予想外の訪問者
────それから、お昼になるまで仕事を続けた私は、束の間の休息を楽しんでいた。
侍女の用意してくれたサンドウィッチを頬張りながら、『ふぅ……』と息を吐く。
『午後から、謝罪回りか』なんて考えていると────部屋の扉を叩かれた。
こんな時間に一体誰かしら?今日は訪問者の予定なんてなかった筈だけど……。
「どうぞ」
「失礼するよ」
全く身に覚えのない訪問に首を傾げる中、ガチャリと扉が開く。
そして、扉の向こうから現れたのは────銀髪紫眼の美青年だった。
え、はっ……!?オリヴァー様……!?何でここに……!?
驚愕する私を置いて、部屋を訪ねてきたオリヴァー様はこちらへ歩み寄る。
「昼食中にすまない。どうしても、君に話したいことがあって……」
「えっ?あ、いえ!気にしないで下さい!」
私は手に持つサンドウィッチを慌ててお皿に戻すと、椅子から立ち上がる。
『そこまで畏まらなくていいよ』と笑うオリヴァー様に、私は急いで席を勧めた。
ソファに座る彼を横目に、慌ててお茶を用意する。
「申し訳ありません。こんな物しか用意出来なくて……」
「いやいや、突然訪問した私が悪いんだから気にしないでおくれ。それに────君の淹れてくれたお茶なら、大歓迎だよ。まるで夢のようだ」
「うふふっ。オリヴァー様は大袈裟ですね」
場を和ませるオリヴァー様のジョークに笑いつつ、私は向かい側のソファに腰を下ろした。
「それで本日はどういったご用件でこちらに?」
午後も予定がギューギュー詰めになっているため、私は直球で質問を投げかける。
会話を急かす私に、オリヴァー様は気を悪くするでもなく、おもむろに口を開いた。
「一つニーナ王女に相談……というか、聞きたいことがあってね」
「聞きたいこと、ですか……?」
「ああ。実は────キャンベル王家とホールデン王家の話し合いに証人として私も立ち会おうと思うんだが……ダメだろうか?」
捨てられた子犬のような目でこちらを見つめるオリヴァー様は、コテンと首を傾げる。
母性本能を擽られるあざとい仕草に、私は頬を僅かに上気させた。
それは狡い……!あざと過ぎるわ!
────って、そうじゃなくて!
「よろしいのですか?王家同士の話し合いに同席するのは、それなりにリスクを背負うことになりますが……」
王家同士の話し合いは、国同士の話し合いと同じ。そこに皇太子であるオリヴァー様が介入するとなれば、ルーメン帝国にも少なからず迷惑を掛けてしまう。
まあ、こちら側としては嬉しい限りだけど……。
何故なら、王家同士の話し合いには立会人と仲裁役が必要だから。
仲裁役は基本的に神殿の人間にお願いするけど、証人は中立の立場にある他国の権力者にしかお願い出来ない。
王族同士の話し合いである以上、下手な人間を証人にする訳にはいかなかった。




