11話-1 悪役令嬢でしたね。その1
「で、大丈夫なの?」
ジェイデン様が心配そうに見た。
次の日は天気もよかったし体調もかなり戻っていたので
散歩がてらジェイデン様の実験室に来ていた。
さすがのジェイデン様も今日はメロンコーラは出さなかった。
あまり食べていない胃にはソーダはきついですからね。
「今朝は少し量は少ないけどちゃんと食べたわ。」
「それならよかった。もう心配したよ。」
「ごめんなさい。」
「しかし結果どうなったのか一応聞いてみるよ。」
「勝手に考えて、勝手に落ち込んで、勝手に騒いでいただけだから…聞かないで欲しい。」
「じゃあやめておくよ。」
珍しくジェイデン様がメロンコーラ以外の飲み物を出してくれた。
しかし…
「何?この色は?」
出された者は湯気が出ていた。
若草色の何かとミルクがきれいに渦を巻いていた。
「マッチャだよ。」
「は?何それ?また変な名前と色の飲み物作ったわね。」
「まあ、騙されたと思って飲んでみな。」
私は覚悟を決めて鼻を摘んで飲んだ。
そんな私の姿をジェイデン様は笑っていた。
「あら?甘くて苦くて美味しい。」
「だろ?」
「やだ、ジェイデン様ってたまに良いものを作るのね。」
「たまに…とか失礼だろう。」
「本当のことじゃない。たまによ。暖かくで滑らかでクリーミー。美味しい。」
「君は好きだったよね。」
「何かいいました?」
「あ、いや。何も。」
私は冷えた手をカップに当ててゆっくり飲んだ。
少し日が傾いてきた。
窓から入ってくる風が冷たい。
「これからどうするんだ?」
突然核心をついた質問をされた。
「ジェイデン様はわかっていたんですか?私が悪く振る舞っていたこと。」
「ああ。」
「もう割と人が悪いんだ。」
「いや、わりと面白く見せてもらってたよ。」
「あなただけだったわ。驚かずに私の心配してくれたのは。」
「あはは、あの時の兄上は楽しかったよ。」
「あなたがいなかったら私は記憶を無くしたことをずっと引きずっていたと思う。しかしあなただけは5年間の私を見ていてくれた。いつも5年間の私を否定しなかった。ありがとうございます。」
「素直すぎて怖いな。」
「人が感謝してるのにひどい。」
「ごめん、ごめん。で、兄上とやり直すの?」
私は少し下を向いた。
「わからない。」
「まあ、弟から言うのも何だけどあの人は割と手がかかるよ。ダリア嬢の事もまだ片付いていないんだろ?」
「でもね…私が悪いかったんだから仕方ないわ。
だって私は素晴らしい役者だったみたいだからね。」
「そうだな。まあ、ゆっくり考えたらいい。」
「でも一つだけ気にかかることがあるの・・・。」」
あまりジェイデン様は突っ込んで聞かない。
彼の本心をあまり聞いたことはない。
彼はメロンコーラを一口飲んだ。
小さな窓から入ってくる光が棚に当たっていた。
その棚の上には先日の指輪の入っていた箱があった。
まだ、渡してないのかしら?
でもあそこだけホコリがない。
つい最近触ったのかしら?
「これを見て欲しいの。」
「え?それは?」
私はペンダントを外してジェイデン様に渡した。
「二日前は確かにもう少し白かったの。
でも今はどこから見ても黄色なの。たまに光るんだけど…。」
ジェイデン様の手に置いた瞬間黄色の光が強くなった。
「えっ?」
でも一瞬だった。
すぐに元の黄色に変わった。
「…き…ん?」
何やらジェイデン様がつぶやくとまた一瞬光る。
ジェイデン様が笑う。
「ありがとう。本当に不思議な石だね。
またしばらく着けているといいよ。」
「ねぇ、この石何かわかる?」
「シトリンかな?」
「何?それは。」
「ラティは何月生まれ?」
「11月よ。」
「じゃあ大丈夫だ。それは11月の誕生石なんだ。
それをつけていると幸せになれるんだよ。」
「ふーん。あまり聞いたことない石ね。
もしかして時間とともに色が変わるの?」
「時間じゃないな。その人の幸福度なのかな?」
「はっ?」
たまにジェイデン様は訳のわからないことを言う。
更に彼は窓の外見ていた。
かと思っていたら視線を棚に移した。
あの箱だ。
彼は懐かしそうに、そして嬉しそうにそれを見ていた。
エディシスフォード殿下は見ていてわかりやすいくらい顔に出る。
しかしジェイデン様は全くつかめない。
私はもう一度棚の上の箱を見た。
あの箱の中の指輪はなんなのかしら?
誰のものなのかしら?
ふと隣にある時計に気づいた。
「あ、もう夕食になるわ。帰らなきゃ。エディシスフォード殿下が先に来てしまう。」
「夕食って・・・あまり食べすぎるなよ。昨日は倒れていたんだから。」
「ありがとう。でも大丈夫。」
「胃薬持っていくか?」
私はあのまずいくて苦い味を思い出した。
「いえ、いいわ・・・。それじゃあ、また明日くるわね。」
「ああ。」
私は中庭を少し小走りしながら考えていた。
どうしてもこのペンダントとアネモネのしおりの件を解決しないといけない。そうしないとエディシスフォード殿下に対して申し訳ない。
もしかして私に殿下ではない他に好きな人がいたのなら私が裏切ったことになる。
そんな状態で殿下に応えることはできない。
※※
棚の上の箱を開けた。
リングだけの指輪が入っている。
しばらく眺めた後
俺は静かに箱を閉じた。
「もう少しだね。大丈夫間に合うよ。」




