20話-1 第二王子に幸せを押しつけよう。 その1
二人が視察へ向かう時にも一波乱あった。
またダリアがやらかした。
自爆しすぎだろう。
なんとか無事に出かけた。
あとはエディシスフォードがラティディアの全てを手に入れてにこやかな笑顔で戻ってくるのを待つばかりだ。
まあ、この状況で好きな子に手を出さないなんて男じゃないだろう。
(…男じゃなかったようだが…まあ、いろいろあったらしいからそこは大目にみよう。)
俺は二人を見送った足でエディシスフォードの部屋に向かった。
彼の部屋の扉を開けると同時に声をかけた。
「で、君は何を探しているんだい?」
机の引き出しを開けて何やら探していた人はバッと立ち上がった。
後ろにある窓から入ってくる光が逆光で机の前に立つ人の顔は影となりはっきり見えなかったが
俺はその人を断定できた。
その人は慌てて顔を上げて後ろに三歩下がった。
「探しているのはこれかい?」
俺は机の横にある棚に入っているある黒い書類袋をとった。
「君が探しにくると思って少し位置をかえておいたんだ。
机の中に入ったままだとすぐに君が見つけてしまうからね。」
更に後ろに下がったその人は後ろの窓に背を当てた。
もう後ろに逃げ場はない。
俺は一歩、二歩と前に進んでその人との距離を詰めた。
「ねぇ、カーラ。君はこれをどうするつもりなんだい?」
近づいた為、はっきりと見えた彼女の顔は困惑していた。
俺はその黒い袋の中から三枚の紙を出した。
彼女は震えて何も言えなかった。
「一枚はダリア嬢を公爵の養女にする為のもの、一枚はラティディア嬢とエディシスフォードが婚約破棄を申請するもの。最後はダリア嬢との婚約を申請する書類。」
俺は彼女の前にそれを見せつけるように掲げた。
「あっ…」
「これを君が持っていったら何があるんだい?」
「それは…」
彼女は答えに詰まった。
俺は机を超えて彼女の前に立った。
光が眩しく彼女の後ろから差し込んでいた。
俺は目を閉じて優しい笑顔を彼女に向けた。
「申し訳ない。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ君に直接聞いても答えないだろ?
俺は全部わかってるんだ。そんなに構えないで。」
「全部って…」
彼女が震えながら掠れた声で聞いた。
「そう、全部だよ。ねぇ、ダリア=アフレイン子爵令嬢。」
彼女はびっくりした顔をしてから下を向いた。
「いつからわかってた?」
「んー、協力しようって話かけた時かな?申し訳ないけど調べさせてもらったよ。」
彼女は顔をブルブルと横に振った。
次に真っ直ぐ俺を見たときには彼女の髪は綺麗な薄いピンクだった。
青い瞳が俺を見つめていた。
「魔法で変えていたんだね。」
「って、あなたも同じだったじゃない。ねぇ、フロス。」
「あれ?ばれてた?」
「神父さんと話してるところを偶然聞いてしまったことがありました。」
「ん…そうか。」
「あなたはお嬢様が好きだったんじゃないのですか?」
「ああ、そう見えた?はははっ」
ひとまず髪色を元に戻して貰ってからエディシスフォードの部屋をでて実験室にきた。
カーラはいつもラティディアが座る席に腰を下ろして話始めた。
「子爵家から逃げ出した母と私は街の富豪のもとで住み込みで働いていました。毎日毎日私と母は朝から晩までこき使われていました。
母にいたってはたまに連れて行かれて夜の相手をさせられいました。日に日にやつれていく母を見ていられませんでした。母からはあたなだけは逃げなさいといつも言われていました。たまにお使いにいく修道院に母は私を預けるつもりでした。そうです。あの修道院です。しかし私がいなくなれば必ず探すだろうと思いなかなか行動にうつせなかったようです。だってあの富豪はいずれ子爵に私を会わせて、多額のお金を手に入れようとしていましたから。あの子爵にはお子様がいなかったので私は唯一の血縁になります。」
