番外編 転生令嬢の独り言 (美月視点)
美月さん視点になります。
結果転生じゃなくて憑依になってしまいますが、内容、タイトルや副題考えて敢えて転生にしました。
ラティディアは悲しんでいた。
わたしのせいだ。
わたしが悪役令嬢なんて演じているからだ。
彼女はエディシスフォード殿下を慕っている。
初めて彼と会った時に彼女は恋をしていた。
彼を見るたびに胸の奥の方が暖かくなる。
彼の話を耳にするたびに鼓動が大きくなる。
私の中でラティディアの意識をかすかながら感じていた。
彼に対して冷たい態度を取るうちに彼は私に笑わなくなった。
さらに学園にくると女主人公とベンチに座り楽しそうに話をしている。
今まで私に向けてきた笑顔は今や彼女に向けられている。
それを見ると胸の奥の方がチクリとする。
ラティディアが泣いているにちがいない。
私が彼女の心を奪ってしまっている。
エディシスフォード殿下への恋心を閉じ込めさせてしまっている。
だって女主人公が現れたらあなたは殿下に捨てられるのよ。
幸せにはなれない。
私があなたを幸せをあげる。
大丈夫。小説通りならあなたは幸せになれるのよ。
だから少し我慢をして。
ごめんなさい。
エディシスフォード殿下への心は消して…。
ごめんなさい。
そんな気持ちを持ちながら毎日過ごしていた。
エディシスフォード殿下の卒業まであと少しだった。
ラティディアの意識はもう感じない。
殿下を見ても何も感じない。
しかしあの日…
私はラティディアから離れた。
白い空間を漂っていた。
すこし明るい場所が見えた。
わたしはそこに手を伸ばした。
そこで見たのは自分だった。
何もない殺風景な病室にわたしと翔がベッドに寝ていた。
青白い顔。生きているの?
栄さんが泣いている。
私は栄さんに近寄った。
しかし触れることは出来なかった。
私の手は栄さんの肩を通り過ぎた。
そうだ、爆発で死んだ…はずなのだ。
死んでない?
どういうこと?
爆発で私は精神だけあの世界に、ラティディアの中に飛ばされたの?
私はまだ、生きている。
私は自分の体に触れようと手を伸ばした。
すっーと体が吸い込まれるような気がした。
しかし咄嗟に手を引いた。
私がいなくなったらラティディアはどうなる?
好きだったエディシスフォード殿下が自分に冷たく接する。
更に彼の隣には女主人公が笑っている。
彼女は訳が分からない内に悪役令嬢になっていて、あと数ヶ月で婚約破棄される。
更に父親が国王暗殺未遂に手を貸した罪に咎められる。
彼女は耐えれるの?
小説の先を知っているから私は大丈夫だった。
でも彼女はわからない。知らない。
この先、ちゃんとあなたは幸せになれるのよ。
でも、辺境伯にきちんと会えるのかしら?
もしかして私はとんでもないことをしてしまった?
ラティディアはこんなことを望んでいた?
もしも、私が王太子殿下とうまくいくようにしていたら…。
ラティディアは今、幸せの絶頂だったはずだ。
彼の卒業を待って、結婚式をあげれただろう。
小説に囚われてラティディアの幸せを奪ったのは私?
もしも彼女がエディシスフォードへの恋心を引きずったら?
もしも、もしも…辺境伯が彼女に恋しなかったら?
私はこの場所には帰れない…。
私一人だけ戻れない…。
栄さん、ごめんなさい。
私は目を閉じた。
帰ろう。ラティディアの元に。
わたしがここに戻るのは彼女が幸せになるのを見守ってから。
栄さん…必ず戻ってくるわ。
待ってて…。
すっーと体が軽くなるのを感じた。
目の前が白くなる。
黄色の懐かしい光を感じた。
私は再び光に手を伸ばした。
ん?ん?あら?ここは?
ラティディアの中じゃない?
何だか周りに黄色のフィルターがかかってるわ。
って、エディシスフォード殿下?
どうして彼がいるの?
私はベッドにいる?
でも視線がおかしい。
私がベッドならエディシスフォード殿下はもう少し低く感じるはず。
あら?あれ?
