95 若い連中
<テツ>
ケンたちの背中を見送り、俺は帰ろうと思っていた。
時間は21時を過ぎている。
もう夜も深くなってくるのに、人が途絶える気配はない。
テレビ塔の下ではいろんな人が行き交っている。
ただ、その人の層は変わっているのがわかる。
学生や会社員の雰囲気を持つ人は少なくなっていた。
代わりに自由人のようなタイプが増える。
後は酔っ払いの連中だ。
俺はベンチからゆっくりと立ち上がると、20歳くらいになっているかどうかという若者たちが近寄って来る。
ニヤニヤして俺を囲むように集まって来た。
5人だ。
・・・
おかしいなぁ・・俺ってこういうタイプには絡まれることはないはずなのに。
若い連中の1人が間違いなく俺を見て声をかけてきた。
「おじさん、女子高生に手を振って・・今どき援交って流行らないよ」
・・
なるほど・・俺がリカの背中に手を振っていたのを見たんだな。
ケンのことはわからなかったようだ。
俺は声をかけてきた若者を見て言葉を返す。
「いや、彼女は知りあいの子なんだ」
「うんうん、みんな知り合いだものなぁ・・こういうおっさんは」
若い男は俺の話は聞く気はないようだ。
「おっさん、お金持ってる?」
違う若者がいきなり言ってくる。
おい!
どストレートだな。
俺は思わず可笑しくなった。
「ハハ・・おっさん、何笑ってんだ?」
「今からお金を出すのがそんなにうれしいのか?」
俺を囲んでいる若い連中が言う。
通行人たちは我知らぬ顔で行き過ぎて行く。
まぁ、誰も揉め事には巻き込まれたくないよな。
それにこんな見た目からして、いかにもって連中だ。
首のところにタトゥも入れてるしな。
「いや、そんなんじゃない」
俺は取りあえずそう答えてゆっくりと歩き出そうとした。
「それじゃ、俺はそろそろ帰るから」
若い連中は一瞬何が起こったのかわからないと言った感じだ。
!!
「ちょ・・おい、待てよおっさん!」
若い連中の1人が俺の肩に触れようとする。
俺はスッと身体を躱して横に避けた。
若い男の手が空中で泳いで少しよろける。
「おっと・・おっさん、うまいこと避けるじゃねぇか」
俺を掴めなかったのが恥ずかしかったのか、顔が少し引きつっていた。
勝手に肩を触れられるのは好きじゃない。
俺は若い連中に向き直って言う。
「俺、金持ってないから無理。 それじゃあな」
俺は片手を挙げてその場を離れようとする。
「待てよおっさん!」
俺を5人で囲む。
「金持ってないって、そりゃねぇだろ」
「そうだぜ。 俺たち、今日の夜過ごす小遣いが欲しいんだ。 だからこうやってバイトしてるんじゃねぇかよ」
「俺たちも争いごとは面倒なんだ」
「そうそう、こいつなんて喧嘩で負けたことないからな」
アハハ・・
若い連中が笑いながらうなずいている。
バイト?
俺は一瞬意味がわからなかった。
だがすぐに判明。
「お前たち、これって恐喝ってやつだぞ」
俺は正論を言う。
「おっさん、他のおっさんたちはみんな快く支援してくれたぜ。 脅してはいない、なぁ?」
「あぁ、俺たちは脅してはいない」
俺は若い連中の言葉を聞いて思った。
なるほどな・・みんな面倒事に巻き込まれたくないのだろう。
少しお金を出して、うっとうしいハエを追い払えればそれでいいというわけだ。
それにこいつらもそんなことはわかっているだろう。
しつこく一人にたかったりしないのだろうな。
不特定多数から少しずつ巻き上げているのだろう。
「あのなぁ、ほんとに俺は金持ってないんだ。 他を当たってくれ」
俺がそういうと若い連中はニヤニヤしながら回答してきた。
「おっさんジャンプしてみろよ」
「おぉ、そうだな。 確かジャラジャラって音が鳴るんだっけ?」
・・・
・・
若い連中が楽しそうに話している。
今どきそんな昔の不良がやっていたようなことってするのか?
電子マネーの時代だぞ。
というか、こいつら本当に暇なんだろうな。
平和だなぁ。
隣の国では大変なことが起こっているというのに。
俺はうんざりしてきた。
「はぁ・・お前たち、いったいいつの時代の話をしているんだ。 俺はもう帰るよ」
俺が一歩踏み出そうとすると、若い連中の1人が俺を捕まえようと手を伸ばしてくる。
俺はその男の手首をスッと掴み、軽く捻って足を払った。
ドン!
若い男はそのままきれいに仰向けで地面に倒れていた。
倒れる時に手首を引き上げたから、それほど衝撃はないだろう。
!!
若い連中は驚いたようだ。
「や、やろう」
「おっさん、やりやがったな」
「そうだぜ、正当防衛だ」
・・・
・・
若い連中の1人が懐からナイフを抜き出していた。
おい、マジか!
こんな街中でしかも人が多くいる場所でナイフを振り回すのか。
俺は少し驚いた。
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