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15話-4 溺愛王子は元悪役令嬢を囲います。その4

ラティア章のラストです!

あれから三か月経った。

ラティアは再び学園に通い始めた。

残念ながら今は公爵家に戻っている。

学園が終わってから夕方には執務室に顔を出しにくる。

仕事が多い時は泊まっていくし、週末はほとんど帰していない。


やはり宰相から山と仕事が回されてくる。


ラティアが書類の書式を作り、部署ごとに、上役の承認がなければ書類が上がらないようになった。

また間違いや差し戻しなどがあれば都度マイナスポイントがつくようになり、減俸になる場合もある。

おかげでひどい書類が来ることも無くなった。


ラティアとの時間も取れている。

キスをすると恥ずかしがるところはかわらない。

もう少し慣れてくれてもいいんだけどな。

でも安心した表情をして私に寄り掛かってくれる彼女を抱きしめると自分が本当に幸せなんだと思う。

あの時に彼女の手を離さなくて本当によかった。


あのあと陛下は私とラティアの結婚を宣言した。

式はまだ先だがほとんど彼女は王太子妃として扱われていた。


外交の時の襲撃事件からいろいろ繋がりを追っていった結果

やはりダリアとダリアを買った街の富豪にたどり着いた。

二人は王太子襲撃事件の罪を負うことになった。


さらに人身販売、子爵夫人娘の殺害罪、子爵をだました罪。

禁止している薬の密売、詐欺罪、いろいろなおまけもついていた。

中には国王殺害計画なんて素晴らしいものもついていた。


いつの間に…?


