89 報告
山本が移動しながら話してくれる。
クソウは帰って来てから人が変わったように真面目になったと。
「閣下はドイツから帰られて、人が変わったようだよ。 まさかここまで日本のことを考えているとはね。 あ、佐藤君、君の心配している学生たちだが、今はそれぞれの家に帰っているよ。 我々のSPもそれとなく付けているがね」
「そうですか・・それは良かった」
「で、君の方はどうだったのかね? 私たちのところには情報が思うように入って来ないのだよ」
山本はそう言いながら、クソウのいる部屋のドアをノックする。
「閣下、入ります」
「どうぞ」
クソウの声が聞こえた。
ドアが開かれて、俺たちは中へ入る。
「佐藤君、お疲れだったね。 まぁ座り給え」
クソウが労ってくれた。
俺はソファに座る。
クソウが俺の正面に移動して腰を下ろす。
「佐藤君、中国だが・・どんな感じかね?」
クソウが早速聞いてきた。
俺は正直に伝えようと思っていた。
ただ、戦闘などの情報は不要だろうと思う。
テンジンの能力にしても、まだまだよくわからない。
だからこそわかることだけを伝える。
「はい、実はバッキンダック主席ですが・・亡くなりました」
クソウと山本の動きが止まる。
二人はゆっくりと顔を見合わせて、俺の方を向く。
「亡くなった・・いったいどういうことかね?」
クソウが真剣な顔をしている。
俺は少し可笑しくなった。
亡くなったと報告をしたのに、どういうことかとはこちらが聞きたい。
「クソウさん、そのまま言葉通りです。 俺たちの目の前で死にました」
クソウと山本は、また同じ動作を繰り返す。
「佐藤君・・影武者じゃないよね?」
クソウがつぶやく。
俺はその言葉に考え込んでしまった。
そうか・・確かに。
影武者という存在を考えていなかった。
・・・
だがなぁ・・あの状況で影武者ってあるのだろうか。
それなら初めから影武者って落ちだろうが、どうなのだろう。
「クソウさん、それはわかりませんね。 ただ、バッキンダック主席と呼ばれている人が亡くなったのは事実です」
俺は事実を報告する。
「ふむ・・それよりも、中国軍がかなりの規模で出動していたはずだが、どうなったのかね?」
クソウが訊ねてくる。
「あぁ、軍ですか・・それは全滅ですよ」
俺はサクッと答えてしまった。
「「は?」」
クソウと行政官が言葉を失う。
俺も言葉を失う。
・・・
「さ、佐藤君・・軍が出動したんだよね? いくら帰還者といえども軍だよ、軍」
クソウが軍、軍と繰り返す。
俺も言った瞬間にしまったと思っていた。
やはり常識的に判断しても全滅はマズかったか。
とはいえ、生き残りはいないし。
「えっと・・はい、全滅です」
クソウと行政官がしばらく考えていた。
「う~む・・山本君・・どうなるんだろうね?」
クソウがつぶやいていた。
「さ、さぁ・・今までにないことですから・・」
・・・
クソウがゆっくりと俺の方を向く。
「佐藤君、その中国軍を全滅させたのは・・帰還者だよね? どうなったのかね?」
「はい、チベットに帰って行きました」
「君は何もしなかったのかね?」
「はい、私は何もしてません。 見ていただけです」
クソウが両腕を組み、また考えていた。
「佐藤君、そのチベットの帰還者と接触はしたのかね?」
クソウが少し目を細めて聞いてくる。
クソウの質問攻めだ。
「えぇ、会話しましたよ。 特に害意はあるような人物ではないようでした」
俺がそう答えると、クソウが立ち上がる。
「佐藤君・・害意がないどころか、完全なテロリストじゃないか。 それも大国の主席を倒し、軍まで壊滅させたのだ。 いったいどう言い訳をするつもりなのかね?」
俺はクソウの言葉を聞き、少し考えてみた。
なるほど・・確かにクソウの言う通りだ。
国に属していればそうなるよな。
向こうでも人間や国家はみんなそんな考えだった。
だが、魔族や龍族ではそんな面倒くさいことはなかった。
確かに王はいる。
だが、重鎮以外はみんな冒険者みたいなものだ。
各個人の力量で生きていた。
だから俺もテンジンのやったことを別にどうとも思っていない。
だが、これは俺の常識が違っているだけだ。
クソウの見方が正しいというか、正常なのだろうと思う。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
よろしければ、ブックマークなど応援お願いします。




