11話-2 悪役令嬢でしたね。 その2
夕方、仕事も終わり執務室から出ようとした。
しかし結局この間の騒動でラティアを公爵家に帰しそびれていた。
おかげてさっき公爵からぐちぐち嫌味を言われた。
しかしひとまず視察まではこのままだと言い切って逃げてきた。
明日からまた書類が山のようにこの執務室に届けられるような気がした。
まあラティアがいるから何とかなるか。
「ラティア。明日は朝から手伝ってもらえるかな?」
「はい、大丈夫ですが・・・。何かありました?」
「久しぶりに観劇でも見に行かないか?」
「いいんですか?」
嬉しそうにラティアは笑っていた。
仕事がどうなっているか心配だったようで彼女は夕方ひょっこりと執務室に顔を出しにきた。
まだ心配だから仕事はしなくていいと言ったらソファに座ってミィと遊んでいた。
「それではまた夕食の時に詳しくお話しましょう。失礼します。」
ラティディアは部屋から出ていった。
ミィと遊んでいる姿をみても、今の歩き方なんか見てももう大丈夫そうだ。
あの時はどうなるかと思ったがひとまずいつも通りの平穏な日に戻っている。よかった。
しかしそれでも何とか明日で終わりにしたい。
そう明日。どうしてもラティアの返事を聞くんだ。
私の側にいるという約束を取り付けるんだ。
視察までにはなんとかそんな関係を築きたいと思っている。
「ハーデス。あの件だがカーラには伝えてあるか?」
「はい。大丈夫です。ちゃんと伝えました。
いまごろ鼻歌歌いながら掃除していると思うよ。」
「予定通りだな。」
バタバタ
「お待ちください!」
廊下から数人が走る音が聞こえた。
私は不安になってバッと扉を開けた。
もしかしてラティアに何かあったのか?
ラティアが執務室からでてあまり時間がたっていない。
「エディシスフォード殿下!ようやくお会いできました。」
そこには私の顔を見てパアッと顔を明るくしたダリアがいた。
どうも衛兵に追いかけられていたようだ。
「おい衛兵!なぜこの女を入れた!通すなと言っていたはずだぞ。」
ハーデスが隣で大声を上げた。
「すみません・・。少しよそ見をした隙に入られました。
申し訳ありません!」
「まあ王宮内だ。あまり騒ぐな。」
「エディシス。しかし。」
「王宮騎士団長を後で呼び出せ。幾たびにもわたる不法侵入を許しているのは目をつぶるわけにはいけない。それなりの言い訳と対策を用意しておけと言っておけ。」
ひとまずダリアを少し先の庭まで連れて行った。
そして再びダリアと話をした。
もうこの2週間で何回同じことを繰り返しているんだ。
自業自得だがもううんざりしてくる。
何度この会話をループしただろう。
「もう一度言って下さい。」
「何度でもいうが君とは終わったんだ。もう会いに来ないでくれ。」
次は真っ赤になって怒り出す。ほら。
「好きだって言ってくれたじゃないですか?」
「今は全くその気持ちはない。」
「私を王太子妃にしてくれるんじゃないんですか!」
やはりそこなんだ。
何回話してもいつも最後には王太子妃にこだわる。
「君は私が王太子だから好きだったんだろう。もうやめよう。」
ダリアは唇を噛んだ。
「申し訳ないが、君には愛情が持てなくなってしまったんだ。君は私の身分しか見てなかったんだろう。とにかくその話はもう無い。二度と会わない。何度言ったらわかるのか。次王宮に勝手に入ったら不法侵入でとらえるから覚悟しておけ。君にはつらいときに助けてもらった。感謝はしている。しかし無理なんだ。君への愛情はもうない。すまない。」
頭を下げた。
「何よ!私は認めない!あなたは私を好きだって言った。私は諦めない。絶対にあなたと結婚して王太子妃になるんだから!」
何だかいい加減にしてほしくなってきた。
「あまり言いたくはなかった。君はジェイデンにもハーデス、騎士団長の息子なんかに手当たり次第言い寄っていたらしいじゃないか?そんなに地位が大事?誰でもよかったんだよね?」
「そんなことないです。誤解です。」
泣きまねしても涙出てないのだがね。
「王太子妃に執拗にこだわる君にはその地位はあげられないんだ。君に王太子妃は務まらない。君を選ぶことはできない。もう来ないで欲しい。私ももう君とは話すことはない。それじゃあね。」
彼女は親指を噛んで怒りの形相をしていた。
私はもう一度頭を下げて彼女の前を後にした。
ああ、まだ納得してないよな。
明日も来るんだろうか…。
大きくため息をついた。
ひとまず次王宮にいれたら見せしめに一人衛兵を解雇しようか。
納得するまで待っていたら10年以上かかりそうだ。
部屋に帰る途中ジェイデンと偶然会った。
「兄上、お疲れ様です。」
「ああ、お前も終わったか?」
「ようやくゆっくり寝れるよ。」
