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16話-3 転生王子として楽しく生きて行くとしようか その3

晴れた日に空を見上げた。

空には白い月が見えた。

右手に指輪を持って、その手を空にかがげた。

あれだけ綺麗に黄色に輝いていたシトリンは乳白色になっていた。少し角度を変えれば黄色にも光る。

面影が無くなったわけではないが全く別物になってしまったように見えた。

爆発の衝撃で割れたのか?細かくヒビが入ったのか?

それでこんな色になるか?

もしかして爆発の原因のガスが触れて化学反応を起こしたとか…。

いろいろな物質や化学反応を思い出してみるが全く思いつかない。


『いつも見ているがそんなに大事なものなのか?』

『ああ。俺ではなくて美月さんにとってかな?』

『彼女はどうなったのかわからないのか?』

『ああ・・・。』

『戻りたいか?』


戻れる方法なんてわかるはずもない。

まあ仕方なく第二王子としてジェイと一緒に生きていこうかと諦めていた。


『俺は割とこの生活が好きだよ。』

『そうか。それならいいけど・・・。』


前の世界を忘れるわけではない。

ただ戻れない。

彼女が父さんの横で笑っている日常を突き付けられるのは思った以上に俺の心にダメージがあったみたいだ。


結局このまま生きていくしか手立てがない。

俺に何かできるわけではない。


しかし…

『じゃあこれからどうやって生きていくか考えようか。』

ジェイは割と人の気持ちがわかる。

俺が暗く落ち込まないように明るく接してくれる。

俺が入り込んだのがジェイだったのはよかった。

かなり彼に救われていた。


『じゃあ勉強に関しては翔に任せたよ。』

『は?勉強したくないだけじゃないか!』

『じゃあマナーとか礼儀作法とかできるの?』

『あ、パス。』

『王子として生活においては俺がやるから。

で、化学なんだけど・・・』


もともとジェイ自身、化学とかそんな分野が好きみたいだった。

またジェイはかなり強い魔力を持っていた。


『なあ、お前の魔力。半端なくねぇ?』

『内緒だよ。多少は使えるようには見せているけど魔力が多いのがばれたら魔法騎士とか戦争に駆り出されるかもしれないからね。面倒なことは嫌だ。怪我とかして痛いのも嫌だ。』

『まあ、そうだな。』

『ってさっきの続きなんだけど・・・』


彼の魔法の知識と俺の化学の知識を合わせるといろいろな薬を作ることができた。


作り出すことの楽しさをジェイと二人で味わった。


ああだ、こうだと、いいながら二人で考えを出し合う。

図書館で薬草の知識を読み漁る。

更には街に出かけて本には載っていない知識を手に入れたり、森に住む薬師を訪ねたり割と楽しく器用にやっていたと思う。


ジェイと話ができることが楽しいかった。

気の合う友達がいつも一緒にいるって感じ。


あの爆発で俺は死んだんだからこの世界で生きていくしかないだろう。

戻る方法があったとしても俺たちは死んでしまったんだ死んだ人間に戻っても仕方ない。

もし仮に生きていて戻れたとしても美月さんと父さんが幸せに微笑みあっているのを見るのも嫌だ。


そもそも戻れる方法なんてわからない。


ジェイも喜んでいるみたいだし、

俺としても魔法が使える世界でワクワクしている。


魔法を使いながら化学の知識を活かして薬を作る。

人の役に立つし、好きなことができる。すごく楽しい。


だから俺はここでいいかな?なんて思って暮らしていた。


しかし、気にはしていた。

美月さんも同じようにこの世界に巻き込まれてしまってないかということを…。


だってあの爆発が原因なら可能性が無いわけじゃない。

もしかしてこの世界のどこかに美月さんは存在しているのだろうか?

月を見ると思う。

この月を美月さんも見ているかもしれないと…。


明るい月が空に登る時はだいたい指輪を握りしめてずっと月を見ていた。


それでも別に探すことはしなかった。

だって探してどうなるなんてことはない。


ジェイデンはいいのかと問いかけることもあった。

『いいんだ。』

と同じ答えを返していればいつしか聞かれることも無くなった。


俺は第二王子という身分だ。

探し出しても平民とか、友好を交わしていない国の人とかだったら結局手を差し伸べることはできない。

人間じゃないかもしれない。

男かもしれない。

年も違うかもしれない。

結局探し出してもそれだけで終わってしまう可能性の方が高い。


美月さん!と呼びながら街中歩くわけにはいかないし、

この国じゃなかったらいつまでも探し続けなければならない。

容姿だって違うし、自分から私は美月です。って名乗ることもないだろう。

それぞれ今の生活があるんだから壊すこともない。


それも同じ世界に転生していた場合だ。

だって転生したのは俺だけかもしれないし、美月さんが転生したとしても違う世界かもしれない。

まあ骨折り損のくたびれ儲けってやつになる可能性が非常に高いわけだ。

そんなのに時間を費やすものばかばかしい。

割と自由気ままに研究できる環境を気に入っているんだからのんびりここの生活を楽しもうかと思っていた。


この国では11歳から学園に行くのだが

入学式に一度行ったきりだ。

はっきり言って行くだけ無駄。

仮にも日本の学歴社会に揉まれてたんだ。

貴族様のゆるゆるな勉強なんて必要ない。

ここで実験することに時間を使う方が有意義だ。


ジェイと知識を共有させることも器用にできるようになっていた。


そんな矢先だった。


兄上の婚約者になる人と顔合わせを兼ねてお茶会をすることになった。

俺を呼びに来た兄上は嬉しそうだった。


『兄上の婚約者になる公爵令嬢って兄上の初恋の子なんだよ。』

ジェイが教えてくれた。

『だから嬉しそうなんだ。』

『割と可愛い子だよ。同じクラスのはずだけど、入学式以来行ってないからお前は会ったことないな。』


入学式以来行ってなくても誰から何も言われない。

これってどうなんだ?


エディシスフォードと一緒に庭にでた。

薔薇の咲き誇る庭に置かれたテーブルの前で彼の婚約者になる人が立って頭を下げた。


銀色の髪に水色の瞳。

まだ幼さが残る顔。

年相応ではなくかなり落ち着いた全てを知っているかのような落ち着いた表情、雰囲気を持っていた。


ラティディア=サーチェス=ストラヴィー


彼女を一目見た瞬間に気づいてしまった。


美月さん…!


そして同時に以前読んだ本を思い出した。


彼女は悪役令嬢。


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