20話-2 第二王子に幸せを押しつけよう。 その2
エディシスフォードとラティディアが帰ってきた。
二人とも疲れているみたいで馬車の中で熟睡していた。
俺は慌てて彼らに走りよった。
しかし幸せボケしてるのか俺が取り乱してることがなかなか伝わらない。
あ、の、な!
ようやく陛下が婚約破棄しようとしていることが伝わったらしい。
ちなみに種明かしをしておくとこの件に関しては父上もグルだ。
息子の第一王子がへんな女に引っかかって王太子としての責務をしていないと言う噂を聞いた父上はかなり心配していたようだ。
宰相から散々愚痴を聞かされたようだ。
俺は陛下に昨日の王太子襲撃事件のことを報告した。
第一王子が王太子につくのに反対する勢力、ラティディアを王太子妃から引き摺り下ろそうとする勢力が手を組んだと報告した。
二人はいろいろあったが今はお互いに離れ難い存在になっていることも話しておいた。
更にはなかなか手を出さなくて周りがヤキモキしてるとまで口を滑らせておいた。わざと…。
二人の関係を確実にするにはいい場だろう。
父上も宰相も賛成してくれた。
宰相は少しむっつりしながらも結婚式の日取りについて話し始めた。
何やかんや楽しそうだ。
「しかし、ジェイデン。この書類は何だ?」
「少し内容変えたけど、兄上の前でチラつかせれば焦るはずだよ。」
「…何だかお前が一番楽しそうだな。」
「まずは外堀をうめれたかな?」
予想通りラティディアは陛下の前でエディシスフォードへの気持ちをはっきり告げたようだ。
部屋の天井で様子を伺っていたラスから聞いた話だ。
彼は何者なんだろうか…と疑問に思うとところもあるがスルーしておこう。
陛下も割と演技派だったな。
当然エディシスフォードはこれ以上我慢できないはずだ。
その後はお楽しみなのか?
あ、薬草をもらうのを忘れていた。
あれがなければ実験は進まない。
仕方なくエディシスフォードの執務室に行った。
「まあ、いるわけないか。」
誰もいなかった。
俺は野暮だと思いながらもエディシスフォードの部屋に足を向けた。
あれからの二人が心配だった。
と言うより割と俺もミーハーなのかな?
エディシスフォードの部屋の前ではハーデスとカーラが話していた。
扉に耳をつけている。
何してるのかと問いかけたら邪魔者が入らないか見張っているみたいだ。
…途中エディシスフォードが出てきて騒がしいと怒られた。
カーラはきゃあきゃあと楽しそうだ。
彼女らしいな。まあ、いろいろよかった。
薬草は執務室の荷物の中にあるようだ。
エディシスフォードの執務室に向かいながらカーラ、ハーデスとゆっくり歩いていた。
「まあ、明日は仕事してくれないと困るが今日は大目にみるとしようか。今日は休みと言うことだ。帰るよ。また明日。」
手を上げてハーデスは笑いながら去って行った。
引き続き渡り廊下を歩いていた。
「ありがとうございます。」
後ろを歩くカーラからそう言葉が聞こえた。
俺は後ろをチラッと振り向いた。
すごく穏やな微笑みを浮かべていた。
「多分今回の襲撃事件で富豪とダリアは罪に問われるだろう。更には王太子の部屋への無断入室、書類偽造もついてくる。あ、あとラスに調べてもらったらいろいろ出てきたから一緒に、裁いてもらうよ。ついでに国王暗殺未遂もつけてあげたよ。」
「はい?それってもしかして!」
「そう、本来なら宰相が嵌められる案件だ。ラティディアが悪役令嬢になった理由の一つだね。黒幕は他にいるが子爵は同じ派閥に入っているから同じように罪に問われるだろう。まああとは黒幕がどう逃げて、周りに罪を押し付けるかだね。」
カーラは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。お嬢様のことだけではなく私の代わりにいろいろ動いていただいて。ようやくスッキリできます。何かお礼をしたいところですが、残念ながら何もなくて。」
「じゃあちょっといいかな?」
「私でできることなら!」
「俺の部屋によってもいい?」
足先を俺の部屋に変えてまた歩き出した。
今度はカーラの隣に並んで歩いた。
「あの書類少し書き直したって言ったよね?」
「はい。確かにそう言っていました。」
「まあ、一枚は破り捨てたんだけど、あと二枚は使わせてもらったんだよ。」
「はい?」
カーラは首を傾げた。
「一枚はカリラシーナと言う平民の女の子を伯父であるルシエント公爵家の養女にするもの。」
「はい?カリラシーナ?」
「君の名前でしょ?」
「確かに私はカリラシーナです。入れ替わりをした子の名前です。はい?私が公爵様の養女?!何故?」
「だって公爵令嬢が第二王子の婚約者なら誰も文句言わないだろ?」
「は?第二王子って?ジェイデン殿下の?今なんて?」
「だからもう一枚の書類は君が俺の婚約者になるように書き直させてもらったよ。陛下が承認してくれたからもう君は
ああ、カリラシーナ=サハジェル=ルシエント公爵令嬢は正式に第二王子ジェイデン=ハーディン=リルクラードの婚約者だ。」
「ちょっと…ちょっと待って下さい!何でそうなるんですか!」
カーラの足が止まった。
俺もそれに合わせて足を止めた。
顔を赤くしてバタバタ手を振る。
もうパニック状態だね。
ふふふ。まあいいんじゃないか?
『じゃあ、ジェイ。俺は寝るからあとは任せたね。』
『おい!翔!何だ!何なんだ!』
『何だって、そういうことでしょう?』
『いつのまにか書類書き直したんだ!』
『おや?いつだったかな〜?』
『翔!!お前もしかして!』
『嫌だな。ジェイが気づかないから悪いんだよ。お前を寝せてしまえばお前には俺の行動わからないだろう?』
『いつの間にそんなことできるようになったんだ!』
『最近かな?五年もお前の体にいれば魔法だってチョチョイのチョイだ。お前だけに眠りの魔法をかけさせるのに何度失敗したか。一緒に寝ちゃうんだよね。はははっ』
『おい?こら!翔!』
『ジェイ、今からその魔法を頭に思い浮かべるから使ってね。俺を寝せないと余計なことするよ。この魔法を使う注意点は範囲を狭くして針のようにピンポイントに突くことだ。じゃないとせっかくカーラがいるのに寝ちゃうよ。ほら。』
『はい?今から俺にどうしろって言うんだ!』
『だから婚約者のカーラと親交を深めてみたら?』
『親交って…!俺は!』
『ジェイはカーラが好きだよね。ははは。モロわかるよ。』
『お前…!』
「ジェイデン殿下?どうかしました?」
「あ、いや。なんでもない。あ、いや。そういうことなんだ。君は…あ、いや。」
『いや、いやしか言ってないだろ。』
『寝るんじゃないのか!早く寝ろ!』
カーラが首を傾げた。
「あ、ラティディア嬢は今日は兄上と一緒だろう。
だからすこし俺の部屋でお茶でもしないか?」
「あの…」
「俺じゃ嫌?」
カーラは首をブンブン横に振った。
俺の部屋はすぐそこだ。
「じゃあ。」
「あ、あの…。よろしくお願いします。」
まあ後はよろしくやってくれ。
俺は寝るな。




