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狩り

「でも本当に大丈夫?」


 ギガンティスの巨体を引き連れながら、そう問いかけるフリーダに、クエルはため息をついた。


「子供じゃないんだから……」


「何を言っているの。クエルよりもその辺の子供の方が、よほどに安心できます!」


「あのな!」


 駐機場から待機場所へ向かう間、ずっと同じような会話が続いている。よちよち歩きの子供に対する母親の方が、よほどにうるさくないくらいだ。


「まあいいわ」


 フリーダが小さく肩をすくめて見せた。クエルがいい加減にうんざりしていることを、やっと理解できたらしい。


「でもお昼ご飯は絶対に一緒に食べますからね。お母さんとマリエさんが、全員分のサンドイッチを持たせてくれたの」


「分かった。楽しみにしているよ」


「それじゃ、また後でね!」


 手を大きく振ると、フリーダはポニーテールにまとめた赤毛をはねさせながら、S組の待機場所へと駆けていく。


 スヴェンが恨めしそうにしながら、ムーグリィに引っ張られていくが、クエルはそれを無視した。誰も運命に、いや、悪運に逆らうことなど出来ない。


「やっといなくなったか……」


 クエルの背後から声がかかった。振り返ると、サラスバティを引きつれたセシルが、小さく鼻を鳴らして見せる。


「あれはまさに我の天敵だな。我の仕事を全部奪うつもりだ。そもそもマスターがシャキッとしていれば、何の問題もないのだぞ!」


 そう言うと、クエルの方をジロリと睨んで見せる。


「それよりも、だいぶ遅れているから急ごう。えっと、D組は――」


 クエルはセシルの愚痴から逃げるように、広大な練兵場を見回した。そこには3つの集団がいて、それぞれA、B、Cと看板が出ている。


「あれ、D組はどこだ?」


「マスター、あれではないのか?」


 セシルがBとCの間の一番奥にぽつんといる、小さなグループを指さした。確かにそこにDの立て看板が見える。


「セシル、よく見つけた!」


 クエルはそこへ急いだ。だが近づくにつれ、竜を模した人形がいるのに気がつく。


「ファーヴニル!」


 クエルの口から思わず声が漏れた。


「おい、坊主!」


 巨大な竜を前に、立ち止まったクエルへ声がかかる。見ると、皮のつば広帽を気障に指で上げながら、こちらを見ている背の高い男性がいた。


「ジェームスさん?」


 そこにはサンデーによって放り投げられたジェームスが、日に焼けた顔へ白い歯を見せながら立っている。背後には彼のものらしい、ピエロを模した人形もその背後に続いている。


「ちゃんと俺の名前を憶えていたな。ところで君たちの名前は?」


「クエルです」


「セシルです」


 セシルは侍従らしい丁寧な挨拶をした。それに対し、ジェームズは胸へ帽子を当てて、淑女に対する礼を返して見せる。


「あらためてジェームズだ。どうかジムと呼んでくれ。そう言えば、あの赤毛の巨乳の女の子と、とってもかわいい雪だるまはどこへ行ったんだ?」


 そう言うと、あたりをきょろきょろと見回す。


「フリーダなら、ムーグリィと一緒に別の組です」


「あの赤毛の子はフリーダちゃんというのか? うん、彼女にぴったりの名前だ。でも別組とは残念だな……」


 ジェームズがあごに手を当てて、考え込むような表情をして見せる。


「まあ、せっかく同じ組になったんだ。なかよくやっていこうじゃないか。それにあとの一人は、どうもお話がきらいな方らしい」


 そう言うと横を指さした。そこに立つシグルズに、クエルたちを気にする様子は全くない。ただ前をじっと見つめている。


「おや、やっと始まるみたいだぞ」


 ジェームズはそう告げると、正面の指揮台へ視線を向けた。そこでは腹回りのとても緩い男性が、おっくうそうに台を昇っている。その横ではフリーダとムーグリィが並んで立っていた。どうやらそこがS組の位置らしい。


「おほん!」


 台の上へ昇った人形省の制服を着た人物が、大きな腹を抱えつつ、わざとらしく咳をして見せる。そして世界樹の葉駆動の拡声器を口元へ当てた。


「人形管理次官のメイヤーだ。本日は導師不在につき、その代理として諸君への訓示並びに、開会のあいさつをさせていただく」


 そう告げた次官が辺りを見回した。気のせいだろうか? クエルは次官が自分たちD組を見た時、その口元でほくそえんだ様に思えた。


「諸君らが国家人形師選抜に挑戦してくれることを大変うれしく思う。だが我々の求めているのは、能力や忠誠心に溢れ、この国の柱となってくれるべき人材だ」


 メイヤーと名乗った次官は拡声器を下すと、今度は明らかににやりと笑って見せた。


「故に我々としては、諸君らにあえて多くの試練を課さねばならない。まずは諸君らが、この先の苦難に耐えられる人物であるかどうかを、自身で示していただこう」


 その言葉を待っていたかのように、会場に集まる他のグループに動きが見える。


「おいおい、そう言うことかい」


 クエルの隣にいたジェームズが、ぼそりとつぶやいた。


「何が――」


 クエルはジェームズに問いかけようとしたが、どうした事か、その姿も背後にいたピエロの人形も消えている。


『マスター!』


 代わりにセレンの声が頭の中に響いた。


『これから始まるのは狩りだ』


『狩り?』


 だがセレンが続きを語る前に、次官が再び拡声器を手にする。


「では、私が『これまで』というまで、諸君ら自身で、誰が選抜に残るべきかの選抜を行ってもらう。なお、練兵場から出た場合、その時点で失格とする。では始め給え!」


『マスター、狩りの獲物は我々だ』

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