14話−2 溺愛王子に付き合いましょう。 その2
鳥の鳴き声がする。
瞼の向こうが明るい。
少し目を細めながら開けてみると前の窓のカーテンからうっすらと日差しが差し込んでいた。
ああ、どうやら朝らしい。
私はあのまま泣きながら寝てしまったのか。
結局泣き止まなくてエディシス様が優しく抱きしめてくれたのは覚えている。
うう、泣いたから頭が痛い。目も腫れているだろう。
すっと自分の目に手をあてて確認しようとしたら
目の前に腕があった。
もしやこれは???
さらに後ろから緩く手を回されているようで生暖かさを感じた。
咄嗟に首を反対の方に向けた。
目の前に絵にかいたような美形が寝ぼけた顔をして私を見た。
「おはよう。」
朝からこぼれんばかりの輝きがその顔からあふれ出ていた。
「お、おはようごっございます・・・。」
私はエディシス様の手を枕にして寝ていたらしい。
「もう、申し訳ありません!!!!」
まだ寝ぼけているのかエディシス様が伸ばしていた手で私の頭を自分の方に抱き寄せた。
いやいや!朝から甘いことしないでください。
今日一日何もできない子になってしまいます。
その寝ぼけた顔も反則です。
「手は大丈夫ですか?私・・・ずっと腕枕していただいてしまって・・・。」
「ん・・・あ、だから少しだるいのか・・・ふふ」
朝からそんななまめかしい色気を最大にして私に打ち込まないでください。
割と朝は弱い方だったんですね。
私の方がいつも後から起きます。
いつも私の寝顔どれだけ見られていたんだ!
「申し訳ありません!すぐにどき・・・」
「ふぁ~。もう朝からうるさいよ。」
待って!待って!!!!
エディシス様がギュッと抱きしめてきた。
朝のおはようの抱擁なんて望んでいません!
私は殿下の頭が夢から覚めることを望んでいます。
「朝です!!」
私は何とか向きを変えてエディシス様の胸を強く押した。
「ああ、朝だね。まだ眠いから寝るよ。」
ストーーーーップ!寝ないでください!!!
朝は"起きる"です!"寝る"じゃないです!
「起きてください。」
「もううるさいよ。」
…はっ?
エディシス様が私の頭に手をかけて自分の方に押し付けた。
そして突然私の唇に自分のそれを当てた。
「ん…んんっ…」
ちょっと!エディシス様!!
「ほら黙ったね。ふふっ。おやすみ。」
寝た…。
朝の殿下は要注意だ。
エディシス様より早く起きても、もう起こすのは辞めよう。
私は彼の胸に顔を押し付けて目を閉じた。
二度寝を試みたが殿下の色気にやられてどきどきが止まらなくて
結局寝付かれなかった。
ようやく殿下の目が覚めたのはそれから30分は経ったいました。
「ほらラティア、起きて。」
あなたより先に起きてました!
「もういつもお寝坊さんだね。」
だから!!起きていました!
「あ?そういえば私は何かした?」
「いえ……」
キスした事なんて覚えていないですよね。
「夢だったのか。欲求不満だな。」
は?覚えてるのか?
着替えてスッとたっている姿ははっきり言ってどこから見ても素敵な王子様です。
本当30分前とのギャップが素晴らしい。
私はというと
「目が腫れて化粧がのらない!!」
と、半泣きでぬりぬりと顔を修正していました。
「ラティア、今日はまずはこの近く一帯を取り仕切っているボクツオ子爵と港の近くの家で会うことになっている。」
「わかりました。」
「そのあと少し街に降りようと思う。市場の価格が上がっていないかみたいからね。
私が子爵と話をしている間、少し退屈だろうけど我慢してね。
午後からは街の浄化設備について話し合いがあるからね。」
よかったです。あのままの寝ぼけた状態だったらどうしようかと思いました。
ちゃんと王太子しています。よかったです。
トントンと扉が叩かれた。
「殿下、おはようございます。ハーデスです。起きていますか?」
「ああ、支度もできてる。」
ハーデス様が扉を開けて部屋に入ってきた。
「昨日はよく眠れましたか?」
「大丈夫だ。」
「ラティディア様?何だか悪戦苦闘しているようですが、どうされました?」
「はは・・・少し化粧が決まらなくて。」
泣きはらした顔を隠そうと必死です。
「眠れませんでしたか?」
ハーデス様は少しニヤリとした。
「ぐっすり眠れました!ふかふかのお布団でよかったです。」
「は?」
ハーデス様は殿下の方に顔を向けた。
そしてため息を吐いた。
「って、殿下もぐっすりですか?」
「お前、私を何だと思っている。」
「何のために一緒の部屋にして、隣も空けたんですか…はぁ」
「うるさい!」
・・・期待を裏切って申し訳ありませんでしたね。
とてもいい天気に恵まれた。
今日ずっとエディシス様と一緒について回っていた。
驚くことがあった。
王太子の仕事がすごくたくさんあるということ。
その内容が半端なく広範囲だということ。
いつも執務室であんなにたくさんの書類を処理しているのにも関わらず
ここでも休みなし。かわるがわる人と話をしたり施設を見たり、話をしている。
内容が政治経済土木医療・・・。難しい話ばかりしている。
その話をするのにも当然すべてを理解している必要がある。
どんだけ仕事しているんだ。
そしてどれだけの知識を身に付けていなければならないのだろう。
過労で倒れちゃいそうだ。
国としてどうなん?
