破滅の足音
味方の到着を待たずに、王城に足を踏み入れた私はまず────玉座の間へ向かっていた。
城の中には、魔法で眠りについた大量の兵士がおり、みんな気持ち良さそうに眠っている。
ただ負傷者・重傷者関係なく兵を集めていたのか、怪我人の姿もあった。
痛くて戦争どころじゃないだろうに……城の警備に無理やり、駆り出されて可哀想だわ。でも、このくらい兵士を集めないとカイル陛下も安心出来なかったんでしょうね。
床に転がる兵士達を踏まないよう注意しながら、私は歩みを進める。
そして────ようやく玉座の間の前までやって来た。
観音開きの大きな扉に手を掛け、ゆっくりと開く。
すると、そこには────カラミタ王国の国王夫妻と見知らぬ女性の姿があった。
彼女は一体、誰かしら……?玉座の間に居るくらいだから、権力者であるのは間違いないけど……って、ん?ハニーブラウンの長髪にピンクの瞳……?ってことは、まさか……!?
「────この方がレイチェル様……!?」
リナさんの実の母親であり、カイル陛下の寵愛を一身に受けるっていう、あの……!?
リナさんと瓜二つと言ってもいい、彼女の顔をまじまじと見つめる。
国王の寵愛を賜るだけあって、彼女はとても美しく……そして、愛らしかった。
「綺麗な手……きっと苦労なんて、一度もしたことがないんでしょうね」
傷一つない手を一瞥し、私は玉座の間をグルッと見回す。
部屋の造り自体は、エスポワール王国と大して変わらないが、一つだけ異なる点があった。
それは────逃亡用の隠し通路があること。
固定された玉座の後ろには、地下へと繋がる階段があり、風の音を響かせている。
通路の先は恐らく、外に繋がっているのだろう。
この状況から考えて、カイル陛下はレイチェル様を連れて、逃亡しようとしたみたいね。
それをケイト王妃陛下が止めていたって、ところかしら?国のために命も投げ出せる彼女なら、逃げようなんて考えないだろうし。
今後のことを考えて、戦火の火種となり得るお二人を引き止めていたんだわ。
「ケイト王妃陛下の国民愛には、敵わないわね」
私は誰に言うでもなくそう呟くと、パチンッと指を鳴らした。
魔法の効果から外された三人は、それぞれ目を覚ます。
「ん……?何だ、ここは……?」
「あれ……?私達は何で眠って……?」
「私は一体、何を……?」
まだ意識がハッキリしていないのか、三人はボーッとしながら、体を起こした。
さてと────早速で申し訳ないけど、始めましょうか。
「─────皆さん、おはようございます。良い夢は、見られましたか?」
「「「!?」」」
ニッコリ笑って声をかけると、三人は勢いよくこちらを振り返った。
彼らの瞳は、それぞれ色んな感情で溢れている。
動揺、混乱、恐怖……そして────安堵。まさに三者三様の反応だ。
ケイト王妃陛下、約束通りこの国を滅ぼしに来ましたよ。




