53 会食
「クソウさん、そろそろ軽く食事でもいかがですか? 既に用意はできております」
「ありがとうございます。 では遠慮なくいただきます」
メリケン首相たちは立ち上がり、隣の部屋へと俺たちを連れて行ってくれた。
隣の部屋では食事の用意が整っていた。
立食のようだ。
バイキング方式のようだが、皿を持って行くと軽く食事を装ってくれる。
俺は正直ホッとした。
クソウが部屋を移動する時に俺に囁いてきた。
「佐藤君、緊張しているところからこういった和やかな雰囲気に移動。 そして食事という欲を満たしてくれる場所・・人は秘密をついつい漏らしてしまうものだ。 気を付けてくれ」
俺もその言葉がなかったら、気づかないうちにベラベラとしゃべっていたかもしれない。
食事はおいしい。
それを一口食べて俺が美味しそうな顔をしたのだろう。
メリケン首相がすかさず近寄ってきていた。
「佐藤さん、お口に合いましたか?」
「えぇ、とても美味しいです。 ありがとうございます」
「それは良かったですわ。 佐藤さん、あなた向こうの世界では勇者として召喚されたと聞いております。 アンナたちと同じですわね」
「はい」
「どんな世界でしたの? アンナたちから聞いてもおとぎ話のような感じしか受けません」
メリケン首相は気さくに聞いてくる。
俺もクソウの言葉がなかったら本当に軽く答えていただろう。
「そうですね、アンナさんの話されている通りだと思います。 日本のアニメのような感じですね。 ただ、今メリケン首相とお話できるように、言葉を自動で変換する能力がスキルというもので、一番ありがたいです」
「なるほど・・スキルですか。 他にはどんなスキルがあるのでしょう?」
「わかりません・・スキルは人によって違うみたいですから」
メリケン首相は明らかに情報を得ようとしているようだ。
だが、焦っている感じは全くない。
「なるほど・・佐藤さん、実は先ほどロシアにも帰還者がいると言ったでしょう。 私の国の調査員が消えたのです」
メリケン首相のその言葉をクソウが聞いたのだろう。
俺たちの方へ近寄って来た。
「メリケン首相、おいしいお食事ありがとうございます。 ロシアの話ですかな? 私も混ぜていただきたいものですな」
「えぇ、無論そのつもりです」
俺は疲れてきた。
もしクソウが来なければ、俺とだけ話していたんじゃないのか?
というか、言葉1つ1つに地雷が仕掛けられているような感じがしてきた。
それにしてもクソウのおっさん、耳がいいな。
長年こんな世界で生きているのか?
そりゃタヌキだろうよ。
俺はそんなことを思ってみたが、とにかく疲れる。
クソウとメリケン首相が話合っていると、アンナが俺の所へ来る。
横にはクラウスがいた。
「佐藤さんでしたな。 クラウスです」
クラウスが片手を出す。
俺も片手を出して握り返した。
「クラウスさん、よろしくお願いします」
握手を外すと、クラウスが言葉を出す。
「佐藤さん、アンナから聞いたかもしれませんが、あなたたちはブレイザブリクからの脱走者ということでした。 それにとても傲慢で手に負えなかったと・・まぁ、アンナから話を聞き、今お会いしてその情報がどうも作られていたと感じております。 もしかして、他にも帰って来ている連中は私たちと同じように思っているかもしれませんね」
「私もその話を聞いて驚きました。 そんな話になっていたのですね。 私たちは魔族領域との境界付近に放り込まれたのに・・ですがあの国はもう存在しないのではありませんか?」
俺が返答するとクラウスは苦笑いをしてうなずく。
「確かに・・」
「そうよ、いったい何故滅んだのかしら?」
俺が神を解放したからです。
俺は心の中で即答していた。
「そうだよなぁ・・まぁ、今テツさんを見て思うよ。 策士策に溺れるというやつだな。 我々を召喚して勇者を兵器として利用しようとした連中なんだ。 滅んでくれて正直ホッとするよ」
クラウスが笑いながら言う。
俺も笑いながらうなずく。
そんな俺たちにクソウが声をかけてきた。
「佐藤君、ちょっとこっちへ・・」
俺はクラウスとアンナに挨拶をしてクソウのところへ行く。
「クラウスさん、アンナさん、呼ばれていますので行きますね」
アンナとクラウスは俺の背中を見送りながらつぶやいていた。
「クラウス・・あなた随分ね」
「何がだい?」
「ブレイザブリクのことよ」
「あぁ・・だが、正直滅んでくれてよかったよ」
「よく言うわね。 あなたは随分戦いを楽しんでいたように思うけど・・」
クラウスは両肩をすくめて笑う。
「アンナ・・俺はレベルを上げるために頑張っていたんだ。 人殺しを楽しんでいたわけじゃない」
「ものは言い様ね」
「まぁいいじゃないか。 今、こうやって生きていられるんだから」
「ハハ・・そうね」
「それよりもアンナ、彼は魔族領域に放り込まれたんだろう? よく無事に生き残ったものだ」
「えぇ、さっきも話したけど、私たちが聞いていた情報と全然違っているわね」
アンナが苦笑する。
「確かに・・魔族は人を喰らいレベルを上げるなんて話もあったものな。 まぁ、ブレイザブリクの連中は、自分たちのことだけを考えていたし、俺も偉そうなことはいえないがな・・アハハ」
クラウスはカラカラと笑っていた。
アンナは笑えない。
確かにテツからの情報では魔族は好戦的ではなかったようだ。
だが、私たち召喚された勇者でも戦えるかどうか怪しい強さなのは間違いない。
実際に召喚された勇者が倒されたりもした。
その魔族で生き残ったテツ。
見た目は大したことはなさそうな感じを受ける。
典型的な日本人のようだ。
アンナは安心するとともに、少しの違和感も感じてはいたが、言葉にはならない。
◇
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