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優しくて狡い人

 オリヴァー様ほど、都合のいい証人は居ないけど……昨日もたくさん迷惑をかけたし、これ以上彼の好意に甘える訳にはいかない。もし、少しでも証人になることを躊躇っているなら、きっぱり断らなくては……!


「私は全然構わないよ。というか、むしろ話し合いに参加させて欲しいくらいさ」


「そ、それなら構いませんが……皇帝陛下はなんと?」


「私の好きにしていいと言っていたよ。ホールデン家に恩を売るのは、ルーメン帝国としても喜ばしいことだからね。まあ、私は損得勘定抜きで君の力になりたいと思っているけど」


 柔らかい笑みを浮かべるオリヴァー様は淹れたての紅茶を一口口に含み、『あっ、これ美味しいね』と絶賛する。

かなりリラックスしている彼の様子から、嘘を言っている訳ではなさそうだった。


 皇帝陛下からの許可も下りてるなら、これ以上遠慮するのは逆に失礼になるわね。ここはオリヴァー様の好意に甘えておきましょう。


「そういう事なら、是非立ち会いをお願いいたします。父への報告は私の方からしておきま……」


「いや、それは私がやっておくよ。ニーナ王女は、昨日の後始末で忙しいだろう?それに君を介して話をするより、陛下と直接話した方が早いからね」


「わ、分かりました。では、父への謁見申請だけしておきますわ」


「ああ、ありがとう」


 爽やかな笑みを浮かべるオリヴァー様は、残りの紅茶を綺麗に飲み干した。

ティーカップをテーブルの上に置き、ゆっくりと立ち上がる。

私もそれにつられるように、慌てて席を立った。


「それじゃあ、私はここら辺で失礼するよ。お昼休みを邪魔して悪かったね」


「い、いえ!お気になさらないでください!」


 オリヴァー様の言葉に、私は『とんでもない!』とばかりに首を横に振った。


「こちらこそ、何のお構いも出来ず失礼しました。そのお詫びと言ってはなんですが、客室までお送り致しますわ」


「いやいや、結構だよ。突然押し掛けたのに、そこまでしてもらうのは気が引けるからね。それに君の貴重な時間をこれ以上奪うのは、申し訳ない」


「で、ですが……」


「見送りだけで十分だよ。気を遣ってくれて、ありがとう」


 そう言って、オリヴァー様は私の頭をポンポンッと優しく撫でてくれた。

その手つきがあまりにも優しくて……何も言えなくなってしまう。


 昨日から、オリヴァー様の好意に甘えてばかりね……。でも、不思議と悪い気はしない。もちろん、申し訳ない気持ちはあるけれど。


「それじゃあ、僕はこれで……。あまり無理をし過ぎないようにね」


 扉の前まで来たオリヴァー様は『体に気をつけて』と言い残し、部屋を後にした。

パタンと閉まる扉の音を聞き流しながら、私はそっと自分の頭に触れる。

────まだそこにオリヴァー様の温もりが残っているような気がした。


 本当に狡い人……。

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