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5話-4 記憶喪失でもがんばりましょうか。その4

図書館に入ると古い紙の臭いがたちこめる。

息を大きく吸った。

すごくこの雰囲気好きだ。落ち着く。


私はすすすっと通路を歩いた。

綺麗な背表紙の色が神秘的だ。

題名が私を読んで!と呼んでいるみたいだ。

ふふふっ。時間があればみんな読んであげたいところです。

しばらく私は高い天井を見てこの雰囲気を堪能した。


その後机にこの国の歴史書や地理の本を積み上げた。

気が滅入っていたから没頭できるものがあってよかった。


「私は一体どんな子だったんだろう。

本当にみんなに嫌われていそうだわ。

あとからカーラさんに聞きましょう!」


それから何とか本を読んでいた。

どうもある程度知識はあるようだ。

体?頭は覚えているようだ。

やっぱり忘れているのは自分自身、自分の周りの状況だけだ。


5年間・・・なぜ5年間だけない。

2回の爆発によって消された5年の記憶。


私は首をブンブン振った。

記憶を探し出そうとすると頭が痛くなる。

考えすぎだ。

記憶が戻らなければどうなるのだろう。

このまま日常に戻らなければならない。

今の自分は受け入れてもらえるのだろうか?

エディシスフォード殿下や周りの人の言動から読み取れるくらいのわずかな情報しかない。

私は嫌われていた。

それは嫌われるようにしていたからだ。

カーラさんに聞かなくてはならない。

なぜ私が婚約破棄をしたかったのか。

あの赤いアネモネのしおり・・・

このペンダント・・・。好きな人がいた?


ちなみにカーラさんは図書館に入ることはできない。

外で待ってくれている。


まだ手をつけてない本が積み上がっていた。


「ラティディア嬢?大丈夫?」

突然横から声をかけられた。

「ジェイデン殿下!」

私は席を立って頭を下げた。

「いいよ。堅苦しくしなくてって言ったよね?」

「すみません。」

「すごい量の本が積みあがっているね。…何か思い出した?」


私は首を横に振った。

「そうか…。まあゆっくり行こうよ。焦らなくてもいいよ。」

「そうですね・・・。5年間にあった出来事はほとんど覚えていませんでした。

しかし昨日も言ったように一応勉強面はだいたい覚えていました。

新聞記事などを読んで5年間の国の状況を追ってみようと思っています。」

「さすがに君は努力家だね。」

「努力家?以前の私の事を知っているんですか?」

「まあ同じクラスだったからね。今日は実験室に来る?」

「そのつもりだけど、お邪魔かしら?」

「お昼過ぎからは2時間くらい街に出掛けるからそのあとならいいよ。」

「ありがとうございます。私も服屋さんがお見えになるようですのでそれが終わったらハーデス様が勉強を見てくれるようです。お時間があればぜひ伺わせていただきます。」

「今日は君らしい格好でいいね。」


君らしい・・・?昨日の勉強のことといい、ジェイデン殿下は私のことをよく知っているようだ。

私は少し首を傾げた。


私は読みたい本を貸してもらい図書館を後にした。

ちなみに貸し出してもらったたくさんの本は後から部屋に届けていただけるそうです。

宅配サービスです。


お昼ご飯を食べ終えてから服屋さんがきたので1着だけ服を選んだ。

カーラさんは公爵家に物を取りに行くと言っていなかった。

せっかく聞こうと思ったのに。


ハーデス様はお仕事が溜まっているので私の勉強を見てくれるのは夕方になるそうです。

その間に約束通りにジェイデン殿下の小屋…あ、いや本人曰く実験室に行った。


私が行くとジェイデン殿下は何やら難しそうな顔をしていた。

「どうされました?」

「あと一息なんだけれども何が足りないのかな?

今も街で薬草を買ってきたんだけどな。」


そんなことをぶつぶついいながら机の上を片付けて、いや載っているものを隅に追いやって

何やら怪しい緑の飲み物を出した。

昨日ジェイデン殿下が一気飲みしていたものだ。

私はコップをそそそっと遠ざけた。

「はははっ。大丈夫だよ。それ、美味しいよ。

見た目はちょっと…だけどね。ほら。」

目の前でジェイデン殿下はゴクリと飲んだ。

確かに昨日も飲んでいたわよね…。

大丈夫そう?

