2話-1 記憶喪失になりました。その1
「ラティディアは気づいたか?」
「あ、いえまだです。」
何やら話し声がする。
私はうっすらと目を開けた。
天井を見る。ここはどこだ?
天井は白い。壁には金色で模様が入っている。
私は天国にでも来てしまったのだろうか?
少し体を横に動かすとふんわりと柔らかな感触がする。
ふわふわとする。
やっぱりあの爆発で私は死んでしまったのだろうか?
「気づいたのか?」
私が寝ているベッドに背の高い男の人がやってきた。
暗い茶色?黒に近い瞳をした金髪の人だった。
素敵な方ですが何やら私をすごい目つきで睨んでいる。
夢ではないようだ。
どうも私は生きているようだ。
冷たい視線。
嫌悪感ありあり。
私はその人にあまり歓迎されていないようです。
どなたでしょうか?
私は目をぱちくりさせた。
「ああ、よかったよ。王宮で爆発事故があり人を巻き込んだとか大事になったら困ったものだ。
君が気がつかなかったら大変なことになるところだったよ。」
爆発?王宮?
彼は何を言っているの?
頭に手を当てた。
「痛っ・・・。」
ン?頭に包帯が巻かれている。
よく見れば手にも包帯がある?
ペタペタ顔を触ってみる。
頬には絆創膏が貼られている。
やはりあの爆発で吹き飛ばされたみたい。
怪我だらけだ。
そんな状態ですが目の前の彼は私の心配してませんね。
王宮で事故があったということの方を心配しているようだ。
一応怪我をしているのでできれば少しくらいは心配していただいてもいいのではないのでしょうか?
しかしなんだかおかしいのです。
私は確か街に買い物に出かけたはずです。
そして何かの爆発に巻き込まれて飛ばされたのまで覚えています。
しかし今王宮って言わなかった?
私が事故にあったのは王宮ではなくて街だったはずです。
「あの…申し訳ありませんが…」
「何だ?」
そんなに嫌そうに答えなくてもいいじゃないですか。
私も困っているんですから。
「王宮ってどういうことですか?私は街にいたんじゃないですか?」
「はっ?」
「それと、あなたは誰ですか?」
「何を馬鹿なことを言い出すんだ。
いくら私が君に構わないからって冗談はやめてくれないか。」
「冗談ではなく…大変申し訳ないのですが教えていただけると幸いなのですが・・・。」
「は?」
私は首を傾げた・・・っておかしい。
何だかいつもと違う感じがした。
私は自分の手を見た。
「す、すみません・・・。鏡はありますか?」
その人は鏡のある方を指さした。
私は裸足のまま鏡の前に立った。
そこには
すらりとしたスタイルのいい綺麗な女の人がいた。
「あら?綺麗な人。」
「自分で何を言ってるんだか・・・。」
ん?今私は鏡を見ているのよね?自分?ってどういうこと?
確かに銀の髪だ。私も銀の髪をしているはずだ。
瞳は水色・・私も水色・・?
ペタペタ鏡を触った。まぎれもない。鏡だ。
つまりこの鏡に映っている綺麗な女の人は私??
待て待て!私は11歳のはず。
どうみても15?16歳くらいじゃない?
「あの・・・今の王の時世を教えていただけますか?」
「は?」
「ですから今の王は誰で!何年ですか!」
「変な奴だ。今はヴィクタリス15年だ。」
この国の歳は国王の名前と在位の年であらわされる。
つまりヴィクタリス国王陛下の時世になって15年目だ。
「え?今は10年じゃないんですか?」
「は?」
「待って待って・・・どういうこと?15年って…」
「何言ってるんだ?」
「5年ちがう…。つまり私は16歳???11歳のはずじゃなかった?この鏡は私??」
「何をさっきから言っているんだ。意識が戻ったのなら帰ったらいい。」
「さっきからうるさいわね。
私はすごく大変なことになっているの!
少し考えさせてくれない?本当に気の利かない人だわ。」
「は?私に向かって何を言うんだ!」
「私は怪我をしているのよ!
私の心配もしないで何よえらそうに!
よく分からないけど何であなたがここにいるのよ。本当に誰?
それにここはどこなのよ!」
「何を言っているんだ?」
「さっきから何回も尋ねているでしょう!ちゃんと聞いていましたか?
わからないから聞いているんです。でもあなたは答えてはくれない。答える気がないなら黙っていてください。」
「は?」
本当に何がどうなっているのかわからないのでできれば全部教えてもらいたいのですが。
「本当に何を言っているんだ。宰相がそろそろ仕事が終わるだろうから
迎えに来てもらうように伝えておく。」
私は首を傾げた。
「宰相?なぜピリッツ公爵が私を迎えに来るんですか?」
「は?宰相は宰相だよ。何言ってんだか。ピリッツ公爵は3年前に引退したじゃないか。
宰相は今ストラヴィー公爵、君の父親だよ。」
「え?ちょっと待ってください。ストラヴィー公爵はおじい様の事ですよね?さらに父は宰相補佐官ですよね。
何で父が公爵で宰相なんですか?」
「おい?本当に何を言っているんだ?
リチャード=ストラヴィー公爵は4年前に亡くなって
そなたの父、ロバートソン=ストラヴィーが爵位を継いだではないか。そしてこの国の宰相をしているじゃないか。」
私はその人の胸倉をつかんだ。
「おじいさまが亡くなったってどういうことです!いつ??だって元気だったんですよ!」
「急な心臓の病だったはずだが・・・。」
「そんな・・・。」
私はその場に座り込んだ。
私はどちらかというとおじい様っ子だった。大好きなおじいさまが亡くなってしまっている。
どういうこと?だってヴィクタリス15年・・・。
「どういうこと?5年間だけ記憶が無い・・・。知らない間に5年経っている・・・。」
「どういうことだ?5年って何だ?本当に私が誰なのかわからないのか?」
私は少し不安そうな目をしていただろうか。
ようやくつながった自分の結論がどうしてもすぐには受け入れられないものだった。
でもすべてがつながっていた。
私は彼の質問に対してコクリとうなづいて、彼に言った。
「この5年間の記憶が全く思い出せないんです。」
彼はそのごげ茶の大きな瞳をさらに大きくして大きな声を上げた。
「はあ????」




