【かなり後の話ー2】王弟殿下の言葉を届けよう。
かなり後の話 その2です。
娘視点になります。
「ねぇ、ねぇ。ちょっと、君」
私が振り返るとそこには光の当たる加減で黒色にも紫色にも見える髪をした男がいた。
やばそうなノリだ。
〝ねぇ、ねぇ。ちょっと、君〟
なんて声かけるやつにきっとロクな奴はいないはずだ。
今日はお兄ちゃんと一緒に帰る為大学の入り口で立っていた。
こんな奴とは関わらないに限るわ。
私は無言でくるりと後ろを振り向き歩き出そうと右足を一歩前に出した。
しかし
紫?紫の髪??
私はくるりと反対側を向きその男にスタスタと近寄った。
じっーと顔を見る。
確かにお兄ちゃんが言ったように瞳が水色だ。
「あー!」
指差して大声を出していた。
その人は耳を手で押さえた。
「何だ?!大声だしすぎ!」
私は慌てて口を押さえて周りをキョロキョロ見渡した。
誰も気にしてない様子にホッとした。
「あなたね。先日お兄ちゃんにお父さんのこと尋ねたのは!」
「は?」
「この間、ここで男の人に氷結翔って知ってるって聞かなかった?」
彼は腕を組んで首を傾げた。
「んー、たくさん声かけたからね。」
こいつは何してるんだ!
うちのお父さんの事を一体どれだけの人に聞いたんだ。
恥ずかしい…。
「未来!どうした!」
お兄ちゃんの声がした。
すかさず私とその男の間に入ってきた。
「妹に何する…へっ?あっ!あー!!」
またその男は手で耳を押さえた。
「この国はこんな耳が痛くなるほど大声で話すのか?」
私とお兄ちゃんは互いに顔を見合わせた。
※※
「君のお父さんが俺たちの父さんの知り合いってことなのか?」
「そういうことらしい。」
「らしい…って?」
「父上は会ったことはないようだ。」
「会ったことがないのに知り合いなのか?」
私達は近くの公園のベンチに座った。
目の前の噴水から出る水が光に照らされてキラキラ光る。
子供達がはしゃぐ声が遠くに聞こえる。
近くに遊具があったな。
私達も遊んだなぁと、考えながらペットボトルを開けた。
シュワっとした音と共に少し白い煙が口から立ち上がった。
「何だ?この容器は?」
「「は?」」
紫の髪の彼はペットボトルに興味深々だ。
ペコペコ押したり上にあげてみたり…。
ペットボトルが珍しいのか…あっ!
「これを回せばいいんだな」
蓋に手をかけた。
次の瞬間…
「「あっー!」」
手をかけた彼は激しく上下にペットボトルを振った。
「振らなくて…えっ…あっ!」
やっぱり…お決まりだ。
私達が止めるのも聞かず彼は蓋を回した。
「お前なー!」
お兄ちゃんが大声をだした。
私達はコーラまみれになった。
「これが、本場の炭酸と言うものなのか。素晴らしい!」
…馬鹿か…こいつは?
「やだぁ、ベタベタ…」
仕方ないから家に連れて帰ることにした。
「「ただいま」」
「母さん!濡れたタオル3人分持ってきて!」
お兄ちゃんが叫んだ。
パタパタとスリッパの音がした。
お母さんが多分タオルを取りに行ったのだろう。
今度は足音が近づいてきた。
「もう、何なの?新?あら?未来までどうした…へっ?はっ?!」
まだ、玄関手前でお母さんは立ちどまった。
「ジェイデン殿下?!はっ?は?」
何?お母さんは今、何と言った?
お母さんの手からタオルが落ちていた。
※※
「あなたはジェイデン殿下とカーラの子供なのね。ふふ。ジェイデン殿下にそっくりね」
「陛下にもよく言われます」
「陛下?ヴィクタリス陛下?」
「あ、いえ。前国王は私が12歳の時に亡くなりました。ですので…」
「エディシスフォード殿下が国王になったのね。あらじゃあエディシスフォード陛下ね。ラティディアは皇后様なのね。まあ、偉い人になったものだわね」
「…あなたが美月さんなんですね?」
「ふふふ、そうよ。初めまして。私が氷結美月よ」
私達はこの訳の分からない会話をリビングで一緒に聞いていた。
「なあ、未来。何のことかわかるか?」
「全く…ただ、あの人はお父さんもお母さんも知っているってことくらいかしら?」
「さっき母さん、殿下って言わなかった?」
「言ったわよね?あの人はどっかの外国の皇族か何かなの?」
「知るわけないだろ!」
私達を差し置いて何の紹介もなくお母さんは彼と話していた。
何だか楽しそうだ。
「翔には会えますか?」
「もうそろそろ帰ってくると思うわ。」
「待っていても大丈夫ですか?」
「大丈夫。あの人も会いたいはずよ。是非夕飯食べて行って。…ってあなたの名前聞いてなかったわ」
※※
「ジェイ?」
お父さんは玄関で立ち尽くしていた。
私は好奇心の赴くままお父さんが帰ってきたのを知ると
すぐに玄関に走った。
お兄ちゃんも同じみたいだ。
私とお兄ちゃんが玄関にほぼ同時についた時にはそこだけ時間が止まっているようだった。
お母さんはくすくすと笑っている。
「ジェイ!!」
お父さんが動いたと思ったらすごい勢いで彼に抱きついた。
「会いたかった!よく来たな!」
「ぐっ…」
お母さんが慌てて近寄る?
「翔!違うから、ジェイデン殿下じゃないから!ほら離して!苦しそうだから」
「あ?えっ??」
「息子さんのキーシスよ」
「初めまして。ダイオキーシス=ハーディン=リルクラードです」
「「は?」」
お父さんとお兄ちゃんが同時に声を出した。
お父さんは手を額に当てて天を見上げた。
「何考えてんだあいつは…」
私はお兄ちゃんの顔を見た。
多分説明して欲しいのが伝わったのかな?
「ダイオキシードって英語で二酸化炭素なんだ」
「へぇ…」
…で、それが何?
「ジェイの奴、息子に何て名前つけてやがるんだ。はぁ…」
「父はとても大事な友達と初めて実験した時の事を思って付けたと言っていました」
「ジェイデン殿下はあなたのことをすごく大事に思ってるのよ」
お母さんはお父さんからカバンを受け取って楽しそうに笑った。
お読みいただきありがとうございます。
まだ続きます。
申し訳ありませんが次の更新まで少しお待ちください。
あと少しお付き合いお願いいたします。