「ありがとう。結局またお前にはっぱをかけられたな。」
「まああれだけ言えば兄上も切羽詰まるだろう?」
「全く弟に助けられてばかりだな。」
「まあこれ以上は兄上次第だよ。優しい言葉でもかけてそのまま一気に畳み掛けたら?記憶が無い今がチャンスだよ。彼女が逃げられなくなるようにするにはどうすればいいかなんてわかるよね?彼女ならそこから気持ちが寄ってくることもありそうだ。」
…ハーデスと同じ事を言う。
やはりみんな男だな。
※※※
「お嬢様、行ってらっしゃいませ。」
「カーラ、行ってくるわ。」
「すごく楽しそうですね。」
「だって久しぶりに王宮以外に出られるのよ!」
「で、どこに行くんですか?」
「なにやら演劇を見に連れて行ってくれるらしいわ。フフフ」
「王太子殿下は暗闇でなにやら企んでいませんか?」
「はい?やだ。カーラ何言っているの?」
「だって暗闇で二人っきりで。」
カーラの目つきが怖いわ・・・。何を考えているのかわかってしまう。
「先日だって私が邪魔さえしなければ・・・。」
「あれはあれでよかったのよ。」
私はエディシスフォード殿下と二人、いや隣にちゃんとハーデス様が控えていました。
楽しく演劇を鑑賞しました。
いくらハーデス様がいると言っても隣の至近距離にエディシスフォード殿下が座っていると思うとさっきのカーラの言葉が頭の中でぐるぐるして少し顔は赤かったかもしれない。
見ている間もどきどき胸が鳴っていた。
しかし何事もなく無事に戻ってきてすぐに夕食になった。
良かったです。
いつものように二人向かいあう席に座り料理が並べられた
「ラティア、今日は楽しかったかい?」
「はい。ありがとうございます。」
「このごろラティアのおかげで仕事のペースが速くなったからまた時間があれば行こう。」
「はい。」
目の前にいつものように料理が並べられている。
つやつやに輝くお肉に美味しそうなソースがとろりとかかっている。
隣の魚料理はレモンが添えられている。
スープはクリームスープだ。
そのなめらかに光る表面にはクルトンと鮮やかな葉がちょこんと乗っている。
しかし私は未だにどきどきしていた。
さっきカーラに
「あら?残念ですね。何もなかったのですか?
てっきり一緒にお出かけになったので何か仕掛けてくるかと思いました。
じゃあ楽しみはこれからですね。ふふふっ」
って興味深々の目つきで言われた。
カーラの言葉を聞いたらエディシスフォード殿下の顔をまともに見れない。
これからって何?楽しみって何!単に夕食を食べるだけだから!
チラリと上目遣いで彼をみた。
目があった。二人同時にバッと目を背けた。
「ジェイデンが余計なことを言うから・・・。」
「カーラが余計なことを言うなら…」
どきどきして食事どころじゃなかった。
なぜか殿下の顔ばかり気になる。
ふっと殿下が笑った。
げ!!気づかれた??
「ラティア」
「はい!!」
手に持っていたフォークとナイフを置いて殿下に勢いよく返事をした。
「どうした?何か変だ。」
「いえ、いつも通りです。」
「だって私の顔ばかりみているから。何かついているか?」
「いえ。」
違うって!決して殿下のことを意識しているわけではありません!
多分・・・!
何とか夕食が終わった。地獄だった。
とにかくあまり気にしないようにしなきゃ。
スッと私の隣にエディシスフォード殿下がきて椅子を引いてくれた。
「え?」
「ほら、部屋まで送るよ。」
今までそんなことしたことないのに。何?
手を出されてエスコートされてるわ。
でもこの手をとらないと不敬罪で訴えられそう。
おそるおそる殿下の手に自分のものを重ねる。
顔が熱くなる。絶対に私赤くなっているよね。
殿下の顔が見れない・・・。
2、3歩進んだところで殿下が足を止めた。
そして
「ラティア・・。」
優しく甘い声が耳で囁かれた。
「なんかすごく体に力はいってない?」
ばれた!!
私は真っ赤になって視線を外して扉をみた。早くあそこまで行かないと!
早く部屋に戻りたい!
「よかった。意識はされているんだ・・。」
扉の前にはハーデス様とカーラが何やら二人で話しをしていた。
扉があいた。よし!あとはあの扉をくくるだけだ。
しかしハーデス様とカーラは頭を下げて、二人して手をフリフリ振って扉からでていった。
「あ、カーラ!」
そして私の追いかけて出された手もむなしくぱたんと扉が閉まった。
「ハーデスの奴・・・。」
頭の上でエディシス殿下がなにやら怒りのこもった声で言った。
「エディシスフォード殿下、私たちも戻りましょうか?」
「あ、いや。少し散歩でもしないか?」
こんな気持ちの時に誘わないでください!
って庭園ですか?
殿下?季節分かっていますか?冬ですよ?




