10話-4 婚約破棄はしない。 その4
「さすがラティディア様の侍女だ。一字一句間違ってないね。
ねっ、エディシス?」
エディシスフォード殿下とハーデス様がドアの前に立っていた。
殿下は手を口にあてて顔を真っ赤にしていた。
「いくらノックしても出ないから…」
「いつからいました?」
「…ついさっきだ…」
「舞台のような歯の浮くようなセリフだってさ。気の毒な王太子殿下様。」
さっきじゃなくない?
「エディシスフォード殿下」
私はすぐに立とうと思ったが
「ああ、座ったままでいい。まだ心配だ。」
「すみません…」
「あの…今カーラが言ったことは?」
「…本当ですよね…殿下。ふふふ」
「カーラ!!余計なことをラティアに言うな!」
「お邪魔虫は去りますね。さあさあハーデス様も一緒に行きましょうね。
ほらほら。ごゆっくり。」
「カーラさん!あっ…すみません…」
「ああ、いや…もう大丈夫か?」
「あ、はい。申し訳ありませんでした…」
「お前はいつも謝ってばかりだな。」
「あ、いえ…申し訳…」
「ほら。」
「本当だ…ふふふ」
「ようやく笑ったな。よかった。」
エディシスフォード殿下は優しく笑った。
「座っていいか?」
そう言って殿下は私のソファーの向かいに座った。
何だかあんなことを聞いた後だから落ち着かない。
カーラさんたらせめてお茶くらい用意してくれていって欲しかったわ。
この雰囲気耐えられない。
「「あの…」」
「あ、いえ…殿下…先に…」
「あ、ラティアからでいいよ。」
「殿下からで…」
「まあ、いいか。」
あら?いつから私、ラティアって呼ばれていた?
殿下が頭を下げた。
「えっ!何?」
「すまなかった…。私が浅はかだったんだ。
申し訳なかった。」
「あら?殿下も謝ってばかりなのですが…」
「そうか…。じゃあお願いだ。」
「はい。」
「私の話を聞いて欲しい。そしてまたいつものようにしてくれないか?」
何かはにかんで横を向きながらすこし頬を赤くしたエディシスフォード殿下がおかしくて笑ってしまった。
「はい、わかりました。」
なんか二人で笑ってしまった。
エディシスフォード殿下はダリア様とは別れたということ。
しかしなかなか納得してくれなくて困っていること。
今までのことはすべて自分が愚かだったから許して欲しいと言った。
そして
「ラティア・・君は覚えていないようだからもう一度言っておく。
あまり何度も言いたくはないのだが・・・。恥ずかしいからな・・・。」
「え?さっきの歯の浮くようセリフですか?」
「本当にいつもだけど雰囲気を壊したいの?」
・・・ばれました・・・。
「ラティア、勝手だと思うかもしれないがお願いだ。私と一緒にいてくれないか?私の側にいてくれないか?どうか私の手を取ってくれないか・・・?」
ちょっと待って?さっきのカーラの話は本当なの?
何で私は殿下にこんな状況でこんな言葉をかけられているの?
だって婚約破棄するように仕向けたのは私じゃない。勝手って・・・勝手なのは私の方だ。
「突然こんなこと言われても戸惑うのはわかる。でも考えて欲しいんだ。」
「ちが・・違う。私が悪かったのだから殿下は謝る必要はない・・。
私が殿下との・・・」
「知っている。君が私と婚約破棄をしたがっていたのを・・・。」
「え?」
知っている?今知っていると言わなかった?じゃあ!
「じゃあ!何で私が婚約を破棄したかったのかはご存じなのですか?お父様に何が起こるんですか!」
「え?宰相に?何?」
今度は殿下の方が驚いていた。
「あ、いや?記憶が戻ったのか?」
私は首を横に振った。
「あ、いえ。カーラさんが知っていました。私がそうなるように演じていたと・・・。」
私はエディシスフォード殿下にカーラさんから聞いたお父様の事を話した。
「宰相が爵位を剥奪される?何で?」
「私にもわかりません・・・。何でそんなことを私が知っていたのかさえ思い出せません。」
「記憶を失くす前の君だけが知っているということか?」
殿下も私もしばらく考え込んでしまった。
「とにかく公爵に関しては少し監視をつけて置こう。
君を家に帰さないから何か仕掛けてくれかもしれないね。
結局今回の件で返しそびれてしまったし。」
「いえ・・そんなことでは・・」
「冗談だよ。まあ少し様子を見よう。
しかしこれで公爵の問題が無くなれば君は私との婚約を解消する必要はないわけだ。」
「あれっ?そういうことになりますね。でも・・。」
私に好きな人がいた説はまだ解決していません。
しかし記憶無くしてしまって手がかりが全くないのでどうしようか。
そんなことを考えていたら殿下が話しかけてきた。
「じゃあ悪い子を演じる必要もないわけだ。」
「そうですよね??」
思わず返事をしてしまった。
「じゃあ、もう一度聞こうか?」
ちょっと待て!さっきより距離近くないか?
殿下の顔が目の前にある。
そんな色気出した美しい顔を私に向けないでください。
すっと殿下が私の手を取った。
「ラティア、もう雰囲気壊すようなことはしないで」
無理です!耐えられません!
この状況・・・これ以上殿下の顔を見るのは無理です。
そんな状態でお願いしないでください。強制しないでください。
手も手も限界です!
「ラティア?それなら君は私と一緒になってくれるんだよね?もう一度考えてみてくれないか?」
「え・・卑怯です!こんな近いところでそんな顔して言われたら断れません!」
「断れないようにしているんだけど?」
嫌!そんなところでさらに色気を増さないでください。
殿下は私の手を引き寄せてその甲に口づけを落とした。
私はもうMaxです。これ以上の興奮度はありません。
頭がボンボンして壊れそうです。
「考えます!考えますから離れてください。」
「ん・・・やっぱり考えなくてもいいや。ここで答えて。」
更に殿下が私の手を両手で握りしめてきた。
詰んだ…。
バタン!
「お嬢様すみません!王太子殿下がいらっしゃるのに私ったらお茶の用意するのを忘れていました。・・・って、あっ、いえ、はい!申し訳ありません!!!お邪魔しました!!」
隣同士に座る男女。男は女の手を両手で握りしめて口に近づけてる。
どこから見ても・・・
「カーラ!違うったら!嫌!カーラ!!!殿下に紅茶をお出しして!!!」
殿下は大笑いしていた。
でも、こんな感じが何かいいなって思った。