自分の言葉で話すことを許可します。なれなれしいのは好きじゃないけど、話が通じないのはもっと困るの」


「アイラ教官殿、了解しました。生理的に耐えられませんでした」


 ブレンダの率直な答えに、アイラは思わず口元に笑みを浮かべた。


「家の後ろ盾もなしに、女性が国家人形師になることの意味ぐらい、分かっていたんでしょう?」


 アイラの問いは、言外にそれが庶民の娘が閥族に嫁ぐか、愛人になるための手段だと告げている。


「はい。入学時点では、よく分かっておりませんでした」


「ふーん。それであなたたち二人は、お姫様を救う騎士気分ってやつを堪能したわけ?」


「はい、アイラ教官殿。ですが個人的には、もっと殴っておくべきだったと後悔しております」


「おい、イクセル!」


 そう声をかけたヴィクターへ、イクセルは首を横に振った。


「ヴィクター、正直に答えただけだ」


「アイラ教官殿、よろしいでしょうか?」


 ブレンダがアイラへ、発言の許可を求める。


「ブレンダ士官候補生、発言を許可します」


「僭越ではありますが、私から一つお願いがあります。今回の件は全て私に原因があります。私が罪の大部分を負うべきだと考えます」


 その発言に、イクセルとヴィクターは異議を唱えようとしたが、アイラは手でそれを押しとどめた。


「あなたたちが仲良しなのは、よく分かりました。確かに信頼関係は重要よ。でもこの件でそれを発揮するのは間違いね」


 ブレンダたちを眺めながら、アイラは大きくため息をついた。


「着任早々、こんな面倒ごとばかり押し付けられるだなんて。なんで私がこんな三文芝居に付き合わないといけないのよ――」


 愚痴らしきものをぶつぶつとつぶやきつつ、書類をめくり続ける。その姿に、ブレンダたち三人は思わず顔を見合わせた。それに気付いたアイラが、慌てて書類から顔を上げる。


「この件については、まだ上に報告はあがっていません。今のところ、団長、もといアルマイヤー校長預かりになっています」


 アイラの言葉に、三人はほっとした顔をした。


「ですが、このまま無罪放免にするつもりもありません。あなたたちに、アルマイヤー校長からの命令を伝えます」


 アイラが三人に、書類に書かれた内容を読み上げた。


「何か質問は?」


「は、はい。本気でやっても、よろしいのでしょうか?」


 ブレンダの問いかけに、アイラは謎の笑みを浮かべつつ頷く。


「もちろんです。付け加えるなら、この結果にあなたたちの未来がかかっています」


 アイラが席を立つと、ブレンダたち三人も慌てて席を立った。そして三人揃って、アイラへ完璧な敬礼をして見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