母は強し
「カーティス王子は何故────ニーナを庇って下さらなかったの?」
花が咲くような笑顔とは裏腹に、母は責め立てるような口調で質問を投げ掛けた。
カーティス様はビクッと肩を震わせ、動揺を露わにする。
と同時に迷うように視線をさまよわせた。
お母様の言う通り、カーティス様はリナさんが結婚式に乱入した時、私を庇ってくれなかった。私を庇うような発言は幾つかあったけど、総合的に見ると庇ってくれたとは言い難い……。
保身のためにリナさんの暴走を止めようとしたとしか、思えなかった。
おまけに本気でリナさんの暴走を止め始めたのは、オリヴァー様が現れてから……つまり、彼は口汚く罵られる私を見ても、どうでも良かったってことだ。
「私もあの場面を直接見た訳じゃないから、確かなことは言えないけれど……魔映石に保存された映像を見る限り、貴方がニーナを庇った場面は一度もなかったわ」
「そ、れは……混乱していて……」
「そうね。あのトラブルは誰も予想していなかったし、混乱するのも無理ないわ。でも────人は混乱した時こそ、本性を表すものよ」
「っ……!!」
お母様に痛いところを突かれたカーティス様は、グニャリと顔を歪めた。
膝の上に置いた手を強く握り締め、視線を右往左往させる。
その姿はまるで迷子になった子供のようで……とても哀れだった。
「これはあくまで政略結婚だから、『娘を愛しなさい』なんて無茶な要求はしなかったわ。でも、その代わり私は貴方に『娘を守ってあげて』とお願いした。その時、貴方は確かに『お任せ下さい』と言ったわよね?それなのに……これが貴方の答えなの?」
「そ、れは……」
「貴方はあのとき、リナ王女から娘を庇うべきだったのよ……それだけは言っておくわ」
「……はい」
母は強しと言うべきか、お母様はカーティス様に容赦なく言葉という名のナイフを突き刺した。
よっぽど母の言葉が胸に刺さったのか、カーティス様は暗い面持ちで俯く。
今思えば、あの時が……結婚式でリナさんが乱入してきた時が、カーティス様の運命の分かれ道だったのかもしれないわね。
「うふふっ。なんだかお説教みたいになってしまって、ごめんなさいね?歳をとると、どうも口うるさくなると言うか……とにかく、言いたいことは全部言えたから、先に進んでもらって結構よ。お話を中断させてしまって、ごめんなさいね」
母は扇で口元を隠し、『おほほほっ』とわざとらしく笑い声を上げる。
そうすると、暗くなった雰囲気が少しだけ明るくなった。
「で、では最後に────リナ王女とカーティス王子の関係について……お二人が体の関係を持っていたことは、事実ですか?」
今回の話し合いで最も大切な部分とも言える問い掛けに、カイル陛下は僅かに口元を緩める。
そして、落ち込んでいるカーティス様の代わりにこう答えた。
「─────事実ではありません」




