プロローグ
「翔!早くー!」
「もう、美月さん、人使い荒すぎ!
俺は大学帰りで他にも荷物いっぱいあるんだよ!」
もう夕日が傾きかけた田舎道。
私と息子の翔は夕飯の買い出しをして帰宅の最中だ。
旦那様とは共働きなので買い出しはすごい量だ。
二人とも両手に買い物袋をぶら下げて歩いていた。
電車の駅を降りて住宅街を抜けると田んぼが広がる。
まあ田舎だ。ひたすら川沿いの道を歩く。
家までは残り徒歩10分と言ったところだ。
残念ながら私に車の免許はない。
重いけど頑張らなきゃいけない。
落としたら卵とかはグチャグチャになってしまう。
「何か臭くない?」
「えっ?どこか畑で何か燃やしてるのよ。」
「違う…ガソリンの臭いだ。」
「えっ?」
私は絶賛花粉症中だ。鼻が効かなかった。
翔がキョロキョロと見渡した。
ちょうど斜め前にガソリンスタンドがある。
「ねぇ、翔。あそこにガソリンスタンドがあるからそこじゃない?」
そのガソリンスタンドに車が入ってきた。
あまり速度を落としていない。
少し身震いがした。
何か嫌な予感だ。
「翔!」
「美月さん!?」
私は思いっきり翔を投げ飛ばした。
その車がキキキーッと音を立てて止まった瞬間に
火花が散ったと思ったら大きな音と共に爆発した。
その爆風の勢いに飛ばされた。
「美月さん!」
翔が私に向かって手を伸ばした。
確かに翔が私をつかんだのは覚えている。
その後二人して吹き飛ばされた。
これが私の前世の記憶の最後になってしまったみたいだ。
卵…きっとゆで卵になってしまったかしら?
いやその前に割れるか。だったらスクランブルエッグか。
次に目を開けた時は私は白色の柵のベッドに寝ていた。
何か高価そう。しかしここはどこ?
むくりと起き上がった。
周りをキョロキョロ見渡した。
何だか落ち着いた茶色の調度品に高そうな絵。
壁にはよく見ないとわからない程度に同色で柄が入っている。
普通の一般家庭ではとうていお目にかかれなさそうな置物や花瓶まである。
私の家では絶対にない。病院でもなさそうだ。
もし病院だとしてもVIP対応されるような身分の名声もお金もない。
ん…私は死ななかったのか?
じゃあ翔は?翔は無事なの?
あの爆発の勢いでは無事ではすまないだろう。
私が押したことをきっとぶつぶつ文句をいわれるに違いない。
ふと自分の手を見た。
小さい?何だか自分の手が小さく見える。痩せたとかじゃなくて白くて小さな手だった。
ベッドから起き上がったら目の前に鏡があった。
何だか体が全体にズキズキしていた。
まああの爆風で飛ばされて体を打ってしまったんだろう。
何とか腰を抑えて鏡の前に立った。
何?!
銀色の髪に水色の瞳!
誰?
ペタペタと鏡を触ってみる。
やっぱり鏡だ。
じゃあ映っているのは私ね。
へっ!私?私〜?
ベッドに戻り布団をガバッと頭から被った。
もう一度寝ようと目をギュッと閉じた。
夢だ…夢だ!
これは夢だ!!
もう一度寝て起きたら戻っているはずだ。
再び目を開けておそるおそる鏡を見た。
さっきと同じだ。
10歳くらいの女の子がいるだけだ。
まあそこそこかわいい部類だろう。
目がくりくりしている。
頭に包帯が巻いてあった。
ぶつけたようで少し触ると痛い。
たんこぶができていた。
あと額にも絆創膏が張られていた。
私は鏡の前で腕を組んだ。
つまりいわゆるお決まりの異世界転生ってやつ?
まさか私がそんな夢物語に入りこむとは思わなかった。
日頃の行いが良すぎて、神様がプレゼントしてくれたのかしら。
ん…で、私は誰?
「ラティディア様!」
扉の前で椅子に座り居眠りをしていた侍女が私が起き上がったことに気づいたようだ。
彼女は慌てて扉を開けて廊下に向かって叫んだ。
「旦那様!奥様!ラティディア様がお目覚めです!」
私はラティディアって言うのね。
様付だからどこぞの貴族のお嬢様かしら?
始めにやってきて人は
緑の瞳に銀?灰色っぽい髪の背の30代くらいの男の人だった。
どこから見ても今の私の父親だろう。
「ラティ!気づいたんだ。」
そして青みがかった水色の髪に水色の瞳の同じく30歳位の女の人が私を抱きしめる。
「ああ、よかったわ。ラティ。よかったわ。」
心配している姿を見ると母親のようだ。
どうも私は父親似のようだ。
私は
ラティディア=サーチェス=ストラヴィー
公爵令嬢。11歳。
たまたま買い物で出かけた町で魔法の暴発に巻き込まれて今の状態になったようだ。
体を全身打っているためロボットのようにしか動けない。
ギシギシいっている。
そしてもう一人の私。
氷結美月25歳。
押して押して押しまくった初恋の人と3か月前に結婚したばかりだった。
いわゆる新婚!です。神様ひどすぎます!!!
旦那様は再婚で、ほとんど歳のかわらない義理の息子、翔がいた。
その翔と二人で買い物をして家に帰る途中であの爆発に合った。
どうもあの爆発で亡くなってしまいこの世界に転生したようです。
翔は助かったわよね?
旦那様はかわいい新妻を亡くして寂しがっていないだろうか?
ひとまず、転生したからには状況を把握しないといけない。
とにかく私は
ラティディア・・・ん?ラティディアって
もしかして!!!
私はもう一度鏡を覗き込んだ。
まさに銀色の髪。水色の瞳!
私が前世に読んでいた小説の中にありました。
そう私がよく読んでいた異世界転生物です。
子爵の隠し子だったヒロインが第一王子と第二王子に愛される物語。
そうラティディア=サーチェス=ストラヴィーは第一王子、エディシスフォード殿下の婚約者!
ヒロインをいじめる悪役令嬢ラティディアです。
ちょっと待って!!!!!
ひとまずどんな結末だった?
ワンパターンな小説じゃなかった?
ヒロインは第一王子と幸せになりました。
ちゃんちゃん
って違う!そこじゃない。
私が思い出さなければならないのはラティディア!!ラティディアよ!!
そう、第一王子に卒業パーティで婚約破棄されて・・あれ???もしかして。
悪役令嬢だけどバッドエンドじゃなかったわよね?
たしかにラティディアは第一王子に婚約破棄をされる。
ちょうどその時に父である公爵が悪いことをして捕まってしまう。
なんか見るからに人が好さそうで、悪いことできなさそうなんだけど・・・。
多分人が良すぎて騙されてしまうのかしらね。
爵位は取り上げ。お父様は捕まってしまう。
もともと隣国の王女だったお母様は私と弟を連れて修道院に身を隠す。
そして隣国の辺境伯様の助けを借りて何とか母国に逃げる。
そしてあれ?ラティディアはその逃亡を手助けしてくれた隣国の辺境伯に見初められて幸せに暮らしました。
って?
たしか隣国の辺境伯ってなにかの戦争で手柄を立てて爵位をもらったバリバリの騎士様ではないでしょうか?確か逃亡の場面一回しか出てこなかったけど30歳手前だったかしら?
とてもハッピーじゃないですか?
確かお父様も国外追放になり後から隣国にやってきて幸せに暮らしました。
でエンド???
いいじゃないですか!
ちょっと待って。そのエンドいただきましょうか?