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18話-4 悪役令嬢の運命を変えようか。 その4

『死んでいないって?でも君たちはこの世界にいるんだろう?』


ジェイがあまり状況が把握できていないのか、少し戸惑ったように話しかけてきた。


『精神だけ抜け出している、ってことなのか?』

『そういう事なのか…?』


二人して少し黙り込んでいた。

ジェイが戸惑っているのが分かる。

俺だって状況についていけない。

どういうことなんだ?

俺たちは生きている。つまり・・・。


『じゃあ、帰れるのか?』

ジェイがポツリと言った。

考え込んでいる俺に向かってピンポイントで答えを導きだしてくる。


『帰れるんだ。』

『そういうことになる。』

『帰りたいんだろう。』


そう・・・。帰りたい。

確かに5年間この世界にいた。愛しさを感じる。

ジェイだって大好きだ。

割と楽しくやっている。


しかしやはり俺はこの世界ではなく、あの世界で生きていきたい。


『ああ。帰りたい。』

『やけに素直で怖いね。それだけ迷いはないってことか。

なんだか寂しいね。ふふふっ』


ジェイは結構頭が回る。

彼は人の気持ちを読み取ることに長けていた。


『じゃあ、まずはどうすればいいのか一緒に考えようか。美月さんも一緒に連れて帰らなきゃいけないんだよ。少し困った状況になっているのはわかるよね?』

『ああ。』

『何だか美月さんはラティディア嬢から離れていないよね?』

『多分…そんな感じがするな。』

『美月さんがラティディア嬢から完全に離れてくれないと君たちは帰れないよ。帰れても翔だけだ。』

『何とかしないといけないな。』

『ラティディア嬢に全てを話をしてみたらどう?』

『いやそれは・・・。突然何言ってるんだ?ってならないか?』

『まあ、そうだね。ラティディア嬢は多分美月さんの存在をしらなさそうだね。』

『今の状態で美月さんに話すことは可能なのか?』

『わからない。とにかくあのペンダントをラティディアからもらわないといけない。』

『ああ・・・とにかくそうするしかないだとう。翔は気づいたか?』

『当然だ。石の色が変わっていた。あの石は元は綺麗な黄色の輝きをしていたんだ。しかし俺がこの世界に来たときには白く濁り黄色のがかろうじてわかるくらいで面影すらなかった。でもさっきはみればすぐい黄色とわかるくらいだった。一瞬輝いていた。』

『なぜ…?』


俺たちは父上に会いに行くまでの間お互いに意見を出し合った。

ジェイは第3者的立場なので割と広く物事を見れるし考えられる。

そんなジェイのおかげで何となく俺たちは結論に近づいていた。


『美月さんの心が完全にその石に移れば多分元の輝きに戻るんじゃないか?』

『俺もそんな感じがする。』

『そうすれば元の世界に帰れるはずだ。』

『じゃあ、さっそくラティディアからペンダントを貰って美月さんに話をしよう!』

『翔!焦るな。美月さんはラティディア嬢から離れられない。だからこう状態になっているんじゃないのか?』

『は?何で!帰れるんだ。俺たちの世界に帰れるんだぞ!そう話せばすぐに美月さんはラティディアから離れるはずだ。』

『心配なんじゃないかな?』

『は?何が?ジェイ、何言っているんだ?』

『美月さんは勝手にラティディア嬢を悪役令嬢にした。それはある程度、小説の流れを知っている美月さんだからよかったんだ。今、美月さんがラティディア嬢から離れたらどうなる?何も知らないラティディア嬢は何で自分が悪役令嬢と言われているのかわからない上、兄上からは婚約破棄されるんだよ。わけがわからないと思うよ。』


