1話-2 悪役令嬢演じます その2
そんな日常を過ごしながら
たまには街にでかけて羽を伸ばしています。
悪役令嬢は疲れます。
この世界、魔法が使えるので髪の色を茶色に変えて髪を一つに束ねてダサい服を着れば全然私だとはわかりません。
街に出てお父様が捕まってしまった後にしばらくお母様と弟とお世話になる修道院に遊びにいっています。
「ティア!今日も来たの?この頃よく来るね。」
と、声をかけてきたのはこの修道院に食材を届けに来る近くの食品を扱うお店の息子フロスだ。
緑の髪に金色の瞳をした私と同じくらいの年だと思う。
「あら、今日は少し遅いのね。」
「あのね。俺だって暇じゃないんだよ!いろいろ忙しいんだよ。」
「あら?デート??かわいい子でも捕まえたのかした?」
「ああ、まあ・・」
「あらやだ。当たりなの?よかったわ。
全然女の子の影なかったから神父さんと心配していたのよ。」
「俺だって女の子の一人や二人よってくるんだ!モテるんだぞ!」
「モテる?あらよかったわ。じゃあこの果物も持てるわね。よろしくね。」
「あ!ティア。ちょっと乗せんなよ!重心がずれるだろう。」
フロスが両手で運んでいる大きな箱の上に果物が入っている袋を乗せた。
フロスとは3年くらい前にここで会った。
割となんでもいいあえて彼といるのは楽しかった。
何だか翔といるみたいだった。
気兼ねなく話せる親友みたいな存在だった。
でもあと数か月でお別れなんだ。
だって婚約解消が言い渡される卒業式はもう5か月後に迫っている。
「そうだ。ティア、プレゼントがあるんだ。」
「あら?デートの彼女はいいの?」
「いいんだよ。」
「もう振られたの?」
「ちげぇし!!!」
「ほらよ。」
「あ?きれい。」
「何か綺麗だろ?前に市場で見かけたんだ。似合いそうだから。」
三日月の形をしたペンダントだ。
真ん中には白色?少し傾けると黄色に見える石がはまっていた。
ムーンストーンみたいだ。なんかうれしい。
それに三日月って前世ですごく好きだった。
だって私の前世の名前に似ている。
「大事にする!!ねえつけて!!」
フロスは私につけてくれた。
「似合う?」
「似合う、似合う。さすが俺、センスいい。」
「ありがとう!あら??」
「何だ?」
「何か魔法?がかかってる?」
「そうか?俺には何も感じないが…。」
「まさか呪いなんてかけてないでしょうね??」
「ないない!!」
隣国に行くときはこれだけは持っていこう。
まあ高そうでもないし取り上げられることもなさそうだ。
私のお守りにする。
私はギュッとペンダントを握った。
「ありがとう…フロス。ずっとつけておく…」
私はフロスに手を振って帰途についた。
彼は私が逃げてこの修道院に来た時驚くかな・・。
私はこの国から逃げるの。
「ごめんね。フロス。」
翌日も悪役令嬢ラティディアを完璧に演じている。
自分で酔っているかもしれない。
この演技ももう終われるかと思うとほっとするがさみしい気もする。
割と適役かしら。
「だから、ダリア様、何度も申し上げていてよ。
何をしても手が遅いのですね。あなたのせいで迷惑しています。いつまでかかっているのですか。いい加減にしてください」
図書館に入ってきた新しい本を並べるのにかなり時間がかかってしまっている。
私とヒロインのダリア様は同じ図書委員だ。
初めから仕事の量は3対1と私の方が多くしてあったのに私が終わってもまだ彼女は終わっていなかった。
「申し訳ありません。でもこんなにたくさんの本を分類して棚にいれるのには時間がかかります。
私はがんばっているのですが。」
「がんばっていても結果がついてこないとどうしようもありません。」
私は前世図書司書だった。
だから得意分野です。
「わたくしの分は終わりました。あなたは残って自分の分をやってください。」
私はくるりと反対を向き帰ろうとした。
私は早く帰って今日入ったばかりの本を借りて読みたいの!
「ラティディア!またきつく言っているのか?」
さあ登場しましたね。
第一王子 エディシスフォード殿下。
流れる金色の髪にこげ茶の瞳。きらきら王子様が颯爽と現れました。
やだやだ正義のヒーロー気分でしょうか?
「エディシスフォード殿下・・・そうなんです。ラティディア様は私にほとんどの本を押し付けて・・・。」
いやいや嘘はいけないわよ。あなたの倍以上はやりましたよね。
まあ悪役令嬢演技中なので否定はしませんけどね。
それにあなたの分、全く減っていないわよね。
「それではその半分は私がやりますので残りはお願いします。」
私は彼女の分から本を半分持った。
一番上にある表紙を見た。
やった!!この本も読みたかったのよね。
本棚に入れる前に借りちゃおうか?
でもさっき本棚に並べた本も読みたい!
両方借りちゃう?
ダリア様の分は殿下が手伝っている。
私は見えないところにスッと隠れてパラパラと今日私の手元に来てくれるだろう本を見た。
「かわいい挿絵。やだ。早く読みたい。
はやく片付けてはやく帰らなきゃ!」
私は早送りのようにサササッと本を分類してきちんと棚に入れてあの二人に見つからないように
貸出票に記載して本を2冊大事に抱きしめて図書室を出た。
「早く帰らなきゃ!」
「ラティディア!」
げっ!!殿下。見つかった??
うまく隠れて見えないように図書室を出たと思っていたんだけどな。
「何ですの?私の仕事は終わりましたので帰らせていただくだけです。」
あ、手に持ってる本は悪役令嬢には似合わないかわいい童話だったわ。
あわてて本を後ろに隠した。
「確かに終わったようだな。でもまだダリアはやっているんだぞ。終わるまで待ってやったらどうだ。分からないところがあるかもしれないだろ。」
「私は私に与えられた仕事はちゃんとやりました。それにダリア様の半分を私はお手伝いしたはずですが?エディシスフォード殿下も見ていたでしょう?申し訳ありませんが私は仕事が終わりましたので失礼します。」
「本当にかわいくない女だ。」
べ~!あなたに可愛いとは思われたくないです。
私は栄さん、あ、前世の旦那様ね。
あの人だけに可愛いと思われていれば生きていられんです。
あなたはお呼びではありません。
願わくは未来で結婚する隣国の辺境伯の方が栄さんのように優しければ嬉しいです。
「おい!」
「まだ何か用ですか?」
「週末陛下が話があるようだ。王宮にきて欲しいそうだ。
私は伝えたからな。」
「わかりました。午前中に伺いますとお伝えください。」
はいはい。わかりました。
じゃあね。さっさとかわいい恋人の相手でもしてきてください。