72 思惑
そのまま何の躊躇もなく俺は飛び出した。
後ろで行政官が驚いていたのかどうかわからない。
だが、グングンと落下しているようだ。
飛行機はすでに豆粒以下になっていた。
俺は身体に魔法を纏う。
ふわっと身体が浮く感じがする。
そのままゆっくりと落下していく。
足下の方は真っ暗だ。
・・・
・・
ある程度落下していくとわかってきた。
なるほど・・遠くに強い魔素を感じる。
かなりのものだ。
これが報告にあった帰還者だろう。
俺は落下しながらも、なるべくその魔素の強い方向へと向かう。
トンッと、地上に到着。
「さてと・・」
俺はその強烈な魔素に向けて走り出す。
フンッ!
結構な力を込めて踏み出した。
同時に超加速のスキルを使用。
注意しないといけないのは、相手に気づかれるとまずいだろうということだ。
俺とは面識はない。
相手が驚いて話し合いにすらならないかもしれない。
いきなり戦闘になどになったら・・嫌だな。
俺はそんなことを考えながら移動して行った。
リアル時間では数秒単位だろう。
◇
<とある部屋>
品の良い年配とも言えない人物がモニターの前に座っている。
部屋をノックする音が聞こえた。
コンコン・・
「どうぞ」
その返事の後、ゆっくりとドアが開かれて若い男が入って来る。
「どうだったかね、クリストファー君」
シュナイダーだった。
「はい・・お館様のご想像通り、中国はかなり混乱しているようです。 それにロシアの方でも動きがあったようです」
クリストファーが報告をしていた。
「うむ・・定時会合が行われる予定がない。 何かが起こっているのだ。 主催していたホストが運営していないのかもしれない。 とにかく情報が欲しいところだね」
シュナイダーが肩をすくめてみせる。
「はい、おっしゃる通りです・・お館様、私が無理のない範囲で情報を集めて参りましょうか?」
クリストファーが言う。
シュナイダーは即答できなかった。
もしこのままクリストファーがいなくなってしまったら、それこそ本当に孤立してしまう。
とはいえ、ジッとしていても始まらない。
少し考えた末、シュナイダーは決断を下す。
「クリストファー君、無理のない範囲で行って来てくれるかね」
シュナイダーの言葉にクリストファーはうなずく。
◇
<ディアボロス>
プッツン大統領ことディアボロス。
中国とロシアの国境付近のところの山岳地帯に潜伏していた。
頬の傷はまだ癒えていない。
ディアボロスは頬に触れながら思う。
あの男・・テツといったか。
いったい何の宝具を使ったのだろうか。
魔王様からの下賜されたものだろう。
用心せねばならないな。
・・・
少し考えてうなずく。
少し早いが、我が糧になってもらうか。
ディアボロスによって世界中にばらまかれた、新型コロナワクチン。
ディアボロスの血が混ぜられていた。
目に見えるものではない。
ナノミリメートル以下にまで細分化された魔族の細胞。
人の細胞と結びつき増殖する。
すべてはディアボロスの糧となるために。
全世界にばら撒かれて結構な時間が過ぎたことだろう。
帰還者なるものが続々と帰って来ているようだ。
まさかこんなに早く糧が必要になるとは考えてもいなかった。
当初、世界の金持ちたち、ビリオネアなる人物たちが増え過ぎた人類を管理しようと計画をしていることを知る。
ディアボロスは興味を持った。
それでリモートによる声だけの会議を企画提案。
世界のビリオネアたちの指示を得て運営していた。
ディアボロスは思う。
そのまま死なせてしまうのはもったいない、と。
そこでワクチンと称した自分の細胞を打たせて隷属化。
自分の糧にしようと計画。
ロシアで開発したことにして、中国と極秘裏に提携。
実験を重ねてディアボロスの細胞の定着化を確かめていた。
1~2年ほどで糧として用を足すことが確認されつつあった。
細胞が定着化したものは、ディアボロスの意思によって命を左右される。
ある日突然亡くなったりもした。
死因は不明。
だが病的なものは発見されない。
ビリオネアたちも証拠が残らないと喜んだものだ。
そして、その削減された人の魂を自分のエサにしようと思っていた。
力をつけて魔族に報復しようと考えていた代物だが、人間の方から私に圧力をかけてきた。
万が一にも私の身体に大きな傷がついてしまうと、その修復のためにせっかくの糧が無駄になる。
この頬の傷を癒すのに1000人程の魂があれば問題ないだろう。
ただこの糧だが、回収するのに難点がある。
私を中心として球形状の範囲でしか回収できない。
つまり、自分の位置が把握されてしまう。
気をつけねばあの宝具を持つ帰還者と遭遇となるかもしれない。
まぁ、常に移動しながら回収すればよいが、それほど都合よくいくかどうか。
とはいえ、このままでは安全は保証されない。
ディアボロスはそんなことを考えながら、魔法陣を完成させていく。
◇
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