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9話-1 悪役令嬢は夢を見てはダメです。その1

私はジェイデン様の実験室に行くためにカーラさんと共に中庭を抜けていた。

あまり人に会わないようにする為には中庭が一番よかった。

明後日に家に帰るのでジェイデン様にも挨拶をしておきたかった。


「お嬢様はジェイデン殿下とは仲がよろしいのですね?」

「記憶がなくなってからは友達もいないし。暇だし。あの実験室は、毎日いろいろなことがあって面白いの。ジェイデン様も割と話しやすいし。」

「そうですね。割と気さくな方ですね。」

「しかし毎日メロンコーラは飽きるわね。」

「あまり気を使われてないんですね…というかジェイデン殿下は女の子の扱い方が雑じゃないですか!」

「まあ、そこが気軽でいいのよ。」

「今のお嬢様はジェイデン殿下の事が好きなんですか?」

「ん…そんなんじゃないかも。気の合う友達って感じかな?」

「じゃあやっぱり王太子殿下ですよね?」


カーラさん・・・どうしてそこに行く・・・。


ジェイデン様か…そう、あまり恋愛感情的な気にはならなかった。どちらかというと友達って感じだ。

確かに笑顔は可愛いとは思うが、

エディシスフォード殿下の笑顔を見た時の胸の高鳴りほどには感じない。


「明後日帰るのか。」

「はい。いろいろありがとうございました。」

「結局記憶は戻らなかったけど大丈夫?」

「はい。大丈夫です。だいたいの知識は頭に入れましたから。」

「よく兄上が許したな。」

「だってこれ以上仕事を増やされてはたまりませんからね。」

「だな。宰相も意外と楽しい人だったな。そろそろ兄上も限界だ。」

「あ、でも最近はすこし要領よくなりましたよ。

初めは一つの書類を穴が開くまで隅から隅まで見ていたので時間がかかっていましたがこの頃は短くなりました。」

「そこは君がちゃんとわかるようにしてくれているからだろ。」

そういわれると嬉しい。


今日も私の目の前にはメロンコーラがある。

まあ気を利かせて王子自らコップに注いで出してくれるんだからいいでしょう。

私はコップを両手で持って念じた。

カランとコップの中に氷が出てきた。


「だいぶ簡単に使えるようになったね。」

「いろいろ教えていただきましたから。」

「合格点だな。」

「ありがとうございます、先生。ふふふっ。」


私はカラカラとコップを回した。

何だかこんな感じいいな。それなりに記憶が無くてもやっていけそう。


「で、これからどうするの?」

「ひとまず学園に戻って卒業して・・・」

「兄上とはどうするの?」

「私は・・・エディシスフォード殿下とは一緒にいてはいけないんです。」

「そうか・・・。そうなるのか。」

「はい?」

「じゃあ俺のとこに来る?」

「へっ?」

まさかの攻撃にメロンコーラを吹き出しそうだった。

間一髪セーフ。

「割と俺って有りじゃない?」

自分で言うのか!

無しではないかもしれない。

少し上目使いでジェイデン様を見た。

人懐っこい笑顔、話していても楽しい。

確かにエディシスフォード殿下より気を使わなくていい。

有りかも…?


「まだエディシスフォード殿下には何も言われていないのに

第二王子とどうだこうだなんてありえません。訳あり物件になってお嫁にいけないじゃない!」

「本当、揶揄うと面白いね。はははっ」


は?揶揄われた…。


「まあ、兄上とどうかなったら考えといて。」

「もう!考えません!!」


ジェイデン様は笑っていたがこれ以上は何も言わなかった。


私はジェイデン様の実験室を後にした。

そうだ。私はエディシスフォード殿下と一緒にいてはいけない。

仕方ないんだ。切り替えよう。

とにかくこのわけのわからない感情にとらわれることは無くなるはずだ。

でもぽっかり心に穴が開いたように感じる。


今日で終わりなんだ。

だって今日、私は婚約破棄を言い渡される。

もう私の居場所はここには無くなるのだ。


この気持ちは何なんだろう。

苦しい…。何だかモヤモヤする。

私は立ち止まって胸を押さえた。


「お嬢様!!どうかされましたか?

胸が痛いんですか?」

カーラさんが心配そうに体を支えてくれた。


「大・・・大丈夫・・・。」

「お嬢様・・・しかし。」

「どうしよう・・・カーラさん・・・私どうしたらいい?」


私はどんな顔をしている。

多分この世で一番情けない顔にちがいない。


「お嬢様・・・。」

「私が婚約破棄するように仕向けたのに、そうなるようにしたのは私なのに・・・何でこんなに悲しいの・・」

「お嬢様・・申し訳ありません。私が・・・私はやはり言うべきではなかったんです。申し訳ありません!」


認めたくなかったことだけど私はエディシスフォード殿下と一緒にいたいと思っている。


まだ言われない婚約破棄。

陛下の前では私と結婚すると言った。

いつも笑ってくれる。

優しくしてくれる。

もしかしたらこのまま彼といれるかもしれないなんて考えていた。


しかしそれは何て自分勝手な考えなんだ。

自分の思うようにしてきた。

嫌われるように悪役令嬢を演じた。

殿下は私を嫌い、ダリアさんを好きになった。

私がそう仕向けたんだ。

万々歳じゃない。


記憶を失くしたからやっぱり殿下といたいとかありえない。

私の中で5年間の記憶は無くなっても、5年間は無くならない。

その間に私は彼と一緒にいる資格を失くしていたんだ。


それなのに私はエディシスフォード殿下の側にいたいと思っている。


やっぱり私はわがままな子なんだ。

悪い子だ。

涙が止まらなく流れている。


「お嬢様・・・。」

「ふっ・・嫌だ・・・私は何をしていたんだ・・・。」

何で私は婚約破棄を選んだ?

お父様を止めることを考えなかったの・・・。

失くした私は何を考えていたの?

私は・・・。


ふと中庭の遠くを見た。

遠くのベンチに金色の髪と、ピンクの髪をした人が座っていた。何やら話をしている。


遠くても分かる。

エディシスフォード殿下とダリア様だ。


二人はお互いの顔を見ている。

そうだ。二人は恋人同士なんだ。

会っていても不思議ではない。

むしろそれが当然なんだ。


勘違いしていた私がバカだった。

私が記憶喪失になったから殿下は同情して優しくしてくれていただけなんだ。


私に向ける彼の優しい笑顔は偽り・・・。

彼はダリア様が好きなんだ。

私に用はない。私に対して愛情なんかないんだ。

彼が私に笑ってくれるはずはなかった。

優しくしてくれるはずなんかない。


私は婚約者という必要ない肩書をもった邪魔者。


そうよね。

私は婚約破棄されるんだ。

私は殿下に嫌われているんだ。

殿下はダリア様が好きなんだ。私なんてただの嫌な女。

エディシスフォード殿下が好きだとか何でふわふわ夢みたいなこと考えていたんだ。


胸が痛い・・・。苦しい・・・。

バカだ。何で泣けるの?


婚約破棄を望んでいたのは私。

そのように仕向けたのも私。


殿下は騙されただけ。

悪いのは私。


「王太子殿下??あっ、えっ?お嬢様・・、お嬢様!」


カーラさんが私を呼んだ。

私は構わず走り出していた。


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