実験室のドアに手をかけたところで俺は手を下した。

ジェイの考えはストンと落ちてくるものがあった。


『…確かに…』

『美月さんって人は多分心配するよね?だって自分がラティディア嬢の運命を変えてしまったんだよ。今の状況だとラティディアは幸せになれない。』

『…しかし物語どおり進めば…って!俺、辺境伯変えちゃったよ!』

『物語どおりには進まない。彼女もそれは分かっているのじゃないか?』

『ラティディアは王太子につきまとっていない。第二王子はダリアを好きじゃない。更にダリアは王太子妃の器じゃない。物語とは違う進み方をしている。じゃあ、ジェイ。』


ジェイはうなづいた。

本当にジェイはすごい奴だ。

俺はただ感情的になっているだけなのに冷静に物事を見ている。


『美月さんならならうまく立ち回れたはずだ。でも何も知らないラティディア嬢はどうなる?無理だと考えるのが妥当だ。』

『・・・。』

『だから美月さんはラティディア嬢から離れられないんだよ。美月さんって人は簡単に他人を見捨ててしまう人ではないだろう?お前の好きな彼女はそんな人ではないだろう。』

『ああ。』

『もしかしたらさっきの爆発で美月さんはあの世界に帰れたのかもしれないな。でもラティディア嬢が心配で戻った。そしてあの石に入り込んだ。そういう考えもあるかもな。』

『・・・』

『まあ帰ったら真実は美月さんに聞いてくれよな。』


ジェイの発想には脱帽するしかない。

俺はジェイの考えにほとんど賛同していた。


美月さんは自分のせいで王太子に婚約破棄される悪役令嬢になってしまったラティディアに罪悪感を感じている。

それならラティディアが幸せになるように何とかしようとするだろう。

彼女を幸せを願うだろう。

だから美月さんはラティディアを守るために彼女から離れない・・・。


しかし…

『今のままじゃ彼女の幸せは見えないよな。』

『じゃあ、ジェイ。お前がラティディアを貰ってくれれば…』

『あのなもう少し冷静に考えろよ。お前は本当に感情的な奴だな。はあ・・・。ラティディア嬢にとって一番いいことは何か考えてみろ。婚約破棄して兄上がダリア嬢が結婚する。ラティディア嬢が俺と結婚して義理の家族になったとしよう。彼女は幸せなのか?』


