4話-3 婚約破棄を希望していましたが。その3
エディシスさん視点続きます。
「あの、エディシスフォード殿下。」
「何だ?」
ラティディアと夕食を食べている。
あのジェイデンの言葉であの後全く仕事は出来なかった。
まあその前からするつもりはなかった。
結局ハーデスには散々叱られたあげく
もう今日は使い物にならないからと執務室を追い出された。
あ、いろいろ考えていたらハーデスにラティディアのことを言い忘れたな。
とにかくラティディアが私に笑う顔が見たかった。
ラティディアに会う前に両ほほをパンと手でたたいて少し微笑んでみた。
それが功を奏したのがラティディアは私の顔を見るなり先ほどの嫌そうな顔はしなかった。
笑うことはしなかったが普通に接してくれていると思う。
目の前に並べられた料理は肉料理が三皿、魚が三皿、サラダにスープ、パンも四種類くらい盛り盛りだ。
聞いた話ではラティディアは以前どこかの食事会で
「こんなに少ない料理見たこともありません。
私を誰だと思っているんですか?最低でも10品は並べて欲しいものです。」
と、言ったそうだ。
だからそれなりに用意させた。
「いつもこんなにあるんですか?」
「だって、料理が少ないと怒ると言っていたと聞いて…あいや、今日は君が記憶なくなって心細いと思うから好きなものを食べて貰おうと思ってね。」
「私、大食いだったんですか?」
何だか目を丸くして料理を見ている。
「あまり君とは食事をしたことないから分からない。」
「あら、そうなんですね。」
婚約者だからと言っても会う機会は少なかった。
いろいろなことに頭が飽和していた時に君にはいつもきつく言われた。自然と会う機会も少なくなった。
「私はこれと、これを。あ、エディシスフォード殿下の分もお取りしましょうか?」
「は??」
「あ、いえ。すみません。出過ぎた真似をしました。」
「じゃあ取ってもらおうか?」
「殿下は何がお好きなんですか?」
「やはり魚より肉かな?基本味が濃い方が好きだな。」
「塩分とりすぎになりますよ!今はいいですが歳をとると顕著に現れてきます。注意してください!」
「は??はっ…何だか料理長と同じ事を言うんだな。
あ!サラダはいらない!」
「いいえ!サラダは必ず食べて下さい。好き嫌いしてはダメです。」
「ふふふ、何だか君は私の母親だったのかな?
記憶が無くなって11歳に戻ったと思っていたけどなんかオバサン臭くなってないか?」
「常識を言っているだけです。16歳の女の子に言うセリフではありませんね。
男としてどうなんですか?モテませんよ。」
「老けたって言ったさっきのお返しだよ。ふふふ。仕方ないな。頑張って食べるよ。」
君は私の婚約者なのに私がモテてもいいか?
そんな心配を無意識にしてしまうほど私への愛情はないのか…。
何か残念な気がしてしまう。
私は彼女が初恋なのだが彼女は私のことを何とも思っていなかったのか。
彼女は無言でパンを口にしていた。
「私の記憶は戻るのでしょうか?」
少し寂し気に言う彼女に気休め程度の言葉しか思いつかない。
「申し訳ない…私は何もできない。」
「エディシスフォード殿下は充分やってくださっています。
私のためにこんなに美味しい料理を手配してくださいました。大丈夫です。何とか頑張りますから。
だってあまり一緒に食事をしたことのないエディシスフォード殿下と一緒に食事ができるのですから記憶がなくなって良いこともあります。だから気にしないで下さい。」
目の前の彼女の笑顔の中にはやはり私が嫌だと思った彼女はいない。
優しい心遣い、人の気持ちをすぐに取り込んで機転を利かせる。こういうやり取りは最初に会った時から変わらない。
彼女は変わっていなかったんだ。
私が彼女を見ていなかっただけだったのか…。
「おいしい!!!!」
ほら、君が一口でクッキーを食べた時の顔と一緒だ。
「それは食べないのか?」
私が指さしたのはなんだか緑色の怪しいスープだ。
使用人には一応ストラヴィー公爵家の料理長に彼女の好きな料理を聞いてきてもらっていた。
料理人曰くこれは絶対に欠かせません!とどうも無理やり押し付けられたらしい。
しかしこれは何だか?
さっきの飲み物と同じような雰囲気が醸し出されているが…
「何ですか?これは。もうだまされません。
見た目がおいしくなさそうです。」
やはりな…。
「見た目がだめでも美味しいかもしれないよ。」
「だったら一口殿下が先に召し上がってください!!!」
「あ、いや。私は遠慮しておく。」
「ほら!!やっぱり。私も絶対に食べません。
エディシスフォード殿下が手をつけないなら私も食べません。」
「鼻摘んだら?」
「じゃあ殿下が先にやってください。もうそんな得体のしれないもの放っておいて
こんなにもあるので残さないように頑張りましょう。」
さっきより表情が柔らかい。
やはりこれが彼女なんだ。
なんだ、私にもこんな顔を向けてくれるんだ。
嫌な気持ちを向ける相手には嫌な気持ちしか向けられない…
こんな簡単な事忘れていた。
だから彼女に対して私が穏やかに笑えばきっと彼女もそう返してくれるのだろう。
まずは私はそこからやり直さなければいけないのだな。
「ちょっと待て!今なんて言った?」
「だから残さないように頑張って食べましょうって」
「無理だろ?」
しかしラティディアは頑張って食べている。
「だってせっかく私たちのために作ってくれたんです。残してはダメです。
ましてや街ではこんな豪勢な食事なんて食べられないんですよ。
それこそ王族は贅沢し過ぎだって言われたらどうするんですか!がんばりましょう。」
「まあ、私もがんばってみるよ・・・。」
後でジェイデンから胃薬をもらおう。
ラティディアの分もいるかな?
しかし少し笑えた。
「なんかいいな。」
「なんか言いました??」
彼女はキョトンとしていた。
私はそんな彼女に優しい笑顔で微笑んだ。
すると彼女も笑った。
久ぶりに私に向けられた彼女の笑顔を見た。
そうか・・・記憶を失くしてから彼女に対して笑ったのが初めてだった。
そして彼女もそれに返してくれるのか。
久しぶりに自然に笑えたような気がする。
それも彼女がいるからだろう。
目の前の彼女が私に微笑むならいくらでも私は心から笑えるかもしれない。
自分勝手かもしれない。
でも私は彼女を手に入れたいと思う。
そう、このままの彼女を。
私は先ほど考えていた二つの内、一つ選ぶことにした。
私は彼女を離さない。
記憶を取り戻す前に何とかしなくてはいけない。
記憶を取り戻しても彼女は変わらず私に笑いかけてくれるようにするためには私は何をしなくてはならない?ひとまず彼女の信頼を取り戻すこと。
ジェイデン、申し訳ない。
お前にはやれないな。
4話終了です。
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