【かなりあとの話-3】王弟殿下の言葉を届けよう。
かなり後話、その3です。
翔視点で進みます。
「で、何でここに来れたんだ?」
キーシスは少し考えるように腕を組んで首を傾げた。
そして上目遣いになりながら話を始めた?
「難しいけど大丈夫?」
「ある程度理解できるとは思うが…」
美月さんはそこに興味があるようだ。
手を胸の前で組んで首をコクコク振っている。
変わらないな…。
「父はあなたに魔法をかけていたようです」
「ああ、知ってる。全く、あいつは心配症だな。
でもそれはかなり前に発動したぞ?」
「あ、はい、そうです。あなたが父を呼んだ時に一度発動してますね。でも父はもう一つあなたにかけていたんです」
「はぁ?」
「ねぇ、発動したって?いつ?」
身を乗り出して美月さんが会話に加わった。
「あ、いや…それは…」
恥ずかしくて言えるか!
「ねぇ?」
ああ…そんなすがりつく、捨てられた子犬みたいな目で見ないでくれ…。
「あ、あとで…あとから話すよ…」
キーシスが笑う。
「父の話どおりなんですね」
ジェイ…お前は俺のことなんて子供に話しているんだ。
いい事だけ話せよ!
「で、何だ?あと一つは」
美月さんはキーシスを見てまた目をキラキラさせた。
「あなたの精神がギリギリになったとき、まあ、美月さんに振られて自暴自棄になった場合を想定したん…「まてっ!おい…あっ…」
俺はキーシスの言葉を遮った。
ったくジェイの奴、なんてことを息子に言うんだ。
さらにこの息子、場を読め!場を!!
美月さんの前でそんなこと言うな!
あの父親にしてこの子有りだな。ったく。
チラッと見た美月さんは含み笑いをしていた。
…なんか嫌な目つきだ。
「で!」
「…すみませんね。ふふ」
…親子だ!やっぱりジェイの息子だ。嫌な奴だ。
「そんな時に発動するようになっていたんです。結果的にそうならなかったから発動しないで今もなおあなたと父を結んでいるのです」
「結ぶ?」
「見えませんか?ああここには魔法と言う観念がないから仕方ないですね。私には父から糸のようでいて、煙のような光のような魔力がでていたのは小さな頃からたまに見えました。それを追うといつも神殿の聖なる木に繋がっていた。まさかその木を通して異世界に繋がっているとは小さな時は思いませんでした」
「ジェイの奴…」
「もしあなたに何か有ればあなた自身引っ張ってこれるようになっています」
「はぁ?引っ張る?」
「言ってしまえばあなたの精神だけ私達の世界に連れてくるんです」
「おいこら!待て!そんなことしたら俺は死んでしまうだろ?」
「父曰く、そうなった場合、あなたにとってはここの世界は住みにくいだろうと…」
「はあ?」
ジェイの奴…さすが…と言うか何、そんなことしてたのか。魔力使ってんだ。そんな常に魔力だだ漏れさせて、なに魔力があるのを隠してるとか言ってんだ。
バレバレだろ。
「だからその繋がりを頼りに私はここに来ました。父はあなたに会いたがっていました。反面、会いたくもなかった」
「会えるのはあなたの精神がギリギリの状態になった時…。ジェイデン殿下はそんなあなたを望んではいなかった。あなたの幸せだけ願っていたのね。いい人よね」
「は?誰が!」
だいたい俺の意思も聞かずにそんな魔法掛けやがって、何がいい人だ。
しかし確かにあの時美月さんに拒まれたらどうなっていたか解らないけどな。
「でも父はその魔法が発動しないこと確信していました」
「は?何?」
「父は多分あなたの幸せを信じていました。あなたとのつながりが無くなるのが嫌だったのではないかと私は思っています」
「ジェイデン殿下は本当にあなたが好きね。ねぇ、翔。ふふふっ」
「だってラティディア様が言っていました。」
「えっ!」
隣で美月さんが驚いた声をあげた。
何やらかなり動揺し始めた。
「ラティディア様が言うには美月さんは翔のこと「キーシス!お茶冷めたわよね?おかわりする?コーラの方がいい?」
かなり挙動不審だ。
しかし俺は聞きたい。
「美月さん、俺が淹れてくるよ」
俺はすっとソファーから立ち上がりキッチンへ回った。
何やら美月さんとキーシスはコソコソ話している。
ふふふ
実は言っていないんだがあの世界から帰ってきてから少し魔法が使える。
魔力は誰でも持っている。
さっきキーシスが言ったようにその概念があるかないかだ。
少しコツを掴めば大丈夫。
ただ人種的にそんなに魔力は多くはないみたいだ。
水を出すとか、火を出す、物を動かすとかなんて出来ない。単に少し冷やすとか温めるとかならできる。
あとはほら。
少し遠くの話声を聞くくらいは日時茶飯事でできる。
「ラティディア様が父に言っていました。美月さんは翔が好きだったんですよね?でも何故か翔のお父さんにも惹かれてしまったとか。」
「だからなぜそれを!」
「ラティディア様がいつも大事にしている手帳に書いてあると言っておられました」
「あー!書いたわ…書いちゃっていたわ。ラティディア…そんなことジェイデン殿下に言わなくてもいいのよ…!ったく。場を読みなさいよ。仮にも一国の王妃でしょう!もう!」
「いつもラティディア様はその手帳を懐かしそうに見ておられましたから何故それが大事なのか私は一度尋ねたことがあります」
「何て?」
「友達が残した大事な物だと…」
「ラティディア…」
「彼女がいたおかげで今の自分がいる、私に今の幸せを与えてくれた彼女に感謝している。私は彼女の幸せだけを願っているのだと。美月さん、ラティディア様はあなたを大切に思っておられます。陛下と3人に子供に囲まれて私はとても幸せだと手帳に向かっておっしゃっていました。」
「…よかった。私も幸せよ。」
俺はそこで魔法を辞めた。
お湯が沸く音がした。
俺はゆっくり紅茶を入れた。
美月さんが笑う声が聞こえた。
「で、一旦体の分子をバラバラにするんです。そうしてこの世界に来たらまた組み立てるんです。一種の移転魔法ですね。少し応用してみました。あ、もしかして戻れない場合も想定してあちらの世界では姉が私を掴んでいます」
…簡単に言うな…。
「姉が来た時には私が姉を掴んでいました」
ジェイより魔力が強いのか…。それとも魔法が発達したのか?
「どうしてもあなたに会いたかった」
「じゃあジェイが来ればいいじゃないか?あいつが俺に会いたいんだろ?」
キーシスは少し下を向いた。
「はっ?お前、おい!ジェイに内緒で来たのか?」
キーシスは黙り込んだ。
「キーシス!答えろ。ジェイはお前がここに来たのを知らないんだな?」
キーシスは下を向いたままコクリと頷いた。
お読みいただきありがとうございます。
あと1話?もしくは2話です。
長々とすみません。




