97 誰か手を振っているが
「佐藤君、君が悩むことはない。 これは政治家の仕事だ」
山本が笑いながら俺に言う。
俺も苦笑いしながら山本に聞いてみた。
「山本さん、あなたの考えではどうなると思います?」
俺の質問に山本が目を閉じて考えていた。
「そうだなぁ・・私個人の考えだが、いくつかの種族の連合国みたいなものになるんじゃないかな」
山本が言う。
「連合国ですか・・なるほど・・俺も詳しくはわからないですが、三国志のような感じですかね?」
俺は適当に答える。
「そうだねぇ・・我々も常にシミュレーションしていたことだが、まさか現実に内部爆発するとは思ってもみなかったよ。 トップが倒れて大国としては迷子になる。 それにあの国はいろんな部族・民族がいるからね。 地方によっては言葉も違う。 そういった集まりを作って収束していくんじゃないだろうか・・あ、これは私の勝手な考えだよ」
山本が苦笑いしながら答える。
「山本さん、俺もそろそろ帰っていいですかね」
俺はソファに座ったまま聞いてみた。
「おっと、そうだったね。 会議もまだまだ続くようだし・・うん、今日はご苦労様でした。 また明日の昼頃にでも来てくれればいいよ」
山本はそう言うと俺を見送ってくれる。
俺も軽く会釈をして帰路についた。
この会館を後にして街に出る。
時間は24時前。
街はまだ騒がしい。
◇
俺が今泊っているホテルに向かって移動していると、チラっと俺の目の端に写る映像があった。
道路の反対側のビル影に隠れるように立っていた。
俺は思わずその方向を向く。
!
目立たないような恰好でいて、俺にはわかるように軽く手を振る。
誰だ?
俺はゆっくりとその手を振っていた人のところへ近づいて行く。
俺が近くまで来ると、手を振っていた男が周りを気にしながらニヤッとしたようだ。
夜だというのにサングラスをしているので、顔つきはよくわからない。
俺よりは遥かに身長はある。
「やぁ、テツ君だね」
男が手を降ろして話しかけてきた。
俺の記憶にある声にはいない。
俺が不審そうな顔で見ていると、男はサングラスをずらした。
!
ん?
外人か?
俺が覗き込むように見ると男が名乗る。
「あぁ、すまない。 俺はデイビッドって言うんだ。 以前、サラと一緒に日本の空港に来たことがあるんだが・・覚えているかな?」
サラからも聞いていたので、俺もすぐに理解した。
同時に少し警戒もする。
デイビッドは周りを気にするようにして言う。
「まぁそう警戒しないでくれテツ君、少し話がしたいのだがいいだろうか」
眠いので明日にでも・・って、ダメかな?
「デイビッドさん、サラから聞いてますよ。 そうですね・・俺の宿泊しているところへ行きますか?」
デイビッドがうなずく。
俺たちはそのまま歩いて、俺の宿泊施設に向かった。
移動中、デイビッドはやはり周りを気にしているようだった。
俺の部屋に到着。
デイビッドが遠慮なくベッドに腰かけていた。
あの・・そこって俺が寝る場所なんですがね。
俺は仕方なく椅子に座る。
「デイビッドさん、いったいどんな要件なんでしょう?」
俺は聞いてみる。
移動中はあまりしゃべらなかったからな。
「あぁ、やっと落ち着いて話せる。 実は・・・」
デイビッドがいろいろと話してくれた。
アメリカではデイビッドは死んだことになっていること。
自分の存在をなるべくなら知られたくないこと。
これから日本で暮らしたいなど。
・・・
・・
「なるほど・・デイビッドさん、俺は別に敵対しなければいいですよ」
俺の返答にデイビッドが笑いながら肩をすくめる。
「敵対? あはは・・無理無理、俺も命が惜しい。 それに俺の人生は誰にも迷惑をかけずかけられずに子供や孫にバカにされながら生きていくことだよ。 楽しければいいんだ」
「デイビッドさん、俺では役に立ちそうにないのですが、今俺が属しているところに話をしてみてはいかがですか? 一応国の機関になるので、何かと便宜を得られると思うのですが・・」
俺の回答にデイビッドが真剣な顔で答える。
「国の機関か・・」
俺はデイビッドの顔を見ながら言う。
「デイビッドさん、どの道この国で生きていくのなら、その懐に飛び込んだ方が情報が手に入りますよ。 安全なんてどこにもないでしょうけど、何かあった時には初動が違ってくると思います」
俺の言葉にデイビッドが俺を見つめる。
「テツ君・・君はそう考えているのかね?」
「いえ、そういうわけではないのですが・・俺の場合は成り行きです。 でも、考えてみると周りを気にしながらでは限界がありますしね。 それに俺たちみたいな帰還者が多くいれば、それだけ他からは脅威に見えるでしょう。 だからこそ邪険には扱われないんじゃないかと思っただけです」
俺は今思いついたことを言ってみた。
「なるほど・・」
デイビッドが考え込んでいる。
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