やはりそれぞれの方面に知識の豊富な人を立てるべきではないか?
王族に全て押し付けるとか、何なんだ。
とにかく人事をもう少ししっかり見直さなければならない。
ハーデス様にしてももう少し仕事の振り分けについて考えるべきだ。
私はチラリを殿下を見た。
エディシス様は疲れさえ見せない。
どちらかと言うと王子様オーラを常に出している。
ハーデス様もすごい。
私は横で笑っているだけ。
一応秘書的な事はしている。
「ラティア、これを纏めておいて。」
「はい。」
「ラティディア様、この書類のこの部分なんだけど…」
「先程、変更になりましたね。すぐに直します。」
「ああ、ラティア、あの資料は持ってきたかな?」
「お手元にある赤色の表紙の3枚目にあります。」
「ラティア、これどう思う?」
「いいとは思いますが、少し予算を取って、こちらにも…」
「ラティア?疲れていないか?」
「はい。ありがとうございます。」
私のことを気にかけてくれることも忘れない。
王太子って大変なんだ。
ようやく昼ご飯だ。
もう2時過ぎている。
ずっとあんな調子だ。疲れた…。お腹空いた。
甘い物食べたい。
「ああ、ボクツオ子爵殿、甘い物ないかな?」
「気づきませんで・・・。」
ボクツオ子爵様が手を挙げると近くのボーイらしき人が
何やら奥の部屋に行った。
そしてチョコレートの入ったお皿を持ってきてくれた。
私は目がキラキラした。
エディシス様が隣でクスリと笑った。
「ようやくラティアらしくなったね。」
「はい?」
「何やらずっとしかめっ面してたから。忙しくさせてごめんね。」
「いえ、エディシス様に比べたら忙しいなんてことはありません。ただ今後の仕事の割り振りについて考えていただけです。」
「は?」
「だいたいエディシス様に仕事を押し付け過ぎなんです。
今回にしてもきちんと専門の人がついてこなければなりません。報告書を纏めても問題点が後から出てきては二度手間です。」
「は?…はははっ。」
「す、すみません!決してエディシス様が仕事ができないとか言っているのではなく…あ…えっ…あの…」
「ん?」
だからそんな整った綺麗な顔で私をじっと見ないで下さい…。
「だから…エディシス様の負担が少しでも減るように…と思って…それに…」
ゴニョゴニョと最後は声が小さくなった。
エディシス様の仕事が減れば、私と出かけたり、私とゆっくり遊んでくれるかなって考えてしまいました。
「ラティアは私のことを考えてくれてたんだね。何だか嬉しいね。ふふふ」
「あ、いや…主に自分の為…あっ…いえ…」
「ああ、私の休みが増えれば街に行って食べ歩きする時間ができるとか思ってた?」
ビンゴ!!
このところエディシス様もようやく私の性格わかってきましたね。
「エディシスフォード殿下にはハーデス様の他にこんなに頼りになる婚約者様がおいでになったんですね。羨ましいですね。」
「いえ、初めてなのでご迷惑ばかりおかけしてあまりお役に立てなくてすみません。」
「ラティア、謙遜しなくてもいい。君は良くやっているよ。」
「ラティディア様が王太子妃になられるなら安心ですね。」
「ありがとう。私も助かっているんだ。ね、ラティア?」
「ん・・・?」
もしかして外側から埋められてる?
ボクツオ子爵とは昼ごはんを食べたら今日はお別れだ。
仕事は後一つ。あとは私達だけで行動する。
今日最後の仕事は街の教会だ。
「ラティア、教会の修繕費用の見積もり書類だ。着く前に見ておいてくれないか。」
馬車の中でも仕事。
しかしこれが終わればまた美味しい海鮮料理!
がんばりましょうか。
突然馬車が止まった。
ガタンと私は前につんのめった。
「エディシス!!」
ハーデス様が声を上げた。
外で何か物音がする。
「ラティア!君は姿勢を低くして中にいろ!」
馬車の扉をあけてエディシス様は外に出た。




