処刑
「な、何故お前がここに……!?近衛兵は、どうした!?」
真っ先に正気を取り戻したカイル陛下は、焦ったように冷や汗を垂れ流す。
バケモノでも見たかのように震え上がる彼を前に、私は思わず苦笑した。
「近衛兵なら……いえ、カラミタ王国の国民なら、全員魔法で眠らせましたよ。あなた方も、さっきまで眠っていたでしょう?」
「な、なっ……!?まさか、お前は王国全体に魔法を展開したとでも言うのか!?」
「ええ、そうですよ。私は魔導王の娘ですから」
『これくらい、出来て当然です』と言い放ち、私は両腕を組む。
仁王立ちする私を前に、カイル陛下は少しだけ後ずさった。
蛇に睨まれた蛙のごとく、彼は怯え切っている。
────でも、この場で一人だけまだ状況を理解出来ていない者が居た。
「ねぇ、貴方は一体誰なの?用がないなら、さっさと出て行ってくれないかしら?」
カイル陛下の腕にもたれ掛かり、座ったままこちらを見上げるのは─────側妃のレイチェル様だった。
リナさんの母親だけあって、無礼極まりない人である。
これなら、繁華街の娼婦の方が幾分かマシだろう。
「私はエスポワール王国第一王女ニーナ・ホールデンですわ。ここへは戦争をしに……いえ、あなた方の首を取りに来ました」
「私達の首を……?あはっ!貴方、面白いことを言うのね?私は陛下の寵愛を一身に受ける妃よ?私が死ぬなんて、そんなことある訳……」
「─────ありますよ」
レイチェル様の言葉を遮り、私は真っ直ぐに前を見据えた。
「何か勘違いされているようなので言わせてもらいますが、王族だって死にますし、殺されますよ?特に戦争では……」
「なっ……!?う、嘘よ!」
「嘘じゃありません。敗戦国の王族は、滅びるのが通例です。そして─────私は今から、あなた方を殺します」
『殺す』とハッキリと宣言すれば、レイチェル様は顔色を変えた。
先程までの余裕はどこへやら……すっかり縮こまっている。
私は一つ深呼吸すると、カイル陛下とレイチェル様に向かって、手のひらを翳した。
「い、嫌……死ぬなんて、絶対に嫌よ!お願い!私だけでも、助けて!」
「い、いや!私を助けてくれ!!他の奴らは、殺して構わん!もちろん、レイチェルも!」
「な、何ですって!?男なら、私を助けなさいよ!何で私が貴方のために、死なないといけないの!?」
「私が生き残るために死ぬのだ、光栄に思え!大体こうなったのは、リナをきちんと教育出来なかったお前のせいだぞ!!」
ここに来て、仲間割れを始めたレイチェル様とカイル陛下は、ギャーギャーと騒ぎ立てる。
醜い争いを繰り広げる彼らに、私は冷たい眼差しを向けた。
そして─────風の刃で、情け容赦なく二人の首をはねた。
ブシャッと飛び散る血飛沫を他所に、二人の生首は床に落ちる。
私は今─────初めて人を殺した。