私、ラティディアのペンダントの中にいるの?!
あの三日月のペンダントの石の中?!
ガチャリとドアがあいた。
『翔!』
第二王子のジェイデン殿下が入ってきた。
翔=ジェイデン殿下=フロス
なのは少し前に気づいていた。
彼も私と同じでこの世界に飛ばされていたのね。
だってあの三日月のペンダントの石、よくよく見ると私のシトリンの指輪よね。
初めは気づかなかった。
でも懐かしく、愛しい感じがすごく伝わってきたからよく見てみたらあの指輪を感じた。
だからあの指輪のシトリンの石と気づいた。
まさか指輪も一緒にこの世界に来ているとは思わなかった。
翔、あなたが持っていてくれたのね。
ありがとう。
ジェイデン殿下の中に翔がいる事に気づいた時には少し驚いた。
ジェイデン殿下の中にジェイデン殿下の意識と翔の意識を感じた。
彼らは私とラティディアみたいな関係じゃない?
お互いに自己を持って共有していた?
そんなの可能なの?
中に翔がいたから薬だの炭酸だの作れたのね。
そして女主人公を好きにならなかったのね。
翔はあの本の内容を知っていた。
そんな状態だから私は翔に気づかなかったのだろうか?
翔はあの爆発で死ななかったのだと決めつけていたのも大きな要因だわね。
だって私があんな馬鹿力で押したんだから翔は助かったはず!なんてすこし誇らしげに思っていた。
更に驚いたことに翔は私がラティディアの中にいることをずっと前から知っていた。
言ってくれたらよかったのに。
よくしゃあしゃあと他人のフリをしてくれたわね。
さぞかし私の悪役令嬢演技を笑っていたことでしょうね。
その上、今ここにいることもわかっている。
『美月さん、帰ろう。』
暖かく包まれて、優しい声が聞こえてくる。
ジェイデン殿下の声ではなく、少し高めのよく聞いていたあの優しい声だ。
翔はラティディアの幸せをエディシスフォード殿下の隣だと決めたのね。
お願いね、翔。
ラティディアを幸せにしてあげて。
頼んだわよ。
あなただけが頼りよ。
残念ながらこの中じゃ私には何も出来ないのよ。
ちゃんと見てるから。
ラティディアのことも、あなたのことも。
そしてラティディアが幸せになった時、帰りましょう。
栄さんの側に…そしてあなたの側に…。
ふふふっ。
あの世界に戻って、時が来たら教えてあげるわね。
私は始めから栄さんとあなたが親子なのは知っていたのよ。
実はあなたに近づきたくて栄さんに話しかけたの。
でもね栄さんはいい人すぎたわ。
母性本能くすぐられちゃった。
アネモネの赤い花束と指輪を差し出して耳を赤くして一緒にいて欲しいと言われてた時ほっとけなかったのよ。
栄さんとあなたといる時間が愛しい。
そんな私のかけがえのない幸せを思い出しながら、また同じ幸せを過ごせる日を夢見ながら少し寝てるわね。
『ラティディアへ
これを読んでいる時にはきっと私はあなたの中からいなくなっているのでしょうね。あなたは自分を取り戻しているわね。私はあなたの中にいた。いろいろ勝手をしてしまったけど許してね。
そして今、あなたはきっと幸せになっていることでしょう。
あなたは世界一幸せになっていいのよ。
どこにいてもあなたの幸せを願っているわ。
今の幸せが続きますように。
あなたの心にいた友 美月より
追伸
きっと私は自分の世界に戻って栄さんと翔の側で愛しい日々を過ごしているわ。私も幸せのはずよ。
あ、ジェイデン殿下の中から翔もいなくなってジェイデン殿下の行動がおかしくなるかもしれないからフォローしてね。お願いね。』
「栄さん、話はそういうことでお願いします」
「あ、いや。でもね。それでいいの?」
「だって父親がいい歳して若い女の子にプロポーズしたなんて知ったら父親の威厳なくなるでしょ?」
「あいつそんなこと気にするかな?」
「いいの!私が栄さんに一緒にいたいって纏わりついて仕方なくってことでね!」
「まあ、いいか」
レストランで顔合わせ前にこんな会話がありました。




