15話−3 溺愛王子は元悪役令嬢を囲います。 その3
『ラティア…愛してる。』
そんな言葉を昨日何度聞いただろう。
ふわふわと心地いい。
目の前にある金色の髪に手をかけた。
さらりとして滑らかで、指から擦り落ちていく。
男のくせに何で綺麗な髪なんだろう。
「エディシス様…。大好きです。」
廊下からエディシス様の部屋に入るなり扉に押しつけられて唇を貪られた。
そしてソファに押し倒されて…。そのまま…。
あら?いつの間にか寝室に来たのでしょうか?
思い出しただけで恥ずかしくて死ねそうだわ。
何だか腰が重い…。
「ラティア…おはよう。」
へっ?
聞かれた、今の!
眠気ありありの寝起きの殿下の顔はいつもの王太子の顔ではなく私をだけを愛しく見つめる男の人の顔になっている。
甘く蕩けたその顔をみれるのは私だけの特権だ。
もう朝から甘すぎます。
「ラティア、こんなにいいものなんだ。ようやく手に入れた。」
「エディシス様!」
私は少しシーツで顔を隠した。
「可愛い顔を隠さないで。もう全て私のものだ。
私のものになってくれだんだ。ふふふっ。
しかし昨日は様なんてついてなかった。何で戻るの?」
その顔は卑怯です。理性が…。
ギュッと抱きしめられて…って
やだ!何も着てないじゃない。
殿下も…。
「ラティア、愛してる。ほらラティアも言って」
キスしながら言われる。
「あ、ふっ…む、無理です。」
「昨日はかわいく言ってくれたのに。まだまだ教え込まないといけないみたいだね。」
確かに耳元で
「愛してるって言って」って何回もねだられた記憶があります。
「安売りはしません!」
「それじゃ言えるようにならなきゃね。言えるようにしてあげる。」
「やっ…エデ…エディシス様…」
「で、午前中も楽しんでいたわけだ。」
「ハーデス様、そんな…」
「まあ、羨ましいからと言って怒るなよ。」
「エディシスはさぞかし楽しかったことだろうね。」
「だってようやくラティアが私のものになってくれたんだ。
ねっ、ラティア、愛している。」
「あ、私も・・・あ、愛しています。」
調教されました・・・。
「ラティディア様もかわいそうに。こんなやつの毒牙にかかって…。無理にこいつに合わせなくともいいんですよ。エディシスも強制しない!」
「ありがとうございます…」
「いや、無理矢理ではない。」
「エディシス、仕事だ!視察の報告纏めるぞ。あ、ラティディア様にも責任とって一生懸命働いていただきますから。」
…ハーデス様申し訳ありません。
「エディシス、この書類だけど…」
「ああ、これか。」
やはり王太子として仕事をこなす彼はかっこいい。
しかし…昨日の夜の彼は色気がありすぎて直視できなかった。
どちらの彼も好きだ。
結局私はこの人が好きなんだ。
何でだろう…。
ついこの前記憶を無くして彼に対してこんな感情もなかったのに。
どうしようもなく好きだ。私は彼が好きだ。愛しい。
側にいれることを許されてこんなに嬉しい。
「あ、ラティア。そこの書類を取ってくれないか?」
「あ、はい。」
私はエディシス様に書類を差し出した。
彼が私の顔を見た。
「ありがとう。」
優しく笑う。
少し不器用ですぐに気持ちが顔にでる。
記憶を失くしたときは嫌な顔しかされなかった。
しかしいつからか私にこんな笑顔を返してくれるようになったんだろう。
そしていつからその笑顔を愛しく感じていたのだろう。
私はこの人と一緒にいてもいいんだ。
どうしようもなくこの人が好きでいていいんだ。
みんなには迷惑をかけた。
記憶が無くなったからと言って許されることではないのは分かっている。
でも私に手を差し出してくれた。
私に微笑んでくれた。
だからずっとこの人を支えていこう。
「ん?どうした?書類離してくれないと見れないよ。
ラティア?」
「…る。」
「は?」
「あなたを愛してる。」
彼は柔らかな笑顔を返した。
そして立ち上がって私の頬から流れている涙を拭き取った。
彼の唇が私に優しく触れた。
「嫌だな。さっき教え込んだばかりなのにラティアは素直だな。」
そうじゃなくて・・・。
言わされるんじゃなくて本当にそう思ったから口にでてしまって・・。
エディシス様がキスをしてきた。
そして優しく抱きしめてきた。
「わかっているよ。さっきと意味が違うことが。
ありがとう。」
もう一度私の頭を引き寄せてキスしてくれた。
「だ、か、ら!イチャつくのは構いませんが仕事を終えて夜にしてもらえませんか?」
「わっ!なんだ!邪魔するな!」
仕事が終わらない。
「ここで寝泊まりはご遠慮したいです。」
ハーデス様が嫌そうに言う。
「ちゃんとやっているだろ。」
「今頑張ってます。」
三人で残業です…。
「しかし、ラティアが手伝うようになって本当に効率良くなったよ。ありがとう。」
「そうですかね?今日に限っては同意しかねます。まだまだ書類たくさんあります。」
「ひとまず夜のうちに全部終わらせて明日はゆっくりさせてもらおうか。」
「また、何か企んでいないか?」
「終わりだ!」
エディシス様が最後の一枚に印を押した。
「これで明日午前中は寝ていられるな。」
「いえ。午前中は会議があります。」
「えー!勘弁してくれよ。」
「少しでも寝ましょうか。」
「ラティア、さあ部屋に戻ろうか。」
「疲れているんじゃないですか?楽しそうですが…」
その後部屋に戻った私達が寝るときにはもう朝日が登り始めていた。