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18話-1 悪役令嬢の運命を変えようか その1

なんやかんやエディシスフォードの卒業式まであと5か月。

小説の終わりに近づいているということだ。

俺たちの舞台もあと少しになっていた。


この頃はずっと実験室にこもって新しい薬を作っていた。

万能薬を作りたかった。

あと5か月で完成させたい。

国民が手に入りやすくするために、なるべく安価にしたい。

薬自体は大体できているのだ、材料の薬草が高い。

もう少し安く、大量に手に入るものに変えれないか…。

安い薬草はそれだけ効果も落ちる。

何とかしないと。

エンディングがどうなるかわからない。

万が一を考えてこれだけは完成させておきたい。

少し焦っていたのかもしれない。


この頃になるとラティディアは立派に婚約者エディシスフォードに嫌われていた。

婚約破棄もいよいよ現実味を増してきた。


彼女が何かしでかした、と言うわけではない。

単にヒロインのダリアがラティディアに虐められたように話をしているからだ。


何も知らないくせに言われたことを鵜呑みにするエディシスフォードには呆れるしかない。

自分で確認するなり、側近のハーデスに調べさせるくらいしたらどうなんだ?なんて思ってしまう。


だから何度でも言うがこの国は大丈夫なのか?

ジェイの方が適任じゃないか?


『あー!またそんなこと言う。俺は嫌だからな!』

『だってお前の方が人を見る目があると思う。上に立つものにはやはり大事なことだと思う。』

『まあ、ダリアの言葉を120%信じている兄上をなんだか情けないと感じてしまうのは確かだけど…。』

『内情を知っているから余計にそう思うんだよ。』

『ん…ラティディア嬢が王太子妃になってくれれば兄上も少しは出来ると思うんだけどな。』

『それは駄目。ラティディアは婚約破棄されて、国外逃亡した後に第二王子が貰い受けるんだからね。』

『翔は好きだけど、兄上も好きなんだよな。だから兄上のことが心配なんだよ。』


そのジェイの大好きな兄エディシスフォードはもうラティディアと婚約破棄してダリアと婚約をとりつけるように動いていた。


そんなところだけは妙に行動が素早い。

まあダリアから何か入れ知恵されているんだろう。


まずはダリアを公爵家の養女にする。

王弟の公爵に頼んでいるみたいだ。

子爵令嬢ではラティディアには勝てないし、世間的にはあまりよくない。

そうした上でラティディアと婚約を破棄して新たにダリアと婚約をする。


エディシスフォードの動きは逐一、俺に届くようになっている。

一応そのくらい簡単に調べあげ、動いてくれる有能な部下くらいはいる。


本当にバカな王太子をもってこの国は残念だな。

あんな女に引っかかりやがって。

ダリアがエディシスフォードの横でいやらしい顔で笑っているのに気づかないかな。

その目つきは俺には気持ち悪くてゾッとした。


『兄上のことをバカっていうな!兄上は頑張ってるんだ!』

『事実を言っているだけだ。』

『翔!!』


だって側近のハーデスでさえ頭を抱えている。

エディシスフォードの見えないところでジェイを推す派閥に少し接触を試みているみたいだ。


俺は美月さんをいただければそれでいいんだけどな。

王子なんて身分はいらない。

のんびり二人で暮らしていけばいい。

まあ薬作って売れば生活には困らないだろう。

料理は美月さんは得意だし。


国王暗殺の公爵の罪に関してもだいたいはわかっている。

お人好しの公爵は陥れられるだけだ。

もし、公爵に罪がかかっても冤罪の証拠は集めてある。

すぐに覆すことはできる。

黒幕の正体まで突き止めている。


これは最後まで切り札として取っておくつもりだ。


ひとまずラティディアとエディシスフォードの婚約が破棄されるまでは、静観するつもりだ。


修道院に逃げてきた美月さんに全てを打ち明けて彼女の手を取るんだ。

美月さんが望むなら俺が王太子になってもいい。


『俺は嫌だからな!』


ジェイは無視しとこう。


『は?無視するだって!誰の体に間借りさせてやってんだ!

