幕間 第二王子の葛藤 (ジェイデン視点)
帰る場所があった。
帰りたい。
それはそれでいいんだが
それがわかってから鬱陶しいな。
そもそもそんなにセンチメンタルっぽくないのに何なんだ!
じっと指輪を見つめている。
『おい!翔。いつまで指輪をみてるんだ!朝食に行くぞ!』
『ああ、すまない。』
だいたい俺と翔は何か考えていても筒抜けなんだよ。
もう何なんだ!
父親の再婚相手が好きな奴とか面倒くさい関係。
戻ったらどうするかとかぶつぶつと考えてジメジメしてる。
あー!!鬱陶しい!
あ、俺の声、聞いてやがるのにまた無視しやがる。
まあ彼が帰ると決めた以上俺も帰れるように協力はするが
帰ってからはノータッチだ。
好きなようにやってくれ。
『氷結 翔』と名乗るこいつは5年前、突然俺の中にやってきた変な奴。
正妃の息子、第二王子として生まれた俺にとって面倒くさいことばかりで面白くなかった世界を変えてくれた奴。
翔の化学の知識はすごかった。
頭に広がる見たことも聞いたこともない知識。
興味があった。
彼と一緒に実験を繰り返していろいろなものを作り出していくのはすごく楽しくて喜びがあった。
はじめはプライベートが無くなった気がして少し嫌な感情も持っていた。
しかし、今はとても心地いい。
こいつといるのが普通、一緒にいることが当然でこれからもこうやって一緒にいるのだと思った矢先のことだった。
翔は帰れるという嬉しさの反面、かなりナーバスになっている。
まあ、わからないでもない。
男手一つで育ててくれた父親が掴んだ幸せ。
しかしその相手が自分の好きな人だときた。
世の中、なかなかハードだな。
父親に遠慮しながらも自分の気持ちを抑えられない。
頭の中一歩進んだらまた一歩下がってる。
朝からそんな調子だ。
もう俺の中で悩むな!
だから自分の父親に好きな人を取られるなんてことになったんだよ。
思いっきりがいいように見えて何か一歩引いてしまう。
初めから一歩踏み出しておけばよかったんだよ。
そんなに悩むなら行けよ!ぶつかれよ!あー!
『うるせぇ!』
『事実を言っているだけだ。』
無言だ。
言い返せないだろう。
恋愛なんて駆け引きだ。
初恋なんてものも経験したことのない俺が何を言っても説得力はないだろう。
恋だの愛なんて面倒以外何者でもないだろう。
それより
『翔!ちゃんと考えろよ。』
『わかってるさ。』
『兄上の性格上、俺が挑戦的に出れば絶対に対抗心をむけてくるはずだ。』
『わかった、わかった。ひとまずジェイもラティディアを好きなように演じるんだろ!』
『あまり兄上に反抗したことないのが功を奏したな。』
『で、ラティディアの方はどうする?』
『あまりラティディア嬢の性格は把握してないんだよ。しかし確か彼女の初恋も兄上のはずだ。5年間の記憶が無いのなら兄上が彼女に対して好意を表せば絶対に大丈夫だ。』
『情報力すごいな。』
『伊達に第二王子なんてしてないよ。』
少しでもこの世界に未練を残すような未来にしてはいけない。
翔と美月さんが自分たちの世界に戻るにはみんなを幸せにしないといけない。
あ、ダリア嬢の幸せは無理か・・・。
『まあ、あいつはいいんじゃないか?』
『だね。』
翔の話によると美月さんはお人よしだ。
ラティディア嬢に申し訳ないことをしたと思っているはず。
だって勝手に体を使って悪役令嬢を演じて王太子から婚約破棄されようなんて
本当にラティディア嬢にしたら何てことしたんです!状態だよな。
あとこの5年間でいろいろこの世界に思いでもあるだろう。
ラティディア嬢の幸せを見届けた時、美月さんは完全にラティディア嬢から離れられるはずだ。
兄上となら大丈夫だ。
兄上は仕事面には少し不安を感じることもあるし、仕事が遅い。まあ少し考えすぎるところがある。
国王として立つには少し頼りないかもしれない。人にすぐに騙されそうだ。その場に流される。
『って、お前褒めてないよな?だめじゃん。そんな奴。』
翔は横やりを入れてきた。
確かにいいところ無いな。
翔のことは無視、無視。
でも、性格的にはいいと思う。
割と兄上は単純・・・あ、いや素直だ。
人を好きになったら一途だろう。
大事にしてくれるはずだ。
ただダリア嬢を好きになるところは甘ちゃんでおバカなやつだけどな。
弟の俺から見ても顔は悪くない。
『顔だけのように聞こえるが…』
大丈夫。兄上ならラティディア嬢は幸せになれるはずだ。
ダリア嬢の化けの皮が剥がれてラティディア嬢が元に戻れば絶対にラティディア嬢を好きになるはずだ。
もうこうなるってわかっていたら美月さんには兄上に嫌われるんじゃなくて好かれるような努力をしていて欲しかったよ。面倒なことにしかなってない。
同じように美月さんも思っているかもしれないね。
5年間で自分がもっと王太子に気に入られるように演じていた方がよかったんじゃないかって。
初めから悪役令嬢なんて演じなくてヒロインを蹴散らすほどの愛情を確立して兄上とこのまま結婚してハッピーエンドを目指してほしかったな。
こうなってしまっている以上、それは後の祭りだ。
これからは間違えられない。
ひとまず兄上を挑発する。
ラティディア嬢の方にも兄上を意識してもらう。
俺のできることなんて限られているが大丈夫。
訳のわからない自信があった。
大丈夫、大丈夫だ。
大きく息を吸う。
兄上とラティディア嬢はうまくいく。
しかし・・・翔。
俺の幸せはどうなるんだ?
少しは考えろよ。
俺はお前がいなくなるのが寂しんだよ。
『へえ、光栄だな。そんなこと考えてくれるんだ。』
だから!プライベートを返せ!
俺の心を読めるのは仕方ないがスルーしてくれ。
はぁ・・・。
しかし認めようか
『俺はお前が好きなんだよ。離れたくないんだよ。』
『はっ!?お前・・・。』
『えっ?はい?おい!そっちの気は無いから!人として好きだって言っているんだ!決してお前を取って食おうとってことじゃない!変なこと考えるな!』
この親友の幸せを一番に願う。