更に悪いことに子爵は王妃寄りのジェイデンを押す勢力に属していたから子爵まで罪を負うことになった。

同情が集まりながらも娘が王太子暗殺を企んでいたことを見逃すわけにはいかなかった。

私が王太子として立つのだと見せしめが必要だった。


当然ラティアは胸を痛めていた。


「ラティア。大丈夫か?」

「ええ。」

裁判にはラティアも出廷の義務があった。

なんせ襲われたときに一緒にいたからな。


実はあの襲撃は私ではなく彼女を狙ったものだった。

しかし公爵令嬢暗殺未遂より王太子暗殺未遂の方がインパクトがあるとハーデス、ジェイデンと話をして王太子襲撃事件として扱うことにした。

実際私も怪我をしたからね。


「少し気分が悪そうだけど大丈夫?」

ラティアの顔色が悪い。

「頑張ってみるわ。」

悪役令嬢を演じていた自分が一番悪かったのだといつも口にするラティアにはこの場は辛いだろう。

罪悪感でいっぱいだろう。


しかしいつも白い肌が今日は更に白く感じる。

私は法廷の席に座り、ラティアを抱き寄せた。


彼女は小さく息を吐いて目の前のピンクの髪を揺らしながら叫ぶ女に視線を向けてじっと見ていた。


「私は殿下に騙されたんです!エディシスフォード殿下は私を王太子妃にしてくれるって言ったのです。」

ダリアの声が響く。

この期に及んでまだ言うのか・・・。

また王太子妃か…。たいした娘だ。


私は一応発言しなくてはいけない立場だ。

手を上げてハーデスを呼ぶ。

すっと私の隣に膝まづいた彼に

「すまない、ラティアを頼む。」

と小声で言う。

「ラティア、辛くなったら退室してもいいんだよ。」

彼女は目を閉じてゆっくり首を横に一往復させた。


私はラティアを残して席を立った


「その件についてはきちんと君に謝罪をしているはずだ。私が悪かったのは認める。

しかし今後はラティディア嬢と二人でこの国のために精一杯頑張っていくつもりだ。」


「ラティディアに何ができるの。彼女は私を虐めていたんですよ。それに私の方が成績はいいはずです。私の方が王太子妃になるべきです。私が王太子妃になるんです!」


おいおい、ラティアは正式に王太子妃になることが宣言されている。呼び捨てはまずいだろ…。

それに王太子妃って…せめて私の妃になりたいと言って欲しいものだ。

そういうと私が好きだったのではなくて、王太子としての私の身分だけが好きだったようにしか感じない。


「静かにしろ!」

衛兵がダリアの腕を掴んで彼女の背に後ろに回した。

「痛い!いや!私はラティディアにいじめられていた!離して!」

「それにラティディア様を呼び捨てにするとは何事だ。彼女は王太子妃になられる方だぞ!」

「王太子妃は私がなるのよ!無礼でしょ!あなたは解雇よ!離して!もうっ」


君にそんな権限ないから。


「その点は私から報告します。」

ジェイデンが前に出た。

「同じクラスでしたがストラヴィー公爵令嬢がいじめているようなことはありませんでした。

ただ注意していることが彼女には強く言われたように感じていただけだと思います。

またほかのことについても同じクラスの人からすべて彼女の被害妄想からくるものだと報告が上がっています。」


騎士団長が前に出る。

「ストラヴィー公爵令嬢様はとても温情のある方です。

成績だけで王太子妃が決まることはありません。」


管理官らしき男も立ち上がり話し始めた。

「書類の統制に公爵令嬢は多大な功績をあげております。

成績が悪かったとは思えません。彼女は王太子妃としての役割はきちんと果たすはずです。

私は彼女についていきたいと思います。」


また他の人も立ち上がる。

「彼女は修道院や孤児院に寄付をしていた。

心優しい方です。」


ラティアの瞳が少し潤んでいた。

みんなが認めてくれてる、君を。

もう君は悪役令嬢なんかじゃないんだ。

立派な王太子妃…私の妃だ。


優しい気持ちでそんなラティアを見ていたらハーデスが何やら話しかけた。


「ラティディア様、私はあなたにずっとついていきます。」

隣からハーデスがささやいていた。


ハーデス、お前!


「ふっ、あなたまで嫌だわ。エディスの立場がなくなってしまうわ。」

ラティアが、優しく笑う。


再びダリアが、叫び出した。

「わたしは王太子妃になって私を売った家、私を粗末にあつかった子爵家を見返してやるのよ!

私が王太子妃、王妃になるのよ!離して!未来の王妃に向かって何するの!無礼でしょ!」


「みっともない真似はやめなさい。」

ラティアが突然立ち上がった。


すこしふらついた。

ハーデスがささえるが、私は慌ててラティアの側に行った。

「ラティア!大丈夫か。立たない方がいいんじゃないか?お前は触るな!」

「心狭っ!」

「大丈夫よ。エディス。」

「ラティア・・・。」

ラティアは私に向けてにこりと微笑んだ。

ようやくラティアは私をそう呼んでくれるようになった。


私達の間にはお互いを思う気持ちがあるんだと感じる。


「エディス、ありがとう。」


ラティアは私の手を一度ギュッと握ってから

手を離して、背筋を伸ばし、真っ直ぐにダリアを見て話し始めた。


「あなたが王太子妃になる?おかしくないですか?

確かにエディシスフォード殿下がつらいときに隣にいてくれました。それは感謝してもしきれないです。ありがとうございました。

あなたはエディシスフォード殿下を慕っていたのではないのですか?

彼が好きならば彼が立派な王太子、国王になることを望まなければいけません。

もし彼が本当に好きならあの時あなたは彼に逃げ出すことを教えてはいけなかったんです。

彼は逃げることを覚えてはいけないんです。逃げていては国は治められない。民の暮らしは守れません。

彼はきちんと自分の立場をみる必要があるんです。それを諭さずにただ甘やかしていてはこの国が成り立ちません。

民は彼にはついてこれなくなります。

そしてなぜご自分が王太子妃なることを執拗に言うのですか?

申し訳ありませんがあなたが王太子妃になってもこの国に未来はありません。身分に囚われている人をその地位につけることできません。」


ラティアが少しチラッと私を見た。


「彼は失敗をしました。私も失敗をしました。だからこそ得るものがあったんです。私はエディシスフォード殿下と共に生きていきたいと思います。」

「なによ!あなたならいいの?!」

「わかりません。ただ、一緒に考えていくことはできます。励ますことはできます。倒れたら引きずってでも立たせることができます。隣で支えていくことができます。私はこの人とならそんな未来を歩いていけると思っています。」


「ラティア。引きずられるのはちょっと嫌だな・・・。」

ぼそりと耳元でささやいた。

ラティアの肩を抱いた。


「私が隣にいて欲しいのはラティディアだけです。倒れた私に手を差し伸べて前を向かせてくれる。一緒に倒れるわけではない彼女が立ち上がらせてくれる。私が下を向いた時には一緒に下を向いて考えた後、次の道に導いてくれる。そして私が心細い時には抱きしめてくれる。私が一緒に歩いていけると思ったのは彼女ただ一人なんです。王太子妃は彼女だけです。」