この恩知らずが!』


のんびり暮らしたいのなら二人でどこかの田舎町でくらそ暮らそう。

隣国に行きたければ一緒に行こう。


『だ、か、ら!俺を無視するな!!』


俺以外を選ぶ選択はない。させない。


ゆくゆくエディシス」フォードが国王、ダリアが王妃なんてこの国は終わってるからこの国にはいない方がいいのか?

やはり隣国に一緒に逃亡するのがベストなのか?

ああ、このまま隣国と手を組んでこの国を滅ぼしてもらうことも有りかな?


『おい!何考えてるんだ!兄上が困るようなことはさせないからな!』

『って、あの二人じゃこの国のお先真っ暗じゃないか。無理でしょ?』

『むっ…』

『さらに有能な宰相は濡れ衣を着せられて追放される。

どうするんだ?』

『…そうだけど…。』

ジェイはそれきり黙り込んだ。


少ししてからジェイはぽそりとつぶやいた。

『なあ、翔。』

『あ?』

『もし彼女が首を縦に振らなかったらどうするんだ?』


ジェイが素朴な疑問を問い掛けてきた。


美月さんが首を縦に振らなかったら?

俺の言葉に同意してくれなかったら?

そんなこと考えなかった。


『大丈夫だよ。』

『その絶対の自信は何なんだよ。』

『美月さんはそういう人なんだよ。』

『でも彼女はお前の父親が好きなんだろ?』

『この世界では関係ないさ。』


そう…いくら心に父さんがいたとしてもこの世界にはいない。

君の気持ちをわかるのは俺だけだ。


『でもお前は関係なくないみたいだが…。お前が一番引きずってないか?』


痛いところを突かれた。

しかしここまで来てしまえば諦めることなんてしない。


『4年待ったんだ。多少強引に行くよ。』

『お前はラティディアじゃなきゃ駄目なんだよな…』

『何だ?ジェイ、歯切れ悪いな。』


何だか今日のジェイは可笑しい。

何やら言いたそうだ。


『ジェイ?どうした?何かあったか?』

『ああ、いや…。』

『はっきり言えよ。』

『ダリア嬢では駄目なんだ…。兄上は幸せになれない。』

『小説はめでたしめでたしなんだけどな。』

『心配なんだ。不安なんだ。だってそもそもおダリア嬢があんな性格だなんてわからなかったし、知らなかった。あいつは駄目だ。兄上どころか国までも駄目にする。』


俺もヒロインがあんな腹黒だとは知らなかった。


ジェイの言いたいことはわかってる。


第二王子としての自分の役割。

兄、王太子エディシスフォードの片腕となって一緒に国を支えていく。

ようやく彼はその立場に立ちたいと思っている。


突然体に入り込んで来た男の夢物語を叶えるにはその代償は大きすぎる。

今の状態で彼の立場、性格を考えると国から離れるなんてできるはずがない。


わかってるつもりだから早く自分の気持ちを言ってくれよな。


『俺は国のことには今まで無関心だった。ここに来て兄上を心配するなんてずるいのはわかる。でも、兄上にも翔にも幸せになってもらいたい。翔は大丈夫そうだ。しかし兄上は心配だ。だから……』


俺たちがこの世界にきて好き勝手やってしまった自覚はある。ジェイを苦しめてしまったことは本当に申し訳ないと思っている。


『だから?』


ジェイがこのところ悩んでいて、

それについて一つの答えを出したことも俺はわかっていた。


ジェイはエディシスフォードを慕っている。

エディシスフォードが大好きだ。

彼が困るのがわかっていて見て見ぬ振りはできないだろう。

ジェイは必ずエディシスフォードの力になりたいと思うはずだ。

わかってはいたが彼が自分で言うまでは黙っていようと思っていた。


『だから…翔…今までの君の話を聞いていると言いにくいんだが…申し訳ないんだが…』


薬草を砕いて煎じた液に手を当てながらジェイは少し黙り込んだ。

俺はいよいよ彼が自分の気持ちを話してくれのかと思うと少し緊張した。

だからジェイが必要以上の魔力を注ぎはじめたのに気付かなかった。


ジェイの指先から膨大な魔力が溢れだした。


『おい!ジェイ、その魔力は!!』

『あっ…』


ジェイは慌てて魔力を抑えようとしたが遅かった。



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