嫌われて婚約破棄された義理の兄、虐めたと噂された義理の姉…。

多分浴びられる冷たい視線。


俺は首を強く横に振った。


『そんな中にいたいか?居づらいよな。彼女は何も知らないんだよ。』

『ジェイはよく考えが回るな。本当に助かるよ。』

『つまりだ…』

『ああ、そういうことか。』


俺たちは同時にお互いの考えを口にした。


『『兄上とラティディアがこのまま結婚するのがベストだろう!』』


そうだ。それしかない。


『じゃあ、それでいいか?』

『とにかくやるしかない。』


俺たちの考えが固まったところで父上の用事が終わったことを告げられ

父上の部屋に向かった。

父上にこっぴどなく怒られた後、ハーデスから兄上が呼んでいることを告げられた。

やはり来たな。って感じだった。

ひとまずここは俺たちの帰還計画のために話を進めなければならない。

俺は大きく息を吐いて兄上の部屋に向けて一歩踏み出した。


『多分兄上は大丈夫だろう。問題はラティディア嬢だ。』

『しかしエディシスフォードだって分からない。』

『それは大丈夫だ。兄上の性格なんてわかってる。手に取るようにわかるさ。兄上は王太子としてチヤホヤ甘やかされたし・・・』

『あまりひねくれてないからね。』

『翔!俺がひねくれてるみたいなこと言わないでくれないか。もう手を貸さないぞ!』

『本当の事だろ?はははっ』


間違えたら大変だ。

でも帰ろうと決めた以上やるしかない。

ジェイの人を見抜く能力を信じている。

『ジェイのその能力って王太子には割と重要な能力じゃないのか?お前が王太子になった方がよくないか?』

『は?嫌だから隠しているんだろう?余計な事しないでくれよな。』

なんて言っている。

まあ同じような性格をしているからわかる。

王太子なんてどう転がってもやってられない職業だ。


エディシスフォードの執務室に向けて歩いている廊下でも俺とジェイはいろいろ話していた。

きっとかなり深刻な顔をしているんだと思う。

しかし周りから見ると第二王子がどうせ新しい薬の事でも考えながら歩いているのだろうとしか見られないな。


俺たちの今の話の焦点は時間だった。

『もしかして時空間が歪んでいるためこっちの世界と元の世界との時間経過が違うんじゃないか?』

と、ジェイは言った。

『勘弁してくれよ。5年も経っているんだ。あっちの世界では5時間だったとかないだろう?』

『ありえないとは思うけど、そう思うしかないだろう?』

『それかあの世界へはその時間の扉しか開いていないのかもしれないな?』

『へ?割と難しいこというな・・・。』

『魔法の暴発で捻じ曲がった空間・・・多分時空も捻じ曲がってしまったんだろう。つまりこんな感じに・・・』

ジェイが頭の中で自分の考えを映し出す。

一本のリボンの端と端ではなくて端と真ん中が捻られてくっ付いたって感じ?

俺たちは進んでいくけど捻じ曲がってくっついたその接点は変わらないってことか。

『わかったような・・・いや?よくわからない?』

『まあ君たちがこの世界にいること自体おかしいんだ。

さらに君が俺の中にいることもおかしんだから何でもありなんだと思おうよ。』

『お前は本当に頭がいいな。俺たちの世界にきたらすごく偉い人になりそうだ。』

そんなことを話しながら兄上の執務室の前に来た。


大きく深呼吸した。


美月さん・・・帰ろう。

俺たちの世界に。

そして戻ったら俺の気持ちを君に言おう。

俺はやはり君が好きだ。


『ラティディアに賭けるしかない。』

俺たちはそう小声でつぶやいてお互い頷いた。


兄上の執務室にはいつも大量の書類があった。

少し前に父上が体調を悪くしてから仕事が回ってきていた。

しかし要領が悪いというとクソ真面目過ぎるというか・・・

何度も思うが本当にこの国はこの王太子で大丈夫なのか?

チラリと無造作に積み上げられている書類をみる。

「あ、計算間違っている・・・」

「ん?」


本当にこの国は大丈夫か・・・。

こんな書類がなぜ王太子のところに来るんだ?

だれかチェックはしないのか?

上司は見ないのか?

さらに内容とパッと読んでみたがわけわからない?

砂糖の輸入?

下へ目をやると教会の修繕?

この書類が何が言いたいのだ?

なぜ一枚の書類にだらだらと文書で書かれているんだ?

なぜ砂糖の輸入から道路の整備、最後には教会の修繕になるんだ?

おかしいだろう?

だれも気付かないのか?

まあいいや。


兄上は案の定、彼女の変わりように戸惑っているようだ。

でも、そんな彼の言葉の端々からは初恋の彼女を思い出しているように見えた。


兄上は割と・・・いや、かなり単純だ。

あれだけ嫌っていたラティディアの素の姿を見てしまえばきっと彼女を好きになるはずだ。

初恋をかなり引きずっているんだからな。


俺とジェイのように多分美月さんとラティディアもどこか似ているはずだ。

可愛くて優しくて、人のことを考えられる。頭の回転が速い。機転が利く。

美月さんがそうなんだからきっとラティディアもそういう女の子なんだ。

きっと兄上は彼女を離せなくなるはずだ。

チラリと書類の山を見ながらため息を吐く。


兄上にはもったいないな・・・。

なんて考えた。


「婚約は破棄するんでしょう?」


俺は最終章への開始の合図を口にした。

さあ始めようか。

どうか俺たちの考えた台本通りに進んでくれるように祈りながらエディシスフォードに言葉をかける。


さあエディシスフォード王太子殿下。

俺たちの思うように考えて、動いてくれ。


彼は俺の言葉に少し眉を上げた。


そしてラティディア・・・君には賭けるしかない。

君にはつらい思いをさせてしまうかもしれない。

でも、君を信じている。

美月さんがついている。大丈夫だ。


俺たちが書き直した台本。

さあ、始めよう。







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