私もおそるおそる飲んだが口の中でシュワシュワはじける。


「あのソーダと言うものですね!色は黒っぽい緑で見た目は悪いですがおいしいです!」

何か初めて飲んだ気がしなかった。

「本当に美味しい!」

「だって君好きだったんだよ。」

確かにこの味好き。ん?

「え?好きだった?」

ジェイデン殿下は少し手を止めた。

「だって学園でも飲んでいただろう?」

何やら慌てているようだった。


少し聞いてみようと思った。


「あの・・・ジェイデン殿下は私の無くした5年間を知っているようですが私はどんな子だったんですか?」

「俺が知っている君は君じゃなかったんだ。気にしなくていいんだ。」

「は?」


なんだ?どういうこと?

ジェイデン殿下はいつも抽象的に話す。

もしかして言いたくないくらい私ってひどかったの?

ますます顔が横に傾いた。


「今度は何を作っていらっしゃったんですか?」

「ああ、薬だよ。少し厄介な病気がはやっていてね。」

「ジェイデン殿下は薬屋さんなのですか?」

「薬屋?まあ簡単に言えばそういうことになるかな。」

「今日はジェイデン殿下の仕事を見ていていいですか?

薬が早くできないと困る方がいるんですよね。」

「ありがとう。」


私はジェイデン殿下が仕事をしている間隣で本を読んでいた。

何だかこの場所は心地いい。

小さな窓からは光が入ってくる。

まあ周りに何もないから日当たりは抜群。

時折風が草木の匂いを運んでくる。

落ち着いた木の香りがする。

なにより棚を見ると本が並べられている。

昨日私が整理したものだ。

ん?

「ジェイデン殿下!また本を読みっぱなしにしていますね。ちゃんと片づけてください。」

「はいはい。もうラティディア嬢は私のお母さんになったのか?」


もうっと怒りながら本を戻していた。

ジェイデン殿下はぶつぶつ独り言を言っていた。

考えだすと仕方ないのかもしれない。

あの人達もそうだった。


あらっ…?あの人達??誰のことだろう?

あのアネモネの人かしら?

何かふっとそう思ったが、何だろう。


と、考えていたらジェイデン殿下が椅子に深く座り直して大きくため息を吐いた。


「できました?」

「何かが足りないんだよな。」

私は隣から少し覗いた。


「少しランガイの実の分量を減らしたらいかがですか?確かその実とシーラグの葉の相性はあまりよくありませんよ。」

「しかしランガイの実を減らせば効果が減ってしまう。」

「そうですか・・・。」

私はささっと本を探しに行った。薬草の本だ。

「じゃあシーラグの葉の代わりにこのヨギラの葉をつかったらどうですか?

これなら相性はいいはずです。」

「そうか!ありがとう。さすがだね。

ラティディア嬢・・あ、いやラティでいいか?」


何だか愛称呼びされたのがうれしかった。

今までの距離が少し近づいたようだった。

5年間の記憶が無くなってしまった私には友達の記憶もなくなっていた。

だから私のお友達第1号です。


「はい!その呼び方とてもうれしいです!」

「まあ俺も殿下はやめてもらえると嬉しいな。ジェイでいいよ。」


「無理です。第一王子の婚約者なのに第二王子を愛称呼びなんてしたらまた、周りが何と言うか。私の評価下げさせる気ですか!」

「もう地べた這いつくばっていると思うよ。気にしないでもいいよ。」

「這いつくばっているんですか?それでも私は気にします!」

「せめて殿下呼びはやめよう。」

「んーー!」


やはりジェイデン殿下といるのは楽だ。

「記憶なくす前、私はジェイデン殿下と話したことありました?」

「挨拶程度かな?」

「こんなに話したことはなかったってことですか。

なんか話しやすいのですが…」

「まあ、記憶を失くして悪いことばかりじゃないってこと。」


そう、記憶を無くさなかったらジェイデン殿下とこんなに話せなかった。いいこともあるわね。


記憶をなくして下を向いていても仕方ない。

失くしたものを探しているより今を見よう。

そう、記憶なくなっても明日は来るから自分なりに

頑張っていかなきゃ。

前向こう!


「ジェイデン様、ありがとうございます。」




お読みいただきありがとうございます。


5話終わりです。

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