「やはりそうだったか。」
「一日一食の食事しか与えられず、母は私に自分の分を分けてくれました。数年した冬のある朝、母は二度と目を開けませんでした。」
カーラはギュッと手を握りしめ、口を噛んだ。
「お母様は残念だったね。でも君も死んだことになっているんだけど?」
「母が亡くなったあと、たまたま修道院にお使いにいきました。その時、隣の孤児院で熱病にかかり亡くなった子がいました。母が生前神父様に熱心にお願いしていたようで神父様が入れ替わりを提案されました。お使いの途中不慮の事故で亡くなったことにして私はその子と入れ替わることになりました。魔法が使えたので髪色と瞳の色をその子の色に変え、孤児院で過ごしていました。」
「で、ある時ラティディア嬢がやってきて、君を引き取った。ってことか。ハードな人生だな。」
俺は彼女の前に暖かいココアをだした。
彼女は両手にコップを持ち湯気に息をかけながら一口飲んだ。
その途端に彼女の瞳からは涙が流れ出した。
「悔しかったんです。私は…何もできなかった。
母に何もしてあげれなかった。わたしには何も力が無かった。ただ、母に守られていただけだった。お母様…うっ…」
俺はカーラの頭に手を乗せてポンポンと叩いた。
「泣いていいんだよ。今までずっと泣いてなかったんだろ?気の済むまで泣いていいよ。」
カーラは顔を上げた。
「ジェイデン殿下…私は…私は…」
「だから今は何も言わなくていいから。」
カップを握りしめながらカーラは泣き続けた。
俺はずっと彼女の頭に手を置いていた。
次の日、改めてカーラを呼び出した。
カーラは少しスッキリした顔をしていた。
「で、あの書類をどうしようと?」
「ダリアを王太子妃にするために子爵が王太子殿下の部屋に忍び込んで盗み出させて勝手に出したと…罪をなすりつけたかったんです。」
「これが通れば君の大事なお嬢様も大変なことになるよ。わかってるのかい?」
「大丈夫です。王太子殿下は絶対にお嬢様を離しません。」
ふっー、と息をついた。
「兄上の性格わかってるね。もしそうなればラティディア嬢を連れて逃げるかもね。そうなると王太子は俺になって迷惑なんだけどな。」
「す、すみません。でもジェイデン殿下なら立派な国王になれますよ。」
はぁ…とため息をついた。
「まあ、そうはならないからいいや。」
「あの書類は…捨ててしまったんですか?」
「あ、いや。ちゃんと兄上の印を押して提出したよ。明日には陛下の元に上がるだろうね。」
「はぁー?!」
ガタンと勢いよくカーラが立ち上がった。
その驚きすぎた顔が面白かったからくすりと笑った。
「出したって!どうして?!」
「少し訂正はさせてもらってけどね。ふふふ。ほら座って。」
カーラはおずおずと倒れた椅子を持ち上げて椅子に座った。
「私は復讐したかったんです。だけど孤児のわたしには何もできなくて…。お嬢様の侍女になってようやくそのチャンスが来たんです。」
「君と俺は協力関係にあるよね?」
「はい?」
「君は俺に協力してくれた。おかげで兄上はラティディアを離さない。だから今度は君に協力しよう。」
「は?」
「まあ、兄上達には申し訳ないけど、ハーデスもいるし、ラティディア嬢の攻撃魔法は学園一だ。」
「ジェイデン殿下?何をしたんですか?」
「んー、ちょっと茶番劇かな?」
「はっ?」
確かに申し訳ない。単なるトバッチリだ。
あいつらには怪我をさせないようには指示してある。
最悪危なければラスが見張っているから大丈夫だ。
エディシスフォード、申し訳ない。
ラティディアの前でいい格好できるからそれで許してくれ。
『なあ、翔。一言いいかい?』
『は?』
『お前って悪役なのか?』
『はい?』
『だって腹黒すぎだろう。』
『せめて裏ボスとか言ってくれないかな。』
『はっ?裏?』