陛下が目を閉じてうなづいた。

「エディシスフォード、いい娘を見つけたな。」

「ありがとうございます。」


「それでは判決を言い渡す。」




「ラティア?大丈夫?」

「あれ?私は?」


彼女は目を開けて体を起こしてキョロキョロとした。

私は彼女が寝ているベッドの隣に椅子を置いて書類に目を通していた。

書類をトントンと膝の上にまとめてベットの側にあるサイドテーブルに置いた。


「判決を聞いた後に倒れたんだ。」

「ああ…そうね。」

「気にする事はないよ。仕方がなかったんだ。」

「…ありがとう。」

「無理して法廷にでなくてもよかったのに。」

「でもとってもいい言葉が聞けたわ。ふふっ。かっこよかった。」

「惚れ直した?」

「ええ。」

「頑張った甲斐があったよ。」


優しく顔を近づけてキスをする。


「ラティアありがとう。」

「ふふっ。ありがとう。」

「大丈夫?まだ寝てて。顔色悪いよ。

この頃あまり食べないし、無理してない?

学園は休んだ方がよくないか?仕事もなんとかできそうだし毎日来なくてもいいよ。」

「そうね。そうさせてもらおうかしら。」


…毎日来ないのか。

自分で言っておきながら寂しい気持ちになった。


「でもあなたに会えないのは寂しいからこのままここにいようかしら?」

「何だか嬉しいこと言ってくれるね。いいことあった?」

「ふふふっ、そうね。」

「でも体が辛かったらちゃんと言って。心配だから。」

「ねえエディス。手を出して。」


ん?私は右手をラティアの前に出した。


「これでいい?」


ラティアはその私の手を両手でつかんで

自分の頬に当てた。


そしてゆっくり自分のお腹の上に乗せた。

「ふふ。」


私の驚いた顔をみてくすくすと悪戯っぽく笑った彼女は今でもわすれられない。

記憶をなくしてから…いや彼女がいなくなってから4か月経っていた。



「女の子かな?ん、やっぱり男のがいい?

ラティアの事を考えると男がいいな。

君に変なプレッシャーを与えなくていいからね。」

「エディス、ちゃんと仕事しましょうか。」

「怒ったラティアもいいね。でも怒りすぎるとお腹の子供に悪いよ。目つきの悪い子になってしまうよ。

ああ、ラティアの子なら可愛いから心配しないで。」


まだ目立たないラティアのお腹をすりすりする。


「はあ・・・。」

「ラティディア様・・・よくわかります。そのため息。」

「なんでこんなになってしまったんでしょうか?」

「俺が言いました。すみません。」

「何を言ったんですか?」

「既成事実を作ってラティディア様を逃がさないように囲ってくださいと・・・。」

「ハーデス様・・・自分の主を信じてください。意地でも実行するに決まっているでしょう!」


「そうそう私はできる男だ。

時期的にあの視察旅行から帰ってきた後に初めてラティアを愛した時の子だよね。我ながらすごいね。」

「たしかに可能性は高いです。恥ずかしいので人前で話さないでください。」

「もう初めて愛を確かめ合った時の子なんて、運命的だ。」

「だからその時の話はここではいいです・・・。」

「やっぱりあの時か。エディシスもかなり自制が効いてなかったね。寝室にも行かず自分の部屋で…。」

「何で知っているんですか?!ハーデス様、忘れてください!」

「早く生まれないかな。」

「あっという間ですよ。なんやかんや言っていい父親になりそうですね。」

「そうね…」

「早くお母様を私に返してね。」

「「そこ!!!」」



公爵も泣く泣く折れてラティアはまた私の部屋の隣にいてくれるようになった。

せっかくだが安定するまでラティアを抱けないのは辛い。

結婚式は早まった。安定する時期を待ってから

規模を大きくしないですることになった。

ようやく落ちついた日々が戻ってきた。

ラティアの体調もかなり安定してきた。

まあ、私が毎日抱きしめてあげてるんだから良くなるしかないな。


「あれ?ラティアは?また図書館??」

「そうじゃない?」

「全くまだ安心できないんだから、ちょっと見てくる。」

「心配症だな。」


しかしラティアは図書館にいなかった。


ジェイデンのとこか?

ジェイデンの実験室に行った。

そこにはジェイデンもラティアもいなかった。

机は綺麗に片付けられていた。

珍しいな、なんて思った。

机の上に何も入っていない黒い箱が蓋を開けて置いてあった。


ああ、そうか…。


私はジェイデンの実験室のドアを閉めて外に出た。

そして空を見上げた。


青い空に白い月が見えた。

次からようやく出番です。

お待たせしました。


すみません、一度見直すので更新 が1日空きます

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