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19話-6 婚約破棄を破棄させよう。 その6

エディシスフォードが動いた。

彼女の気持ちを伝えてからは少し吹っ切れたのか。

まあ、我慢できなくなっただけなのか?

ラティディアに正面から自分の気持ちを伝えたようだ。

ラティディアもはっきりしないもののほとんど彼を受け入れたように思う。


朝食の時、エディシスフォードはいなかった。

エディシスフォードが今日は部屋で朝食を取ると連絡しにきてくれたハーデスが楽しそうに話してくれた。

「今朝は少し遅めに呼びにいくつもりだ。」

「そんなことになっていたのか。」


小さくため息をついた。

ようやくか…。

待っている時間は長かったな。


って…

「何もなかったのか?」

昼過ぎ実験室にやってきたラティディアから衝撃の事実を聞いた。

だって好きあってる男女が同じ部屋、同じベッドで寝るんだ。何もないなんてあるわけないじゃないか?

かなり驚いた顔をしているだろう。


エディシスフォード…かなり我慢してるな。

大丈夫か…。

って押し弱いな。

仕方ないか。もう間違えられないし、もし嫌がられて平手打ちくらったら立ち直れないだろう。


『単純だから…ってまた思ってるだろう!』

『あ、いや。今回は思ってないよ。恋愛なんてそんなもんだよ。』

『あ!だからお前は美月さんを父親に取られたんだっけ?』

『ジェイ…!!』


少し腕を組んで一人で納得してしまった。


ラティディアはちゃんとエディシスフォードと向き合うようだ。彼の隣にいたいと思ってくれている。


「ラティ、ありがとう。」


ジェイがうれしそうに答えていた。

更に彼女に褒められてジェイは上機嫌になってメロンコーラを一口ゴクリと飲んだ。


この頃はメロンコーラだけでなく他の飲み物も用意していた。今日、ラティディアの目の前にあるのはココアだ。

洒落っ気をだしてマシュマロなんて入れてみた。

ようやく先が見えてきた二人の関係が嬉しいのかもしれないな。


ただ、あともう一押しだ。

多分彼女は感じている。俺が一番彼女を知りたいことを知っているのだと。


「で、何が聞きたかったの?」


その一言を聞いて彼女の表情が真剣なものに変わった。

彼女は一冊の茶色の革の手帳を取り出した。


「何か知っていますか?」

彼女は手帳に挟まれたしおりをすっと出した。


赤のアネモネ、紫のアネモネのしおり。

俺が修道院であげたものだ。

美月さんは大事に持っていたんだ。


あなたを愛しています…

信じて待つ…


美月さんはこれを見ながら父さんを思い続けていた。

打ちのめされる。

俺の入る余地は無い。

あの世界に戻っても…


しばらく下を向いてしおりを見つめていた。


「あとこのペンダント…」

ラティディアがそんな凍結した雰囲気の中、三日月のペンダントを外して机に置いた。


ペンダントの黄色の石はほとんど元の綺麗な透明感ある輝きを放っていた。


その机の上に置かれたペンダントを優しく見つめた。


…美月さん、ラティディアの幸せを確信したんだね。

キラリと光る。

君は帰りたいか?

また光る。

父さんのところに帰りたいのか…。


…しかしその問いには光らなかった。


しおりに手をかけた。

「嫌だな。こんなところにまでいたんだね。」

指輪だけじゃない、人を思う気持ちも一緒にこの世界に持ってきてしまった。

俺の情けない気持ちも一緒だ。


紫のアネモネは俺の気持ち。

この世界で父さんを忘れて君が俺の手に落ちてくれることを信じて待つ…。


『翔…大丈夫か?』


俺は息を吸った。

俺は大丈夫だ。彼女にちゃんと自分の気持ちを伝えると決めたんだ。

そして父さんにもきちんと言おう。

この世界で五年過ごした。

美月さんを好きな気持ちは変わらない。

彼女が愛しい。

たとえ報われない恋でも俺は前に進むんだ。


『美月さん、俺は君を好きだ。愛してる。』


ペンダントに触れた。

一瞬輝きが増した。


「これはあなたのものなんですか?」


ラティディアが問いかけてきた。


「記憶は戻らないと思って君は自分の幸せを見付けていくんだ。見つかったときに話すよ。」


彼女はそれ以外何も聞かなかった。


「君が幸せになることだよ。」


そう付け足した。


しおりの方は俺が預かっておくことにした。

彼女には必要ないものだ。

そして俺にも必要ない。

待つだけではダメだ。

自分から歩き出すんだ。


ジェイが一言ラティディアに言った。

ラティディアと会話をする時はあまり出てこないがどうして言いたいみたいだ。


「兄上は君を大事に思っているよ。弟の俺からすれば過去より未来、兄上のことを考えていって欲しいな。

すこし遠回りをしたのかもしれない。兄上も君もそれなりの代償を払った。失くしたと思っている記憶は君であって君のものじゃないんだ。兄上に君の気持ちが伝えられる日が早く来るのを願っているよ。」


ジェイはゆっくり噛みしめながら話をした。

彼はエディシスフォードの幸せを一番に願っている。

本当にお兄さんが好きなんだな。


そしてペンダントをラティディアに返した。


もう少し側で見守っていてあげてね。



それからエディシスフォードが締りのない顔をして実験室にやってきた。


「兄上達は知らない方がいいんだよ。」


君たちを巻き込んでしまって本当に申し訳なかった。

せっかくお互いの手を掴んだんだ。

もう絶対に離すなよ。

向こうの世界に戻っても君たちの幸せを祈ってる。


しかしエディシスフォードを揶揄うのも少し楽しかったかな?

悪役令嬢に酔っていた美月さんの気持ちが少しわかったかな?


『もうあの二人は大丈夫だよ。安心しなよ。で、いつ帰る?ラティディア嬢のペンダントから石を取らなきゃいけないな。代替え品は手配してある。』

『そうだな。エディシスフォードがラティディアを押し倒したら帰ろうかな?』

『一生帰れないかもしれないよ。』

『まさか、ってあり得るかもしれないな。』


二人で少しの間笑った。

久しぶりに軽い気持ちになっていた。


『で、ひとまず二人が視察に行っている間にやらなきゃいけないことがあるね。』

『は?』

『ジェイ、俺はあの二人の幸せだけじゃない。お前の幸せも見届けたいんだよ。』

『はい?』

『俺がお前の中にお邪魔してから迷惑ばかり掛けたからな。礼ぐらいさせろよな。』

『ちょい待ち!何言ってるんだよ。俺はこのまま薬を作り続けながら兄上を手伝っていくんだ。それが幸せなんだよ。』

『お前、自分が第二王子ってこと忘れてないか?政治のコマにはもってこいの立場じゃないか。』

『はっ?はいー?』




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